前回の解説にて、「家族信託」は「成年後見制度」・「遺言」と機能が重なる部分があると申し上げました。
また、それぞれの制度を『使い分けることが重要』ともお話ししております。
今回は、それぞれの制度の特徴について、もう少し詳しく解説を行います。
そして、どのように使い分けることがベストなのか?その点を考察していきたいと思います。
『家族信託』・『成年後見制度』・『遺言』の特徴
◆家族信託
「家族信託」は、その名のとおり“家族”による財産管理方法です。
もう少しカンタンに申し上げれば、財産の管理、運営、処分の方法を『家族』に任せる方法です。
ただし、家族といえども『契約』が必要です。
また、契約内容は「財産権(財産から利益を受ける権利)」と「財産を管理運用処分できる権利」の2つに分け、後者だけを子どもに渡すことも可能です。
例えば、土地や建物の所有者である親が認知症を患い、介護が必要な状態になると自分で財産管理ができなくなってしまいます。
「そんなときは、子供が親のために管理するのが当然では?」
そう考えるのが一般的ですが、実際、手続きする段になると“本人の同意”がないとできないものが多いのです。
「家族信託」は、子どもが親のために、親から信託された財産管理や運用、または処分をすることができる制度です。
契約の内容を自分で設定することができるので柔軟な財産管理ができ、また、介護時にトラブルが多い口座凍結についても、事前に契約を締結していれば、そのリスクを回避することができます。
ただし、契約締結時に親が認知症を発症していないことが条件です。
普段の親との小まめな話し合い(コミュニケーション)が必要で、親が認知症を発症してからでは遅いのです。
◆成年後見制度
「成年後見制度」とは、“判断能力が低下した本人のため”に契約などの法律行為のサポート役を選任する制度です。
知的障害や精神障害、認知症が発症したために判断能力が不十分な方や不安がある方は、預貯金や不動産などの財産処分や管理、また、介護サービスの契約や遺産分割協議などの各種契約をすることが難しくなります。このような方々を保護、支援する「セーフティネット」の役割があります。
例えば、家族が遠方に住んでいる場合等、財産管理だけでなく身上監護を行う必要がある場合は、この「成年後見制度」を使うと便利です。
また、認知症の進行などで判断能力を失っている状態であっても、裁判所の審判があれば利用することができます。
成年後見制度 | ||
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身上監護 | 生活・医療・介護などの契約手続きを進める法律行為を行います。 | |
財産管理 | 預貯金・収入支出・金融商品の管理を行います。 |
なお、「成年後見制度」は、保護の任に就く人の権限などが法律で決められている「法定後見制度」と、保護される人が契約により権限などを柔軟に決めることができる「任意後見制度」の2つの種類があります。
🔳法定後見制度
知的障害・精神障害・認知症などで判断能力が不十分だったり、ひとりで決めることに不安や心配な人がいる場合、近親者などが裁判所に申し立てることによって、保護者を選任する制度です。
財産の処分や管理の決定権がある一方、医療行為の決定権や手術を受けるか否かの決定権はないことに注意が必要です。
また、保護の程度によっては、「後見」「保佐」「補助」の3つ分かれていることも特徴の一つです。
法定後見制度の種類
法定後見の種類
補助 | 保佐 | 後見 |
【対象となる人】
判断能力が不十分 【補助人にできる事】 裁判所から認められた行為の |
【対象となる人】
判断能力が著しく不十分 【保佐人にできる事】 裁判所から認められた 一定の |
【対象となる人】
判断能力が欠けている常況 【後見人にできる事】 全ての契約などの |
🔳任意後見制度
将来的に認知症になった時に保護者をつけたいと思っている方が、保護者になってもらいたい人と契約をしておくのが、この「任意後見制度」です。
ご自身で保護の程度や権限を決めておくことができ、ご自身の意見や希望が尊重・反映される点が大きな利点と言えます。
また、任意後見人を選任する場合は、任意後見人を監督する立場である任意後見監督人が家庭裁判所から選出されます。 任意後見監督人には、弁護士や司法書士等の専門家が選任されるケースが多く、任意後見監督人は任意後見人の業務が契約の内容に従って行われているか監督し、家庭裁判所に報告するなどにより、家庭裁判所から監督されることになるのです。
ただし、成年後見制度は家族が望む人が後見人に選ばれなかったり、例え、家族が選任されたとしても精神的・時間的負担が大きい等、問題点が指摘されるケースもあります。
利用を検討される場合は、制度を「正しく理解」し、「適切に利用」することが求められます。
◆遺言
遺言でも「相続方法」を指定することができます。
具体的には、法定相続分以外の割合で遺産を分け与えたり、特定の遺産を特定の相続人や相続人以外の人へ受け継がせたりすることができます。
それは、法律においては「遺言によって指定された相続方法は法定相続に優先する」と規定されているからです。
また、遺言は相続内容を多様に決めることができます。
例えばですが、遺言書があれば相続分や遺産分割方法の指定ができるほか、遺贈、寄付、遺産分割の禁止(ただし5年以内)、認知、相続人の廃除、保険金受取人の変更、遺言執行者や遺言執行者の指定等も可能です。
ただし、遺言書の効力は遺言者が亡くなってからになります。
そのため、財産は遺言者自身が保有し続けることになり、財産管理自体は遺言者自身が亡くなるまでしなくてはいけないことになります。
次回は「家族信託」を詳しく解説
今回は、3つの制度、「家族信託」・「成年後見制度」・「遺言」についての、その概要をお話しました。
次回は「家族信託」をフォーカス して、もう少し詳しく解説します。
前述のとおり、「家族信託」は親のために子が財産を管理する制度です。
親御さんが元気なうちに契約をしておけば、いざとなった時に親の財産を売却して介護施設等の入居費に充てるという事も可能になります。
次回もご期待ください。
本記事に記載されている情報は、公開時点でのものであり、時間の経過と共に変更される可能性があります。記載されている内容は一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的アドバイスを提供するものではありません また、業界間の問題が発生しないように注意を払って作成されていますが、個別の法的問題や疑問に関しては、専門家にご相談いただくことをお勧めします。
執筆者プロフィール
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行政書士
鈴木義典(すずきよしのり)
大手金融機関に就職後ファイナンシャルアドバイザーとして独立しました。クライアントの法律問題を解決すべく、行政書士の資格を取得し開業しました。「お客様の権利を守り、未来を創る」を指針に活動しています。
- 次回予告 -
委託・受託・受益者とは?
~家族信託の基礎知識~
次回、くらしすとEYEの未来へのしおり【第6回】では、
委託・受託・受益者とは?~家族信託の基礎知識~
を更新予定でございます。
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