前回に引き続き、2024(令和6)年度で改定される年金額について解説をさせていただきます。
前回は「老齢年金」と「年金額の改定ルール」を中心に解説しました。今回は、それ以外の改定内容です。
では、早速、みていきましょう。
この記事の目次
在職老齢年金も少し上がります
「在職老齢年金」とは、仕事をして給与(報酬)を受け取っている年金受給者である場合、もらっている給与の額と年金額によっては、年金が減らされる仕組みです。
「在職老齢年金」の受給というとプラスアルファのイメージですが、実質的にはマイナスされることを表していると言えるでしょう。
正確には、毎月の給与(ボーナスも含みます)と年金の合計額が、支給停止額(「支給停止調整額」といいます)を上回る場合には、受け取る年金額が支給停止されます。
つまり、働いた分年金が減らされるわけですが、逆に言えば、働かない方が手取増になるような逆転現象は起こりません。
その「給与+年金」の合計の基準が2023(令和5)年度は48万円であった金額が、2024(令和6)年度は50万円に改定されました。
◆【在職老齢年金の支給停止調整額】
2023(令和5)年度 | 2024(令和6)年度 | |
支給停止調整額 | 48万円 | 50万円 |
※厚生労働省:「令和6年1月19日プレスリリース」より抜粋
私の経験上、この「在職老齢年金」の上限を気にする方は、役員報酬を受けている経営者が多いように思えます。
一般的に年金を受ける世代の方は、嘱託等による限られた時間で業務をする方が多いと思います。
そのため、50万円の基準額を超えてしまうという方は、あまりいらっしゃらないとも思われますが、そうは言っても制度は制度ですから、高給を受け取っている方にとっては年金が減らされるという事態になります。
ただ、建設や内装といった技術職だと、年齢にかかわらず技術が衰えない限り働くという選択をする方も増えています。
そうなると現役世代並みの給与を受け取ることになるので、在職老齢年金の上限額に気を付けた方がよいでしょう。
あるいは年金受給の繰り下げをして、将来の受け取りを増やすことも検討できます。
障害年金も変更となります
障害年金も増額となります(※)。こちらも前回ご説明した上昇率(2.7%)が適用されます。
なお、障害基礎年金1級は2級の1.25倍です。
◆2024年度 障害基礎年金の年金額
1級 | 2級 | 子の加算額 | |
---|---|---|---|
新規裁定者 (67歳以下) |
1,020,000円 | 816,000円 | 2人まで 1人につき234,800円 3人目以降 1人につき78,300円 |
既裁定者1 (68歳) |
1,020,000円 | 816,000円 | |
既裁定者2 (69歳以上) |
1,017,125円 | 813,700円 |
また、「障害厚生年金」は人により受給額が変わりますが、概ね2.7%上昇するとお考え下さい。
なお、障害厚生年金3級の最低保障額は年額612,000(月額51,000 円)、昭和31年4月1日以前生まれの方は年額610,300円(月額50,858円)と、こちらも増額しています。
配偶者の加給年金、子の加算は234,800円(月額19,566円・3人目以降は6,525円)となります。こちらも微増ですね。
(※)障害年金の詳しい内容につきましては、弊協会サイト:『障害年金』を学ぶ③~障害年金の金額について~をご参照ください。
遺族年金の考え方は障害年金と同じ
遺族年金も考え方は同じです。
◆遺族基礎年金の年金額
遺族基礎年金 | |
---|---|
新規裁定者(67歳以下) 既裁定者1(68歳) |
816,000円 |
既裁定者2(69歳以上) | 813,700円 |
遺族基礎年金額は、上記にプラスして「子の加算」があります。
詳しくは弊協会サイト:『遺族年金を学ぶ』③~遺族年金の金額について(いくらもらえるの?)~をご覧ください。
その他各種給付金も軒並み上昇します
その他障害者を含め、様々な困難な状況にある方に対する給付も上昇します。
これらの給付は物価変動に応じた改定ルールがあり、令和6年度は令和5年の物価変動率に基づき、3.2%の引き上げとなります。
「くらしすと」では、2024(令和6)年度の年金改定額について一覧表でまとめています。印刷され、お手元に保管してお使い下さい。
※Topics:「2024(令和6)年度の年金額改定一覧表」
改定後の年金額の受け取りは6月14日
年金の事業年度は4月から翌年3月までであり、また年金は2ヶ月分が、偶数月の15日(金融機関休業日の場合は前日)に後払いになります。
つまり、金額が改定された4月分と5月分の支給が6月14日になるということです。
年金が振り込まれましたら、金額がちゃんと改定されているか、ぜひ確かめてみてください。
令和6年度に向けて
改定ルールを深掘りしていくと、それこそ沼のように奥深く沈んでいきます。
限られた紙面の中でわかりやすくしようとすれば、それはどこかを略さないといけません。
このコラムを書くときも、できるだけ多くの方にお役に立てるようにすることと、略することでわかりやすくすることとのバランスにいつも気を遣っています。
年金を受給されている皆様、これから受給する皆様のお役に少しでも立つことができていれば嬉しいです。
これからも引き続きよろしくお願いします。
執筆者プロフィール
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特定社会保険労務士
村田淳(むらたあつし)
ソフトウェア会社のコンサルタントを経て平成29年に開業。産業カウンセラーの資格を持ち、主に10人未満の企業を中心に、50社以上の顧問企業から、毎日のように労務相談を受けている。「縁を大事にする」がモットー。
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特定社会保険労務士
林良江(はやしよしえ)
板橋区役所年金業務に10年以上携わり、現在も同区資産調査専門員として勤務しながら、令和4年より障害年金を中心に事務所を開業。「ひまわりの花言葉;憧れ・崇拝・情熱」が自分のエネルギー源。
- 次回予告 -
「在職老齢年金」をもっと学ぶ①
~2024(令和6)年度の改正点と事例~
次回、くらしすとEYEの年金を学ぶ【第28回】では、
"「在職老齢年金」をもっと学ぶ① ~2024(令和6)年度の改正点と事例~"
を更新予定でございます。
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