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掲載:2017年7月14日

自分で決める、認知症になったときのこと
~任意後見制度って何だろう?~

 認知症、知的障害、精神障害など判断能力が不十分な状態にある人に対し、後見人が法的な援助・保護を行う「成年後見制度」――「法定後見制度(補助・保佐・後見)」と「任意後見制度」の2種類があり、法定後見制度についてはすでにこのコーナーでご紹介しました(「認知症の親を法的に守る~成年後見制度って何だろう?~」参照)。
 一方、任意後見制度は、「後見人」がついて援助するという点は法定後見制度のうちの後見類型と同じですが、自分の意思で、後見が必要になるかもしれない将来に向けて、元気なうちに契約を結ぶという点で、制度利用の出発点が法定後見制度と異なっています。認知症になったときのために自分でできる備えとして注目を集めているこの制度は、どのような人が、どのようなときに利用するとよいのでしょうか。司法書士の奥田睦子さんに、活用法について伺いました。

奥田 睦子さん

奥田 睦子(おくだ むつこ)さん プロフィール

昭和63年、関西学院大学法学部を卒業後、平成元年に司法書士の資格を取得。現在、司法書士法人植田合同事務所所長として数多くの相続登記案件を手掛けている。相続関係の相談で来所するのは配偶者を亡くした女性も多い。複雑な背景などについても女性同士だから話しやすい。そうした女性ならではの対応は高い評価を受けている。

認知症になったときの備え

元気なうちに、自分の意思で契約を結ぶ

 任意後見制度は、将来、認知症などで判断能力が不十分な状態になったときに備え、法的な援助を行ってくれる人(任意後見人)や、その援助の内容をあらかじめ定めておく制度です。
 法定後見制度は、すでに本人の判断能力が低下してしまった後で、家族や親類などの申立てに基づいて家庭裁判所が後見相当か否か等の判断を含めて“決定”を下すものです。審理は本人の保護の観点から行われるものの、決定の内容は(判断ができない)本人の希望には関わりがなく、また、必ずしも申立人の希望に沿ったものになるわけではありません。
 これに対して、任意後見制度は、本人の判断能力が十分あるうちに本人の意思に基づいて結ぶ“契約”であるため、任意後見人の選任や援助の内容を自分で決めることができます。本人は、日常生活、療養看護あるいは財産管理などに関する事務手続きについて、任意後見人に代理権を与えるか否かを個別に選択することができます。このように、任意後見制度は、本人の意思が尊重される制度であるという点に特徴があります。

※ただし、任意後見人の援助の内容は事務手続きに関することになりますので、実際の日常生活における支援(オムツを替える、食事をつくる、掃除をする、といった「事実行為」)を、援助の内容に含めることはできません(表2参照)。

■表1 法定後見と任意後見の違い

  任意後見 法定後見(成年後見)
対象者 判断能力がある人(後見開始は判断能力が低下した後) 認知症等ですでに判断能力が低下している人(すぐに後見開始)
制度の性質 本人と後見人になる人との契約 家庭裁判所の決定(本人、配偶者、四親等以内の親族による申立て)
後見人 自由に決めることができる(双方の合意に基づく) 家庭裁判所が決定(候補者の希望を提出することは可能)
監督人 あり(家庭裁判所が選任) 必要に応じてあり(家庭裁判所の判断による)
援助内容 個別に設定(双方の合意に基づく。表2参照) 日常の買い物などの生活に関する行為以外の行為(包括的)
本人が行った契約を取り消す権限 なし あり

■表2 援助の内容(例)

