変容する高齢期の働き方に応じた年金制度のあり方
~第6回社会保障審議会年金部会
厚生労働省は2018年11月2日、第6回社会保障審議会年金部会を開催した(部会長は神野直彦・日本社会事業大学学長・東京大学名誉教授)。議事は第5回に引き続き「雇用の変容と年金(高齢期の長期化、就労の拡大・多様化と年金制度)」など。第5回年金部会で提示された「高齢期が長期化し就労のあり方が変容していることに年金制度も対応して改正されてきており、今後も就労と年金は連携することが重要」という結論をさらに掘り下げて具体化した。
高齢期が長期化し、就労が拡大・多様化されるなかで、年金制度では「支給開始年齢(制度上定められているもの)」「受給開始年齢(個人で選択するもの)」「在職老齢年金制度」が重要なキーとなる。
年金制度では受給開始年齢について、個人が60~70歳の間で自由に選択できるようになっているが、繰下げ受給は選択されにくい現状がある(図1)。その理由の一つは、特別支給の老齢厚生年金は繰下げ受給が適用されないため、65歳からの老齢年金を繰り下げようとすると受給の流れが一旦途切れることにある。受給し始めた年金をいったんやめる選択は難しい。なお、特別支給の老齢厚生年金の支給が完了(男性2025年度、女性は2030年度)すれば、この問題は解消されることになる。
繰下げ受給が選択されにくい他の理由には、繰下げ期間中の加給年金や振替加算が支給されないことが考えられる。さらに、在職老齢年金の支給停止相当分の年金については繰下げを行っても増額の対象とならないことも理由として考えられる。
高齢期の就労の拡大に対応するためには、まず、高齢者が活躍できる場を整備すること、高齢者の希望や特性に応じた多様な選択肢を設けて法制化を検討することが必要である。「年金支給開始年齢の引上げは行うべきではなく、選択可能な受給開始年齢の拡大を検討すべきである」との意見もある。
60歳以降に継続して働いた場合、働き方により年金額や改定後水準(現役男子全体の平均手取り賃金に対する年金月額の割合)は異なってくる(図2:現行制度がそのまま、マクロ経済スライドの調整が終了する2043年度に移行した場合の働き方と年金額を検証したもの)。在職しながらの年金受給のあり方(在職老齢年金制度、退職後の年金改定等)は、60歳台前半の在職老齢厚生年金については、低賃金の在職者の生活を保障することを主目的としている一方で、65歳以降の在職老齢厚生年金については、高賃金の在職者の年金を支給停止することが目的となっている。60歳台前半の在職者については、特別支給の老齢厚生年金自体が終了した時点で対象者はいなくなるが、65歳以降も働き続ける人は今後も増えることが予想される。働いても不利にならないような仕組みを構築する一方で、現役世代とのバランスから、一定以上の賃金を得ている人については、年金給付をある程度我慢してもらい年金制度の支え手に回ってもらうべきであるとの考え方は今後も主流となるが、合わせて、長期化する高齢期も活躍し続けられるために就労意欲を抑制しないよう考慮されるべきである。
図1 各年度末時点における70歳の受給権者の年金受給状況
<厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」より>
図2 60歳以降に継続して働いた場合の年金水準の変動について
(2043年度時点における推測)
※数値は、2014年財政検証のモデル世帯(現役男子全体の平均標準報酬42.8万円)を基準として、「経済:ケースE(物価上昇率1.2%、賃金上昇率1.3%、実質運用利回り3.0%など)、人口:中位」で再計算したもの。