1相続できる人は決まっている

相続ってなに?

 『相続』という言葉は、誰もが耳にしたことのある言葉でしょう。よく推理小説やテレビドラマのサスペンスものでも、「親からの莫大な遺産を相続して…」といったような設定があり、遺産と相続という言葉をセットでとらえている人も多いかもしれませんね。あるいは、住宅ローンの繰上げ返済や新居の購入などの際に、密かに親の遺産をあてにしている人もいるかもしれません。とは言え、相続の意味をしっかり理解している人はどれくらいいるでしょうか? いざ自分がその立場に置かれてみないと、案外知らないこともあったりします。そこで今回は、『相続』を正しく知っていただくために、その仕組みをご紹介していきます。

 亡くなった人をAさんとしましょう。すると、Aさんの死亡によって初めて『相続』は発生し、Aさんは被相続人になります。そしてAさんの権利義務を、相続人と呼ばれる人たちに相続(継承)することになります。間違われやすいのは、Aさんが亡くなる前に財産を譲り渡す行為について。これは『相続』ではなく、『贈与』になります。『相続』は、あくまでもAさんが亡くなっていることが前提となります。

誰でも相続人になれるわけではない

 被相続人はAさん。では、相続人はどこまでが対象となるのでしょう? それには法律で定められた細かい規定があります。まず第一に、Aさんが遺言書を残していたかどうかがポイントになってきます。

①遺言書がある場合⇒遺言書に書かれた人が相続人

 遺言書には自筆による「自筆証書遺言」や公証人が作成する「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」などがあり、どれも定められた形式や手順に従って作成したものでなければ、法的効力は生じません。遺言書は残っていたが、間違った書式で作成してあったため、その効力が認められずに相続人トラブルの元になった、などという話しも聞きます。遺言書を残すのであれば、法的効力を持つように不備なく作成すること、また、弁護士などに作成したものを確認してもらうのが良いでしょう。
 こうして残された法的効力をもつ遺言書においては、記載されている人が相続人となります。例えば、Aさんが一家の大黒柱で、妻、子ども1人の3人家族とした際、「妻が全ての遺産を相続する」と書かれてあれば、相続人は妻1人になります。子どもは相続人対象にはなりません。でも子どもが「それでは困る!」という場合には、法的措置もあります。⇒詳しくは遺留分制度にて。

②遺言書がない場合⇒民法で定められた通りの順番で相続人が決定

 遺言書がない場合は、民法で定められた人たちが相続の対象者=「法定相続人」となります。また、それにあわせて相続できる割合が決まっており、それを『法定相続分』といいます。(図1

図1 法定相続人の状況と法定相続分

法定相続人の状況 法定相続分
配偶者
〔常に相続人〕
子ども
〔第1順位〕
直系尊属
(父母等)
〔第2順位〕
兄弟姉妹
〔第3順位〕
子どもが
いる
配偶者がいる 1/2 1/2    
配偶者がいない      
子どもが
いない
配偶者がいる 2/3   1/3  
配偶者がいない      
子どもも
直系尊属
(父母等)もいない
配偶者が
いる
兄弟姉妹が
いる
3/4     1/4
兄弟姉妹が
いない
     
配偶者がいない      

※子ども、直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合は、そのなかで均等配分となります。
(例)Aさんには、配偶者と子どもが3人いた場合⇒配偶者1/2、子どもは残り1/2をそれぞれ1/3(全体の1/6)ずつ相続します。

クイズ! 『遺言書…これは〇 or × ?』

Q1 遺言書は手書きでなくても大丈夫?
Q2 手書きの署名があれば押印はなくても大丈夫?
Q3 日付は必要?
Q4 遺言書で保険金の受取人の変更はできる?
Q5 遺言書は見つけた人がすぐ開封できる?

(答え)

A1:× 全文自筆です。パソコンやワープロ書きは無効になります。
A2:× 署名には、遺言書 ○○○○と自筆で、さらにその横に実印、もしくは本人が普段使用している認印が必要です。拇印は裁判で争われるケースもあるので避けた方が無難です。
A3:○ 平成○○年○月○日というように、必ず正確な日付を書きます。
A4:○ 2010年の保険法の改正により、遺言書による保険金受取人の変更が認められるようになりました。
A5:× 遺言書は発見しても勝手に開封(勝手に開封した場合、5万円以下の過料に処せられる)はできません。保管者がいない場合は、その遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求する必要があります。

クイズ! 『あなたは相続人になれる?』

Q1 夫の父(義父)が財産を残して亡くなりました。夫の祖父母もすでに他界。妻である私はもらえる?
Q2 兄(姉)が亡くなりました。弟(妹)である私はもらえる?
Q3 祖父が亡くなりました。孫である私はもらえる?

(答え)

A1 もらえません。義父が亡くなった場合、義父の妻と子どもが相続人に、妻も子どももいない場合は義父の兄弟姉妹が相続人になります。息子の妻は対象になりません。
A2 兄(姉)に子どももなく、父母など直系尊属もない場合だけ、もらえます。それ以外は相続人にはなれません。
A3 祖父の妻(祖母)や子どもが存命していればもらえません。妻も子ども亡くなっていれば、その直系卑属(子)であるあなたが相続人となります。これを代襲相続といいます。

どうする? 遺言書で他人が相続人に!

 遺言書に書かれた人が、相続人であることについては先に説明しました。遺言者が自由に財産処分できるようにというのは、遺言書の原則。とは言え、法的効力を持つ遺言書が全てというわけではありません。書かれた人=相続人が、本来対象となる相続人の意にそぐわないケースだってあります。例えばAさんが、「全ての財産を愛人に譲る」なんて書き残したとしましょう。これにはもちろん、妻も子どもも黙ってはいませんよね。その場合はどうなるのでしょう?
 そうした場合には、法律で法定相続人の権利を保証する制度があります。これを遺留分制度といいます。これにより、被相続人が有していた相続財産の一定割合を法的に継承できるわけです。
●配偶者・直系卑属のどちらか一方のみの場合…相続財産の1/2
●配偶者・直系卑属の両方いる場合…相続財産の1/2
●直系尊属だけの場合…相続財産の1/3
●兄弟姉妹だけの場合…遺留分なし

※遺留分においても非嫡出子は、嫡出子の1/2

遺産はすぐ手に入らない!?

 Aさんが亡くなって、相続人が確定したとしてもすぐに遺産が手に入るわけではありません。法律に基づいた手続きを一つひとつ経て、遺言書や遺産の内容などを確認し、誰がどれくらいの遺産を相続するのかを決定してからでなければ遺産は入手できません。
 特に銀行口座については注意が必要です。銀行口座は名義人が亡くなると(銀行が死亡を認知すると)、口座は即、凍結されて引出しが不可能となります。これは特定の個人が被相続人の遺産を自由にできないようにするためです。銀行口座も株や他の財産同様、「遺産分割協議書」(遺言書でも可)や必要書類を提出して名義変更してからでなければ、相続人のものにはなりません(図2)。

図2 相続開始後の手続き

図2
 

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