障害年金について学ぶシリーズ、いよいよ最終回です。
今回は「よくある障害年金に関するQ&A」です。
皆さんと一緒に学んでいきましょう。

【障害年金 Q&A①】
病院を繰り返し変えている場合の初診日について

病院を繰り返し変えているのですが、どこを初診日とすれば良いのですか?

初診日は病名が確定したときではなく、障害の原因となった傷病について、初めて医師等の診療を受けた日です。最初にかかった病院で証明書を取り付ける等、できるだけ資料を揃えて初診日を確定する必要があります

「障害年金 Q&A①」について解説します

最初、障害とは思わず、なんとなく病院に行ったけど、その後にそれが悪化して障害状態になるということはよくあります。
その場合、最初の受診が障害の初診とは思わなかったし、実際その段階では違和感だけで障害とは言い難かったとしても、その最初の診察日が初診日になるのです。
そんな大ごとになるとは思っていないから、その時の診断書などの書類なんて残っていないという方は多いですし、その気持ちはよく理解できます。

しかしながら、初診日を確定しなければ障害年金は受給できません。
例えば、最初はA病院で医師の診療を受けていたけど、今は転院してB病院で診療を受けている場合、A病院に書類が一切残っていないというケースがあります。
その場合は、A病院での第三者による初診日の証明を検討します。
第三者の証明では、当事者を以前から知っている方に、発症当時の状態やエピソードを具体的に挙げてもらい、それを申立書に記載してもらいます。次に転院したB病院で受診証明を取り、申立書と受診証明をセットにして提出します。

※詳しくは、年金を学ぶ【第12回】『障害年金』を学ぶ④~障害年金 こんなときどうなるの?~をご覧ください。

なお、整骨院、ほねつぎ、鍼灸院などは初診日としては認められません。
また、健康診断を受けた日も原則は初診日とはなりません。
ただし、初診日の医師証明が受けられない場合であって、医学的見地からただちに治療が必要とされるような健診結果であれば、申し立てをもって健康診断を受けた日でも初診日として認められることがあります。

【障害年金 Q&A②】
国民年金を払っていない場合

実は国民年金払っていないんだけど‥‥

障害年金を受け取ることはできません。
「きちんと保険料を納めている人しかもらえない」というルールがあるからです。

「障害年金 Q&A②」について解説します

障害年金を受け取るためには、下記の①と②のどちらかをクリアしなければなりません。

①初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間等を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。

②初診日が令和8年4月1日前にあるときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと。

上記の内容を「保険料納付要件」といいます。
国民年金を納めていない場合は、「保険料納付要件」を満たしていないため、障害年金を受け取ることができません。
また、病院にかかった後からさかのぼってまとめて納めたとしても、認めてもらえません。

それでは、生活が困難なため保険料を納めることができない場合はどうでしょうか。
保険料が給与から天引きされるサラリーマン(第2号被保険者)や保険料負担のない専業主婦(第3号被保険者)の方は、保険料が払えないという事態は発生しません。
しかしながら、自ら保険料を納付する第1号被保険者には、その可能性があります。

そのような場合は「保険料免除制度」を利用します。
「保険料免除制度」とは、保険料の支払いの全額または一部が免除になる制度です。
また、制度には生活保護を受けている場合などの法定免除と、退職などで所得が一時的に下がったり収入減になったりした場合の申請免除、学生が対象となる学生納付特例制度があります。
申請免除と学生納付特例制度は年金事務所などに申請を行うことが前提です。
この申請をしておくことで、障害年金の仕組みでは保険料の支払要件において、保険料を支払ったものと同じ効果が出るのです。

なお、この免除申請を初診日後にしても、支払要件を満たすことになりません。免除申請は初診日前に行っておく必要があります。

ちなみに老齢年金においても、免除申請をしておく方がしないよりも多くもらえますし、追納できる期間も多くなります。
当然、追納を行えば、後から受け取れる年金も増えることになります。
これらの納付免除申請を行うデメリットは無いと言って良いでしょう。

障害年金を受給するための支払要件フローチャート

※1初診日がある月の前々月までの被保険者期間。納付済期間に厚生年金保険等への被保険者期間を含む。

※2初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間

 

【障害年金 Q&A③】
傷病手当金と障害年金の同時受給について

傷病手当金と障害年金は同時に受給することはできますか? 

