2023(令和5)年度になりました。
年金の事業は4月~翌年3月の年度を1つの単位として行われているものが多く、年金額についても例外ではありません。
このたび、2023(令和5)年度の年金額が決定しましたので、今回はそのご紹介です。
この年金額改定が、年金を受ける方にとって最初に実感するのは、4月分および5月分を受け取る6月15日から、ということになります。
※「年金額改定の基本ルール」は、ぜひこちらの「くらしすとEYE:『年金額の改定ルール』を学ぶ」のコラムもご覧ください。
今回は、このルールを受けて、2023(令和5)年度にどのように変わるのか、解説いたします。
この記事の目次
老齢基礎年金、老齢厚生年金ともに増額
国民年金の「老齢基礎年金」の満額は、以下の表の通りのアップとなりました。
令和4年度《月額》 | 令和5年度《月額》 | 増加額 | |
---|---|---|---|
新規裁定者満額 (67歳以下) |
64,816円 | 66,250円 | 1,434円 |
既裁定者満額 (68歳以上) |
64,816円 | 66,050円 | 1,234円 |
食料品や電気代、ガス代などの相次ぐ値上げ‥‥。
2020(令和2)年からの物価上昇は、第2次石油危機(オイルショック)以来の高水準です。
これだけ物価上昇が続いているのだから、年金額もアップしなければ、おかしいだろうと直感的に感じたと思います。
その感覚は正しいです。
図7 指標の動き
※2020年を100とした消費者物価指数 総務省HPから抜粋
年金の改定額は、毎年総務省から公表される「平均全国消費者物価指数」を受けて決定されます。正確には、2~4年度前の賃金と前年の物価のそれぞれの変動割合で決まるのですが、このうち最後に決まるのがこの前年の物価変動なので、上記の物価指数が出た後に、年金額の改定がされることになります。
また、今年は67歳以下の「新規裁定者」と68歳以上の「既裁定者」で、その受け取れる金額に少し違いがあります。
年金は、受給者を「新規裁定者(新たに年金をもらい始める人)」と「既裁定者(既に年金をもらっている人)」の2つに分けています。
これは名目手取り賃金変動率が物価変動率を上回る場合、「新規裁定者」の年金額は名目手取り賃金変動率を、「既裁定者」の年金額は物価変動率を用いて改定することが定められているためです。
もう少し、わかり易く言いますと、「新規裁定者」は現役世代に近いため、現役世代の収入の動きに近い「賃金変動率」を、「既裁定者」は年金額の実質的な価値を維持するために「物価変動率」を利用して改定します。
下の表は過去のコラムでもご紹介した、年金額の改定ルールを図にしたものです。
賃金上昇と物価上昇のトレンドによって、6つのパターンに分かれます。
今回は、物価も賃金も上がっています。
そして、物価上昇率よりも賃金上昇率の方が高いので、下図でいうと「①」のパターンになります。
つまり、「①」のパターンとは、比較的最近まで賃金を得ていた人は、賃金上昇が世の中としてトレンドであれば、その恩恵に預かっても良いだろう、と考えると理解しやすいと思います。
また、厚生年金から受け取れる「老齢厚生年金」も同様に増額となります。
「老齢厚生年金」は、それまでの収入に応じた保険料の総額で金額が決まりますので、「老齢基礎年金」とは違って、どのくらい増額になるのかは言うことができません。
厚生労働省は、平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で40年間就業した場合、受け取り始める年金は月額224,482円になると試算し、前年度からは4,889円アップするとしています。
障害年金も同じ計算方法で増額
障害年金もこの改定に合わせて増額となります。
なお、障害基礎年金1級は2級の1.25倍です。
1級 | 2級 | 子の加算額 | |
---|---|---|---|
新規裁定者満額 (67歳以下) |
993,750円 | 795,000円 | 2人まで 1人につき228,700円 3人目以降 1人につき76,200円 |
既裁定者満額 (68歳以上) |
990,750円 | 792,600円 |
マクロ経済スライドによる調整
世の中の物価や賃金が上がり、それに伴い年金額も上がっています。
しかしながら、今一つ、実感がわかない‥‥。
それは、今回の年金額改定には「マクロ経済スライド」による調整が行われたことに起因しています。
「マクロ経済スライド」とは、2004(平成16)年の年金制度改革時に導入された公的年金の給付額を抑制する制度のことです。
少子高齢化の進展により年金の担い手が少なる一方、平均余命の伸びによる年金受給者は増加しています。
そのため、現役世代の負担が過重にならないよう、限られた財源の範囲内で給付額の水準を抑える役割を「マクロ経済スライド」が担っているのです。
2023(令和5)年度の年金額は、「新規裁定者(67歳以下)」は名目手取り賃金変動率(2.8%)、「既裁定者(68歳以上)」は物価変動率(2.5%)を用いています。
「新規裁定者」の年金額算定に使用する賃金変動率は、2~4年度前の平均(3年度平均)をもとに計算するため、65歳になる直前までの賃金変動を反映させるためには67歳までの期間を対象とする必要があるからです。
また、今回は、「マクロ経済スライド」による調整(▲0.3%)と2021(令和3)年度・2022(令和4)年度の「マクロ経済スライド」未調整分による調整(▲0.3%)が行われました。
その結果、本年度の年金額改定率は、「新規裁定者」は2.2%(2.8%-0.6%)、「既裁定者」は1.9%(2.5%-0.6%)となったのです。
年金額は物価ほど増えていないので、「今一つ、実感がわかない」と思ってしまうのもしれません。
2023(令和5)年4月からの年金額改定(イメージ)
在職老齢年金や国民年金保険料なども改定に
60歳以上で老齢厚生年金を受給している場合、賃金(賞与込みの月収)と年金の月の合計額が基準となる支給停止調整額を上回ると、賃金の増加2に対し年金額1の割合で支給停止する仕組みを「在職老齢年金」と言います。
この支給停止調整額が2022(令和4)年度の47万円に対して、2023(令和5)年度は48万円となります。つまり、少しだけ年金にプラスして稼げる金額が増えたことになります。
60歳未満の方にも影響があります。
納付する国民年金保険料の月額が2022(令和4)年度の16,590円から、2023(令和5年度は16,520円となります。
あれ、下がっている?
これは前年度の保険料改定率がその保険料額の決定に影響するためです。
ちなみに、今年度の保険料改定率は既に出ているため、2024(令和6)年度の国民年金保険料も決定しており、16,980円と今度は上がることになっています。
その他、各種給付金も物価変動に基づいて同様に改定があります。
「くらしすと」では、2023(令和5年)度の年金改定額について、一覧にまとめています。ぜひ、ご覧ください。
改定にはルールがある
2023年度は物価上昇や賃金上昇に合わせて、年金や給付金もこの解説の通り増額される予定です。
ただし、決して誰かが鉛筆をなめながら金額を決定しているわけではなく、元からあるルールに従って行われるものなのです。
この物価上昇の世の中において、年金額の上昇幅が足りないと感じる方はいるかもしれません。それに意見することに異を唱えるつもりはありませんが、建設的な議論をするのであれば、単純にもっと上げろという声高な主張ではなく、その改定ルールを大枠だけでも理解しつつ、ルールのどこに問題があるのかを指摘していくことが大事です。
より適切な年金支給の一助になるように、少しでも年金改定の理解に繋がれば幸いです。