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年金・社会保険
掲載:2019年3月15日

“目で見る”年金講座【第6回】
年金の繰上げ受給は慎重に

「老齢基礎年金を繰上げ受給しようと考えているが、手続きしても大丈夫でしょうか?」というご相談が寄せられました。一般論であれば、制度の仕組みとそのメリット・デメリットをよく理解したうえで判断してくださいと回答するところですが、今回のご相談については明らかに「繰上げ受給はお勧めできません」というケースでした。この事例をとおして、あらためて「繰上げ受給」について見てみることにしましょう。

国民年金保険料は「掛け捨て」にならない

受給期間が短いとわかっている場合の「繰上げ受給」という判断

 寄せられたご相談の内容と、その方の状況は次のようなものでした。

【相談】
義父が末期がんで余命が幾ばくもないと診断されています。義父は国民年金の保険料をすべて納めており、65歳から満額の老齢基礎年金が受け取れるはずでしたのに、1円ももらえないまま亡くなってしまうとしたら、がんばって保険料を納めてきた甲斐がありません。年金事務所に相談したところ、「繰上げ受給」の説明を受けました。減額された年金を数ヵ月程度しかもらえないのは残念ですが、何もないよりはマシなので義父に代わり手続きをしようと考えています。大丈夫でしょうか?

○相談者 : Aさんの息子の妻(義父の年金についての相談)

○Aさん : 62歳・自営業
20歳から60歳になるまでの40年(480月)、第1号被保険者として国民年金の保険料を納付済み

○Bさん : Aさんの妻(結婚して38年)
60歳・自営業(Aさんの手伝い)
60歳になるまで第1号被保険者として国民年金の保険料を納付済み(多少の未納期間あり)

 そうしますと、現在62歳のAさんは3年後、65歳になったときに満額の老齢基礎年金(月額約65,000円)を、妻のBさんは5年後、65歳になったときにやはり月額約65,000円(未納期間に応じて減額)の老齢基礎年金を受け取れることになっています。
 仮に、Aさんが「繰上げ受給」の手続きをしたのち、残念ながら半年後に亡くなられたとしたら、受取額はいくらになるでしょうか。

●62歳のAさんが繰上げ受給した場合の6ヵ月分の年金受取額

 繰上げ受給の減額率 =(繰上げ請求月~65歳になる前月までの月数)× 0.5%

※Aさんの繰上げ請求時の年齢を62歳6ヵ月、死亡時の年齢を63歳0ヵ月と仮定します。また、年金額は2019年度価格を用います。

○繰上げの月数 : 62歳6ヵ月から 65歳になる前月まで = 30月

○減額率    : 30月 × 0.5% = 15.0%

○受給率    : 100.0% - 15.0% = 85.0%

➡ 年 金 額 = 780,100円(満額)× 85.0% = 663,085円
  年金月額 = 663,085円 ÷ 12 = 55,257円(約55,300円

➡ 62歳6ヵ月~63歳0ヵ月(計6ヵ月)の年金受取額

  55,300円 × 6 =  331,800円

 すなわち、Aさんが「繰上げ受給」した場合の6ヵ月の受取総額は331,800円になります。しかし、近々お亡くなりになるとわかっているAさんについて、この「繰上げ受給」という判断は最善の選択なのでしょうか? このケースに関して言えば、答えはNOでしょう。

第1号被保険者の妻を救済する「寡婦年金」

 第3回『どんな年金が、いつ、もらえるのか?』や、ねんきんABC『遺族年金はいくらもらえるの?』などで解説されているとおり、自営業などの第1号被保険者が亡くなったときに支給される遺族基礎年金を受け取れる遺族は、「子」(18歳の到達年度の末日までにある子、または20歳未満で1級・2級の障害のある子)のある配偶者か、「子」に限られます。Aさんの遺族には、該当する「子」がいないようですので、妻のBさんには遺族基礎年金は支給されません。

 そういうことから「繰上げ受給」しかないという判断になったのでしょうか? しかし、相談者の方も言うように、「年金をもらう前に死んだら何ももらえないのであれば、がんばって保険料を納めた甲斐がない」というのは実感でしょうが、実は遺族厚生年金という保障がない第1号被保険者に保険料の「掛け捨て」が生じないよう、第1号被保険者に限った制度があるのです。

 それは「寡婦年金」と「死亡一時金」という制度です。特に寡婦年金は、まさに妻のBさんにとって非常に大きなものです。くわしくはこれから解説しますが、大事なポイントは、Aさんが繰上げ受給をしていたらBさんには寡婦年金が支給されないということです。(年金事務所にどのように相談されたのかはわかりませんが、このケースで寡婦年金の説明がなかったのは残念な気がします。)

●寡婦年金とは

◎寡婦年金は、亡くなった夫の納めた国民年金保険料が「掛け捨て」(何も受給せずに死亡)とならないように妻に支給される年金で、次の条件をすべて満たしているときに妻に支給されます。

【亡くなった夫の条件】

①国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除された期間を含む)が10年以上あること

老齢基礎年金を受給したことがなかったこと(「繰上げ受給」を含む)

障害基礎年金の受給権がなかったこと


【妻の条件】

①亡くなった夫に生計を維持されていた(年収850万円に満たない)こと

②亡くなった夫との婚姻関係(事実婚関係を含む)が10年以上あること

老齢基礎年金の「繰上げ受給」をしていないこと

◎寡婦年金が支給される期間と年金額は、次のとおりです。

【支給される期間】

○妻が60歳から65歳になるまでの間
(65歳からは妻本人の老齢基礎年金が支給される)

