年金講座

筆者プロフィール 長沼 明(ながぬま あきら)

浦和大学総合福祉学部客員教授。志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任する。社会保険労務士の資格も有する。2007年4月から1年間、明治大学経営学部特別招聘教授に就任。2014年4月より、現職。主な著書に『年金一元化で厚生年金と共済年金はどうなる?』(2015年、年友企画)、『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(2015年、日本法令)

 遺族年金の相談が多くなりました。
 今月は、「子ども」が死亡した場合、親に遺族年金が支給されるのかどうか、ということを考えていきます。
 年金の世界の話ですから、「子ども」といっても40歳代の息子の事例です。
 親も70歳代の「老親」であり、世間的にみれば、おじいちゃん・おばあちゃんです。すでに、自身の年金をもらっているときに、結婚していない同居の息子が死亡したのです。息子が死亡したときに、両親に遺族年金は、支給されるのか。支給されるとすれば、父親と母親にはどのように分けるのか、等分か、按分か?
 しかも、死亡した原因は、交通事故での自損事故でした。前日まで元気に働いていたそうです。交通事故が原因で、遺族年金を請求するとなると、はて、どんな書類を用意すればいいのか? 【交通事故証明書】は必要そうです。ほかに、どんな届書が必要になるのでしょうか…?。
 あくまでも、本稿は、この事例では、ということで述べていきます。交通事故の態様が変われば、用意する書類も、記載する内容も変わってきます。また、事実に基づいて記していますが、個人情報保護の観点から、設定条件を変えていますので、基本的には、この事例はフィクションとご認識ください。

子ども(40歳代)が交通事故で死亡、
親(70歳代)に遺族年金は支給されるのか?

(1)死亡した子ども(40歳代)の年金の加入歴

 死亡した子ども(仮名:村上一郎様)は、昭和46年(1971年)11月25日生まれの男性で、平成30年(2018年)4月15日に、交通事故で46歳の若さで死亡してしまいました。仕事が休みの日に、普通自動二輪車(いわゆる125ccのオートバイ)を運転中、転倒したところを大型車にひかれ、ほぼ即死だったということです。ご遺族のお話によれば、事故を調べた警察では、自損事故という取り扱いになっているということです。
 まずは、心よりご冥福をお祈りします。
 死亡した子(仮名:村上一郎様)の年金の加入歴は、【図表1】のとおりです。厚生年金保険に加入中の死亡事故であり、保険料納付要件は満たしています。

【図表1】死亡した子ども(46歳)の年金加入歴

■ 生年月日:昭和46年(1971年)11月25日生まれの男性(46歳)

■ 死亡日 :平成30年4月15日(死亡時、46歳)、両親と同居

■厚生年金保険の加入歴

厚生年金保険の加入歴

*平成6年の再評価率である

国民年金の保険料納付済月数: 55月

*高校卒業から死亡した時点までの厚生年金保険・国民年金の被保険者期間は、加入期間の月数と一致しない。いくつかの会社を勤務した経歴があり、途中、国民年金の未納期間がある。なお、保険料納付要件は満たしている。

年金上の遺族:(年齢・年収)

父(和夫):77歳(老齢厚生年金80万円、老齢基礎年金70万円受給中)
母(優子):75歳(老齢厚生年金 3万円、老齢基礎年金50万円受給中)

(事例はフィクションです)

(2)死亡した子ども(40歳代)の親(70歳代)に
遺族年金は支給されるのか?

両親が年金上の遺族となる要件は?

 死亡した子ども(40歳代)は、事故当時、両親(70歳代)と同居していました。独身で、一度も結婚したことはありません。姉はいますが、すでに結婚しており、子どももいて、別な場所に住んでいます。
 死亡した子の両親は、年金生活者であり、所得要件や同居している事実からして、子とは生計維持関係があります。また、いずれも、55歳以上ですので、両親は死亡した子の遺族厚生年金の受給権者となります。
 両親の所得証明書、親子の身分関係(続柄)を示す戸籍謄本、同居していた事実を証する住民票(世帯全員分)を遺族厚生年金の請求書に添付します。
 あわせて、死亡した子の死亡診断書の写しも添付します。

遺族年金はいくらぐらい支給されるのか?
 父と母にはどのように按分されるのか?