◎不動産、動産などの財産の管理

◎銀行、郵便局、証券会社との取引   ◎保険契約

◎定期的な収入の受領、定期的な費用の支払い

◎生活費の送金、生活に必要な財産の取得、物品の購入

◎医療契約、入院契約、介護契約、福祉関係施設の入退所契約

◎居住用不動産購入、貸借契約、住居の新築・増改築の請負契約

◎登記、供託の申請   ◎要介護認定の申請

◎配偶者、子の法定後見開始の審判の申立て   など

 では、どのようなケースで、任意後見契約が結ばれるのでしょうか。具体例を見てみましょう。

■事例1 自分のことが心配

 Aさん(男性)は、だんだん体がいうことをきかなくなって、少しずつ物忘れも出始めている。一方、妻は持病を抱えていて健康に不安がある。息子と娘の2人の子どものうち、息子はすぐ近くに住んでおり、Aさんの面倒をよく見てくれるし、妻(母親)とも仲がよい。自分が認知症になった場合には、財産管理や身上監護(生活・医療・介護などに関する契約や手続き)は息子に託したい。

Aさんは、自分の心配について家族に相談。その後、息子を任意後見受任者として「任意後見契約」を結んだ。

■事例2 親のことが心配

 Bさん(女性)は母親と同居している。近所に住む兄は、金銭にルーズで大きな負債を抱えている。母親はまだしっかりしているが、Bさんは最近、がんを患っており、自分が先に死んだ場合は、兄が母親の財産を勝手に使ってしまわないか心配だ。自分が財産管理をできなくなった場合は、母親が信頼している弁護士に任せたい。また、もしも母親が認知症になったときは、任意後見人として財産管理と身上監護をお願いしたいと考えている。

その後、Bさんの病状が進んだため、母親と相談のうえ、弁護士に母親の財産管理を依頼した(任意代理契約)。併せて「任意後見契約」を結び、母親が認知症になったときは、任意後見人として財産管理と身上監護を任せることになった。

どんな援助方法があるのか? 手続きは?

 任意後見制度には、援助の時期に応じて「将来型」「移行型」「即効型」の3つのタイプがあり、本人の状況に応じて選択します(表3、表4参照)。

■表3 任意後見の3つのタイプ

タイプ 特  徴
将来型 現在は支援を必要としておらず、将来、判断能力が低下したときに後見を開始する(事例1)。
移行型 判断能力に問題がない現在も「任意代理契約」を結んで財産管理などの支援を受けながら、判断能力の低下に合せて任意後見を開始する(事例2)。3つのタイプのうち最もよく利用される。
即効型 すでに一定程度、判断能力の低下が始まっている人が対象で、すぐに任意後見を開始する(判断能力が不十分な場合は法定後見の対象)。

■表4 タイプ別 任意後見の開始時期

表4 タイプ別 任意後見の開始時期

任意後見制度を利用する際は、次のような手続きが必要になります(表5参照)。

■表5 利用の手続き

表5 利用の手続き

■手続きに必要な費用は? 後見人、監督人の報酬は?

任意後見契約を結ぶ際には、公正証書の作成と登記に4万~5万円程度の費用がかかります。さらに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てを行う際には、諸費用として5千~1万円程度、この際、医師の鑑定が必要になった場合には5万~10万円程度の鑑定料が必要になります。他にも、契約や申立ての際に提出する書類(印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票など)の手数料がかかります。

 また、任意後見が開始すると、任意後見人と任意後見監督人に対して、後見を受ける人の財産から報酬を支払うことになっています(家族や親族の場合は無報酬であることも多いようです)。金額は、任意後見人は当事者間の契約で、任意後見監督人は家庭裁判所の決定によって定められますが、東京家庭裁判所はめやすとして次のような金額を挙げています。

◎成年後見人(任意後見人)

管理財産額 報酬(月額)
通常の場合 2万円
1,000万円超~5,000万円以下 3万円~4万円
5,000万円超 5万円~6万円

◎成年後見監督人(任意後見監督人)

管理財産額 報酬(月額)
5,000万円以下 1万円~2万円
5,000万円超 2万5千円~3万円

東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」より

 次のページでは、任意後見制度を利用する際の注意点についてご紹介します。

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