過去2回に亘って、2022年4月から改正となった年金受給開始年齢の繰下げについて解説をしてきました。今月からは年金受給年齢の繰上げについての解説です。
この記事の目次
繰上げができる年齢(60歳~65歳)は以前と変更がありません
年金の受給開始は65歳からが原則ですが、60歳以降になると、繰上げて受給をすることが可能です。この繰上げができる年齢(60歳~65歳)は以前と変わりありません。
様々な事情により、年金を65歳よりも早く受け取りたい場合は、「老齢基礎年金・老齢厚生年金 支給繰上げ請求書」と呼ばれる書類を年金事務所に提出します。後に述べる「特別支給の老齢厚生年金」の受給対象者は別のフォーマットとなりますので、ご注意ください。
※日本年金機構HPより(PDF:319KB)」より抜粋
減額率が0.5%から0.4%に減。繰上げする年金受給者には有利に
2022(令和4)年4月からの年金制度改正により、繰上げ受給の減額率が下がります。 1ヶ月あたりの年金の減額率が0.5%から0.4%となります(昭和37年4月2日以後生まれの人が対象。つまり令和4年度以降に60歳になる方)。
※日本年金機構HPより(PDF:319KB)」より抜粋
本来の65歳という年齢より早く受け取るわけですから、当然65歳になってから受給できる金額よりも、年金額は減額されます。しかし、その減額される幅が以前より少なくなるということなので、受け取る方から見れば、悪い話ではありません。
これまで減額率が高すぎて使いにくかった繰上げ受給が、使いやすくなりました。ご自身のライフプランを立てる際に、新たな選択肢として念頭に入れておきたいところです。
厚生年金の特別支給と混同しないこと
注意事項として、「特別支給の老齢厚生年金」と混同しないことが挙げられます。
特別支給の老齢厚生年金とは、昭和60年の年金制度の法律改正により、老齢厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳になった際の経過措置として、その方の年齢によって受け取れる厚生年金を早くする仕組みを言います。既得権益の確保ですね。
2022(令和4)年現在で65歳に達していない方でも、この特別支給を受給できる方がいらっしゃいます(男性で昭和36年4月1日まで、女性で昭和41年4月1日までに生まれた方)。
この特別支給はあくまで経過措置です。老齢厚生年金と一緒に繰上げることは可能ですが、繰下げることはできません。
特別支給の受給ができる旨の年金請求のご案内は、受給開始年齢に達する3ヶ月前に日本年金機構から本人宛に届きます。年金には時効(5年)がありますので、手続きが遅れると、受給できるはずの金額を受け取れなくなってしまうかもしれません。
書類が届いたら、「特別支給の老齢厚生年金」の請求手続きは早めに行いましょう。
寡婦年金や障害年金を受けることができなくなる
年金の繰上げは使いやすくなったとはいえ、減額以外のデメリットがあることも事実です。
前提として、一度年金の繰上げを行えば、その後の変更はできません。
つまり、以下に述べるようなデメリットにぶつかったとしても、取返しがつかないのです。
例えば、繰上げ受給をしたその後に自身が障害を負った場合や、寡婦(夫と死別して再婚していない方)になった場合でも、障害年金や寡婦年金を受け取ることができなくなります。60歳から65歳というと、年齢的にも障害や寡婦のリスクがありますので、見逃せないデメリットとなります。
また、この期間に受け取る年金額は在職老齢年金の対象となりますので、働き方によっては、年金額を減額される可能性があります。
年金を早く受けったのにその分減額されたら、繰上げをする意味もかなり薄くなってしまいます。
現在の生活そのものに不安のある方には使える制度
現在は企業側に65歳までの雇用義務があります。国としては65歳まで働いてほしい、というのが本音でしょう。
一方で、健康その他何らかの理由で60歳以降に働けないケース、子どもの学費や親の介護費用負担など金銭的な問題を抱えているケースなど、個々の事情で今、年金を受け取らないと生活が安定しない、という方もいらっしゃいます。
このような方にとって、最終手段として検討できるのが、この年金の繰上げ受給制度なのです。使う場合はデメリットも含めて、本当にその制度を使うことが必要なのか、慎重な判断が求められるとご認識ください。
次回は、具体的な数字を使い、年金受給年齢を繰上げた場合と、繰り上げなかった場合との比較検証を行い、繰上げ受給の生活に与える影響を検証していきます。