【年金額】

○夫が受け取れるはずであった第1号被保険者期間に基づく老齢基礎年金の額の4分の3

 上記の下線部に関連して補足説明します。

①寡婦年金は、妻に支給される年金です。同じような条件でも、妻が亡くなった場合、夫には支給されません

②寡婦年金は、第1号被保険者に限った制度ですので、保険料の納付要件も年金額も、亡くなった夫の第1号被保険者であった期間がベースになります。

③寡婦年金は、「掛け捨て」の防止が目的ですので、亡くなった夫が何も受給していないことが条件になります。なお、障害基礎年金については受給権が発生し請求申請をしたことによって、実際には1ヵ月分も受給していなくても寡婦年金は支給されなくなるという規定があります。

妻が老齢基礎年金の「繰上げ受給」をしていた場合も、寡婦年金は支給されません。「繰上げ受給」は慎重に検討したほうがいい理由がここにもあります。

●Bさんに支給される寡婦年金の額

◎寡婦年金の額は、夫が受け取れるはずであった第1号被保険者期間に基づく老齢基礎年金の額の4分の3です。Aさんが受け取れるはずの老齢基礎年金は満額の780,100円(2019年度価格)ですので、妻のBさんに支給される寡婦年金はその4分の3になります。

 Bさんの寡婦年金(年額) = 780,100円 × 3/4  = 585,075円

◎Aさんの死亡時の年齢を63歳と仮定して、2つ年下のBさんが61歳から65歳になるまでの4年間、寡婦年金を受け取るとしたら、その総額は次のとおりになります。

 Bさんの4年間の受取総額 = 585,075円 × 4 = 2,340,300円

 以上は、すべて仮定に基づく計算ですが、Aさんが「繰上げ受給」で受け取る6ヵ月分の年金総額が331,800円、妻のBさんが寡婦年金で受け取る4年間の年金総額が2,340,300円となることを考えますと、今回のご相談のケースでは「繰上げ受給はお勧めできない」という理由がおわかりいただけるのではないでしょうか。

「死亡一時金」という選択肢もありうる

 国民年金保険料の「掛け捨て」を防ぐ、もう一つの制度に「死亡一時金」があります。

●死亡一時金とは

◎死亡一時金は、年金ではなく一時金ですので、支給の条件や受け取れる遺族の範囲が、寡婦年金よりも緩やかになっています。

【亡くなった方の条件】

①国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間が3年以上あること

老齢基礎年金も障害基礎年金の受給したことがなかったこと


【受け取れる遺族】

○生計を同じくしていた次の遺族(受け取れる順序も次とおり)
①配偶者 ②子 ③父母 ④孫 ⑤祖父母 ⑥兄弟姉妹
※受け取れる遺族に年齢要件はありませんので、何歳でも受け取れます。
※遺族基礎年金を受けられる遺族がいるときは、死亡一時金は支給されません。

◎死亡一時金の額は、次のとおりです。

第1号被保険者として保険料を納めた月数 金 額
36ヵ月以上 180ヵ月未満 120,000円
180ヵ月以上 240ヵ月未満 145,000円
240ヵ月以上 300ヵ月未満 170,000円
300ヵ月以上 360ヵ月未満 220,000円
360ヵ月以上 420ヵ月未満 270,000円
420ヵ月以上 320,000円

※保険料を納めた月数は、全額納付した月数は1ヵ月、4分の1免除は4分の3ヵ月、半額免除は2分の1ヵ月、4分の3免除は4分の1ヵ月で計算します。

 Aさんは第1号被保険者として保険料を480月納めていますから、妻のBさんが受け取れる死亡一時金は320,000円になります。しかし、寡婦年金と死亡一時金はどちらかしか受け取れません。Bさんが4年間で受け取れる寡婦年金の総額は2,340,300円でしたから、寡婦年金の受給を選択されたほうがいいだろうと思われます。

【コラム】妻が死亡一時金を選択するケースとは?

 寡婦年金と死亡一時金は両方を受け取れません。どちらかを選択しなければなりませんが、死亡一時金を選択したほうがいい場合があるのでしょうか? いくつかのケースを見てみましょう。

ケース1:妻が自分の老齢基礎年金を「繰上げ受給」していたとしたら、そもそも寡婦年金を受け取ることができませんので、死亡一時金を受け取ることになります。

ケース2:寡婦年金を受け取れるのは65歳になるまでですから、65歳になるまでの期間が短い場合は、死亡一時金が寡婦年金で受け取れる額を上回るケースが出てくるでしょう。

ケース3:逆に寡婦年金を受け取れる60歳になるまでの期間が相当に長い場合、当面の生活資金の必要性から、死亡一時金を選択する方もいる可能性があります。

ケース4:亡くなった夫に厚生年金の加入期間があって、妻が遺族厚生年金を受け取れる場合、遺族厚生年金の額が寡婦年金の額を上回るケースも出てきます。その場合は、死亡一時金を選択し、遺族厚生年金を受け取るといいでしょう。

 いずれにしても、ご相談のケースでは、Aさんの「繰上げ受給」はいい選択とは言えない可能性が高いと思われます。「繰上げ受給」には、寡婦年金が支給されなくなるだけでなく、いろいろなデメリットがありますので、慎重に判断していただきたいと思います。
 次項では、「繰上げ受給」にはどんなデメリットがあるのかを見てみることにしましょう。

point

1.第1号被保険者には、国民年金保険料の「掛け捨て」が生じないように、寡婦年金と死亡一時金という制度がある

2.「繰上げ受給」をすると、寡婦年金が受けられなくなる

3.したがって、「掛け捨て」を防ぐ目的で老齢基礎年金を「繰上げ受給」することは、慎重に検討することが望ましい

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