2020年年金改正のポイント解説、最終回の今回は「繰下げ受給可能年齢の選択肢の拡充」です。老齢年金は、本来の受給開始年齢は65歳で、70歳を上限として繰り下げて受け取り始めることができるのですが、2022年4月から、この上限年齢が75歳までに引き上げられることになりました。その内容をくわしく見てみましょう。

2繰下げ受給を検討する際の注意点

額面ほど手取り額は増えないことに要注意

 繰下げ受給を考えるにあたっては、いくつか注意すべき点があります。

①増えた年金がそのまま手取り額の増額とはならない

 75歳から繰下げ受給をした場合、「年金額は1.84倍になる」「87歳より長生きすると本来受給の受給総額を上回る」と説明してきましたが、これはあくまで額面上の計算です。
 実際は、年金が増えた分だけ、税金(所得税や住民税)と社会保険料(国民健康保険料や介護保険料)も増えます。税金や社会保険料は、その他の収入の有無や家族状況、各種控除など、また自治体によっても変わってきますので簡単には計算できませんが、年金額が増えるほど手取り額への影響が大きくなるのは間違いありません。したがって、「損益分岐点」も87歳ではなく、本来の年金額によりますが、91歳程度まで後ろにずれ込むことになります。

②加給年金額が支給されない

 厚生年金保険に原則20年以上加入している人の老齢厚生年金には、その人に生計を維持されている配偶者や子がいる場合、加給年金額が加算されます(配偶者の加給年金額が加算されるのは、配偶者が65歳になるまでです)。しかし、繰下げをしても「加給年金額」が増額されることはなく、また、繰下げを待機している期間(65歳~繰下げ受給の開始まで)に「加給年金額」のみを受け取ることもできません。昭和18年4月2日以後生まれの受給権者の場合、配偶者分で年額390,900円(特別加算額166,000円を含む)の加算が支給されないことになります。(※「加給年金額」については第15回を参照してください。)

③在職老齢年金による支給停止分は増額の対象外

 働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、給料の額に応じて年金の一部あるいは全額が支給停止される場合があります。この制度のことを「在職老齢年金」といいます。(※「在職老齢年金」については第17回を参照してください。)
 在職老齢年金制度により支給停止される分は、繰下げしても増額されません。
 たとえば、65歳のAさん。本来の年金が180万円(月額15万円)で、月給(総報酬月額相当額)48万円で働く場合、年金は月額8万円が支給停止(支給分は月額7万円)になります。「年額96万円(8万円×12月)も支給停止されるなら繰下げ受給にしよう。70歳からの受給にすれば42%増の年金が受け取れる」と考えました。しかし、本来の年金額180万円が42%増の255万6千円になるわけではありません。支給停止された96万円は増額の対象外です。在職老齢年金で支給された84万円(7万円×12月)の42%(約35万8千円)が増額され、70歳からの支給額は215万円8千円になります。在職者が繰下げ受給を検討する場合は、このことをよく理解しておくことが重要です。

point

◎繰下げ受給を検討する際には、「増えた年金がそのまま手取り額の増額とはならない」「加給年金額が支給されない」「在職老齢年金による支給停止分は増額の対象外」といった注意点をよく理解することが重要である

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