傷病手当金と障害基礎年金は同時に受給できます。しかしながら、併給調整というものが行われます。

「障害年金 Q&A③」について解説します

傷病手当金とは、健康保険に加入している方が傷病により仕事ができなくなった時に、その生活を支えるために支給されるものです。
1日あたりの支給額はおおよそそれまで受け取っていた給与の3分の2です。

また、併給調整とは、傷病手当金と障害厚生年金との日額を比較して、支給する金額を決めることです。
障害厚生年金の方が多い場合は、傷病手当金は支給停止となります。
また、傷病手当金の方が多い場合は、障害厚生年金と傷病手当金との差額が支給されます。

障害厚生年金の日額と傷病手当金の日額の併給調整

つまり、最終的には併給調整とは言っても、傷病手当金か障害厚生年金か高い方の金額を限度として受給できるということになります。

なお、上記の解説はあくまで同一傷病の場合です。違う症状で傷病手当金と障害厚生年金を同時に受給できる場合は、併給調整はありません。

 

ここからは、
障害年金を現在受給中の方からの「よくある質問」です。

 

【障害年金 Q&A④】
障害の状態が重くなった場合の障害年金の受給金額について

障害の状態が重くなったときは、どうなるの?

障害の程度に応じて障害年金の額が改定されます。
一度決定した障害年金の等級であっても、その症状が変わる(重くなる)ことがあるからです。

「障害年金 Q&A④」について解説します

障害の状況というのは、変わることがあります。
それは、必ずしも固定したものではないからです。

「これから先、症状が重くなったら‥」心配ですよね。
そのような場合、従前の等級以外の等級に該当すると認められるときは、その障害に応じて改定されます。ご安心ください。

改定の方法は、定期的に提出する診断書で行います。もっとも、そのタイミングに限らず、障害の程度が重くなった場合は、その旨を申し立てることも可能です。

なお、原則、障害年金を受ける権利が発生した日、または障害程度の診査を受けた日から1年を経過した日以降でないと、この額改定請求(*)を行うことはできません。

(*)額改定請求… 障害の程度が以前に比べて重たくなった際は、その旨を申し立てることにより年金額の請求を行うこと。

ただし、例外として、1年を待たずに改定することが可能です。それだけ緊急を要する症状になったとき、と理解できます。

障害年金を受けている方

旧法の障害年金を受けている方


《障害年金額の改定の申請》
「障害給付 額改定請求書(*)」に診断書を添付のうえ、年金事務所に提出します。
障害年金を受給しているということは、既に障害状態にあって、医師と定期的に面談をしていると思います。
いざとなれば額改定できるということを念頭に入れておいて、損はありません。

(*)「障害給付 額改定請求書」(日本年金機構ホームページより)

 

【障害年金 Q&A⑤】
20年間「障害基礎年金」と「障害厚生年金」を受給中の方が65歳以上になった場合

「障害基礎年金」と「障害厚生年金」をもらいながら、20年間、会社(厚生年金加入)で働いています。65歳になったら、私の年金はどうなるのでしょう?

