前回(『繰上げ受給の減額率見直し』を学ぶ①)は、繰上げ受給の減額率見直しについて、その概要を説明させていただきました。
では、繰上げ受給をした場合の具体的な受給金額について、検証をしていきましょう。

繰上げをすることで80歳までは有利だが、81歳で逆転する

通常65歳から受け取れる老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計を200万円と仮定します。
老齢基礎年金の満額が現在約80万円ですので、老齢厚生年金が120万円程度、これを現役時代の標準報酬月額に直すと、平均して380千円程度になります。

60歳で繰上げを選択した場合、毎月その金額の0.4%ずつ減額していきます。
1年間で4.8%、5年間で24%となります。

  • 60歳まで繰上げた場合
    200万円×(100%-24%)=152万円/年
つまり、65歳で受け取るときに比べ、60歳から受け取ると、年間で48万円減額(200万円-152万円)となります。通常より早く受け取るので、仕方ないですね。

このまま年金を受給した場合、その総額の差は徐々に縮まります。以下の通り80歳までは繰上げた方が総額で多いのですが、81歳になると逆転します。

老齢年金の受け取り総額

老齢年金の受け取り総額 第7回『繰上げ受給の減額率見直し』を学ぶ②(年金・社会保険:年金を学ぶシリーズ)

ちなみに、老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計を100万円として、同じような計算を行った場合でも、やはり81歳で逆転します。81歳と言えば、だいたいの方はまだ寿命に届いていませんので、繰上げは、受給総額という点ではマイナスになると考えて良いでしょう。

健康寿命が尽きた時に受給できる金額で考える

以前、このコラムで老齢年金は「健康寿命が尽きた後の、不健康な期間を支えるもの」と書いたことがあります。自分が健康でいられなくなった時の受給額が大事なのです。

一般的な方の健康寿命が尽きるのは65歳より後ですから、健康でなくなった時点で、年金受給額に差が発生していることになります。先ほどのモデルケースの場合なら、その差額は年間48万円です。

この不健康期間は男性で約9年、女性で約12年と言われています。仮に不健康期間が10年と想定すると、不健康期間に受け取れる金額の差は48万円×10年=480万円ということになります。この差は大きいと言えるでしょう。

病気で働けないからと繰上げる前に、障害年金の受給を検討すべき

これまでのご説明から、60歳の段階で健康である場合は、繰上げという選択はその受給金額の多寡で見る限りお勧めできません。

では、60歳の段階で、既に健康でない場合はどうでしょうか。労働が困難であれば、やはり年金を繰上げて受給するのは魅力的です。

もっとも、既に働けないほど不健康であれば、老齢年金の繰上げと合わせて検討したいのが障害年金ねんきん用語集「障害年金」)の申請です。
障害基礎年金は、障害者1級で1,020,000円、障害者2級で816,000円が原則の金額となります。特に国民年金保険料を何らかの理由で支払えておらず、老齢基礎年金を満額受給できないケースでは、こちらを受給できた方が良いことになります。(2024年度年金額)

以下のグラフは満額の老齢基礎年金を5年繰り上げた場合と、障害年金2級を受給した差を示しています。この通り、歳をとるほど差が広がり、85歳時点では約500万円までその差額は大きくなります。

老齢年金繰上げと障害年金の受け取り総額の差

老齢年金繰上げと障害年金の受け取り総額の差 第7回『繰上げ受給の減額率見直し』を学ぶ②(年金・社会保険:年金を学ぶシリーズ)

また、自身が障害を負っているのに申請をしていないケースが散見されます。
特に長年健康であって、60歳前をもって急激に身体に不調をきたしている場合、それが障害にあたるとは思えない、というのも無理はありません。

しかし、障害を負っていることを認められることにより、年金法の規定による障害等級に該当した場合は障害年金が受給できることはもちろん、自治体の様々なサービスを受けられたり、課税等の負担が優遇されたりと、細かな部分まで生活がサポートされます。
障害者に対するサポートは各自治体にその相談窓口がありますので、一度お問合せをしてみてはいかがでしょうか。

老齢年金の繰上げは最後の手段。決断する前によく考えよう

このように、老齢年金の繰上げは、将来的な受給金額の総額においても、不健康期間を支えるという点にも、一般的には有利になりません。そのため、労働できるうちは、繰上げ制度を使うのはお勧めしません。

また、労働ができない状況でも、ご紹介した障害年金申請も含め、繰上げ以外の方法で生活を維持できないか、多方面に亘った検討を行ってください。

老齢年金の繰上げは、一度行ってしまうと修正できません。
そこまで検討と調査を尽くして、初めて利用できる選択ではないかと考えます。

【繰上げ受給の減額率見直し】についてもう少し学びたい方はこちらをご参照ください

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