労働者が70歳まで就業できる機会の確保について事業主に努力義務を求める改正「高年齢雇用安定法」が2021年4月より施行されます。こうした環境の整備も相まって、今後ますます働き続ける高年齢者が増えていくものと思われます。今回は、厚生年金保険や健康保険など、高年齢者の社会保険がどのように扱われているのかについて、国民年金の場合も含めて解説します。
1「70歳到達届」の提出が必要な場合・不要な場合
厚生年金保険は70歳まで
日本の年金制度は、1階が国民年金、2階が厚生年金の「2階建て」だと言われます。国民年金の加入年齢は、原則として20歳から60歳になるまでですが、厚生年金保険はどうでしょう?厚生年金保険は、加入の下限年齢が設定されていません。会社に入社した時点からの加入となります。また、会社を退職したときには脱退することになります。退職しなくても、70歳になると加入者の資格を失います。正確には、退職日の翌日、また、70歳の誕生日の前日に厚生年金保険の資格を喪失します。(※「高齢任意加入」については次項を参照のこと)
【図表1】厚生年金保険の資格取得日と資格喪失日
資格取得日 | 入 社 日 | 下限年齢はなし
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資格喪失日 | 退職日の翌日 |
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70歳の誕生日の前日 |
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入社したときには「被保険者資格取得届」を、退職したときは「被保険者資格喪失届」を、事業主が日本年金機構へ提出します。一方、70歳に到達したときの資格喪失の手続きは次のようになります。
70歳到達日に標準報酬月額が変わる場合は「70歳到達届」を提出
70歳以降も厚生年金保険の適用事業所に在職している場合、厚生年金保険の被保険者とはならず、保険料も徴収されません。ただし、「60歳台後半の在職老齢年金」の仕組みはそのまま適用され、月収と年金月額の合計額が47万円を超える場合は、月収の増額2に対して年金額1が支給停止になる調整が行われます。(第17回『在職老齢年金、退職した後の年金は?』参照)
そのため、70歳以上の在職者については、「70歳以上被用者」に該当することの届出が必要となります。具体的には、事業主が「被保険者資格喪失届/70歳以上被用者該当届」(以下、「70歳到達届」)を提出することになります。
ただし、在職中に70歳に到達した被用者について、70歳到達日時点の標準報酬月額相当額(※)が、70歳到達日の前日における標準報酬月額と同額である場合は、事業主からの「70歳到達届」の提出が不要(届出省略)となります。(この場合は、日本年金機構が厚生年金保険の資格喪失処理および70歳以上被用者該当処理を行います。)
簡単にいうと、70歳到達前と到達後で給料が変わらない場合は「70歳到達届」の提出が不要、給料が変わる場合は「70歳到達届」の提出が必要ということです。
※70歳到達日時点において、70歳以上被用者に支払われる報酬月額(通貨・現物によるものの合計額)を、標準報酬月額に相当する金額に当てはめた額
【図表2】「70歳到達届」提出の要・不要
健康保険は75歳まで
厚生年金保険と健康保険とでは、加入の上限年齢が異なっており、健康保険は、75歳の誕生日当日に資格を喪失します。事業主が「被保険者資格喪失届」を健康保険に提出します。
なお、このとき、同時に後期高齢者医療制度に加入することになります。後期高齢者医療制度への加入手続きは自動で行われます。
【図表3】厚生年金保険と健康保険の年齢による資格喪失
1.会社に勤めていても、70歳に到達すると厚生年金保険の加入者の資格を失う
2.70歳到達日時点の標準報酬月額相当額が、70歳到達日の前日における標準報酬月額と異なる場合は、事業主には「70歳到達届」の提出が求められる
3.健康保険の被保険者の資格は、75歳の誕生日当日に失われる
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① 「70歳到達届」の提出が必要な場合・不要な場合