年金は2つ以上の支給事由(本件の場合は「老齢」と「障害」)に該当した場合は、いずれか1つの年金を選択しなければなりません。
これを「一人一年金」の原則といいます。
ただし、65歳以降は特例が認められています。

「障害年金 Q&A⑤」について解説します

日本の年金制度は1階が国民年金、2階が厚生年金保険の「2階建て」構造です。
例えば、老齢給付の場合には、①「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」という2つの年金は同時に受け取ることができます。「老齢」という同じリスクに対応する年金だからです。
現在、受け取っている②「障害基礎年金」+「障害厚生年金」も同じ事由で支給される1つの年金とみなされます。

本件のように、2つ以上の支給事由に該当した場合は、いずれか1つの年金を選択することが原則です。これを「一人一年金」の原則といいます。

ただし、この原則は65歳以降になると特例が生じます。
「65歳以上」という条件のもと、支給事由が異なる年金でも併給することができます。そのため、③「障害基礎年金」+「老齢厚生年金」の組み合わせが可能になります。
その結果、65歳以降は上記①②③の3パターンから、ご自身が一つ選択することになります。

65歳になる少し前になりましたら、「障害年金と老齢年金、どちらが多く年金を受け取れるのか?」、最寄りの年金事務所等でご確認ください。
また、選択される際には税金についてもお考えください。
老齢年金は所得税がかかりますが、障害年金は税金がかかりません。こちらは重要なポイントです。

 

《65歳以降の年金》⇒いずれかを選択できます。

日本の年金制度は1階が国民年金、2階が厚生年金保険の「2階建て」構造です。《65歳以降の年金》⇒いずれかを選択できます。

 

【障害年金 Q&A⑥】
障害年金を受給中に労働した場合、その分の年金は減るのかどうか

障害年金をもらっていますが、働いたら年金は減らされますか?

原則、障害年金は所得による制限はありません。
そのため、働いて得た収入により障害年金が減額されることはありません。
しかしながら、所得制限される年金もありますので、注意が必要です。

「障害年金 Q&A⑥」について解説します

障害年金には、原則、所得による制限は設けられていません。
ただし、2つだけ例外があります。
それは、「20歳前の傷病による障害基礎年金」「特別障害給付金」です。
こちらの受け取っている方は、所得による制限が設けられています。

「20歳前の傷病による障害基礎年金」とは、20歳に達する前に初診日(初めて医師の診療を受けた日)がある方で病気やケガによる年金法上の障害等級1~2級に該当する場合に支給される年金です。初診日が20歳前であることから、年金保険料を納付した実績がないため、所得制限が設けられています。
また、「特別障害給付金」とは、初診日において国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金を受給できない方を救済するための措置です。
例外として所得制限が設けられているのは、福祉的な給付金だからです。

『働いて給与を得る』ということは、経済的な安定へつながります。ご体調に合わせて働くことは好ましいことです。
ただし、障害年金は、その障害により勤労収入を得ることが出来ない方のためにある制度でもあります。
また、障害年金は永久に受給できる制度でもありません。
障害が軽くなれば、当然、年金は打ち切られます。

そのため、必要なことは、気軽に相談できる窓口を見つけておくことです。
例えばですが、働く前に、市区町村の国民年金窓口担当の方や福祉相談員等、障害年金でお世話になっている方々へ事前に相談されてはいかがでしょうか。きっと、応援してくださると思いますし、アドバイスももらえると思います。
大切なことは一人では決めない、そして、決して一人で悩まないことです。

 

障害年金を知るということ

障害年金という仕組みは、それだけ障害者も社会の一員として大事である、というメッセージであると私は考えております。

障害年金を知るということは、それだけ障害について関心を持つということです。
関心を持つ方が多ければ多いほど、年金制度だけではなく、障害者のための仕組みをより良くしようという社会的な雰囲気につながります。

私たち社会保険労務士は、その伝達者として、今後も障害年金についての発信を続けていくでしょう。

これまで「障害年金」を5回シリーズで皆様と学んできました。
このコラムをお読みいただいた皆様が、障害年金について関心を持つこととなれば嬉しいです。
また、周りの方に障害年金についてお話をして、障害者の制度に関心を持つ方を増やしていただきたいと願っております。

 

【障害年金】について、もう少し学びたい方は「くらしすとEYE」をご参照ください。

ねんきんAtoZ 障害年金はいくらもらえるの?
ねんきんAtoZ 障害年金の支給要件と支給額の計算

- 次回予告 -

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