 この事例の場合の遺族厚生年金は、在職中の死亡ですので、300月みなしで計算され、【図表2】のように算定されます。
 あわせて、計算で求められた遺族厚生年金の年金額を父と母で、2分の1ずつ等分に分けて支給されます。もちろん、父自身、母自身の老齢厚生年金が優先支給され、遺族厚生年金はその差額分が支給されるということになります。
 夫が死亡した事例ではないので、経過的寡婦加算は支給されません。

 (なお、遺族年金の詳細は、【年金講座】2018年3月号および4月号をご参照ください。)

【図表2】子どもが死亡したときに、両親に支給される遺族厚生年金の算定式

遺族厚生年金の年金額:

(240,000円×7.5/1000×120月+330,000円×5.769/1000×130月)
 ×300/250×0.997×3/4
 ≒415,890円

父の遺族厚生年金の年金額

415,890円×1/2=207,945円
父自身の老齢厚生年金が80万円あるので、全額支給停止となる。

母の遺族厚生年金の年金額

415,890円×1/2=207,945円
母自身の老齢厚生年金が30,000円あるので、遺族厚生年金は
30,000円が支給停止となり、差額分の177,945円が支給される。

*平均標準報酬月額・平均標準報酬額は、平成6年の再評価率で、年金額は従前額保障で算定した。(端数処理は必ずしも厳密ではありません)

 両親宛に、それぞれ遺族厚生年金の年金証書が届くことになります。父は全額支給停止だから送付されないということはありません。全額支給停止である旨が印字された年金証書が届くことになります。
 母には、死亡した日(平成30年4月15日)の属する月の翌月分、すなわち平成30年5月分から遺族厚生年金が支給されることになります。もちろん、一部支給停止である旨が印字された年金証書が届きます。

国民年金の死亡一時金は?

 死亡した子は、国民年金の保険料を55月納付していました。
 死亡した日の前日において、死亡した日の属する月の前月までの国民年金の第1号被保険者期間で、36月以上の国民年金保険料を納付しているということは、死亡した子の遺族、つまりこの父・母は、国民年金の「死亡一時金」を受給することができます。
 もちろん、死亡した46歳の子は、老齢基礎年金または障がい基礎年金を受給したことはありません。生計同一関係にある遺族に、つまりこの事例の場合は、父母が第1順位になり、「死亡一時金」が支給されます。【国民年金死亡一時金請求書】を提出することになります。A4の用紙1枚です。
 【国民年金死亡一時金請求書】だからといって、市役所に提出しなければいけないということはありません。年金事務所で、遺族厚生年金の請求書と同時に提出することができます。
 国民年金の保険料納付済月数が55月ですので、「死亡一時金」の金額は12万円になります。
 筆者の記憶では、「死亡一時金」の金額が12万円(保険料納付月36月以上の最低額)に設定されたのが、平成6年の改正であり、そこから20年以上が経過し、国民年金の保険料も平成6年度の11,100円から、平成30年度の16,340円へとだいぶ引き上げられてきています。
 平成31年4月には法定額の上限である月額17,000円に達するので、死亡一時金の設定水準についても、あらためて議論する時期になっているのではないでしょうか?

国民年金の死亡一時金は、父母で2分の1ずつか?

 ところで、「死亡一時金」は納付済月数で一時金の金額が決まっています。詳しくは、【年金のてびき −平成30年4月版−】(社会保険研究所)110ページをご覧ください。
 なお、「死亡一時金」については、父・母で2分の1ずつということはなく、この事例では、母が請求者となって、12万円を請求しました。
 国民年金法第52条の3第3項で、次のように規定されているからです。

【図表3】国民年金法第52条の3 第3項の「死亡一時金」規定

3 死亡一時金を受けるべき同順位の遺族が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。

(3) 交通事故証明書・第三者行為事故状況届・確認書とは?

■交通事故証明書とは?

 交通事故による死亡なので、【交通事故証明書】を添付する必要があります。
 【図表3】はこの事例に即した記載内容になっています。

【図表3】交通事故証明書

【図表3】交通事故証明書

(*)この『交通事故証明書』では、自損事故ということで、乙欄は『相手なし』の記載のみです。

 高齢者の父母が書類を入手するのは、容易ではありません。今回の事例では、死亡者のお姉さんが【交通事故証明書】を交付する自動車安全運転センターに行き、入手されました。【交通事故証明書】の左上の住所・氏名欄が空欄になっていますが、実際は請求した実姉の住所・氏名が記入されています。

第三者行為事故状況届とは?

 年金給付の支給事由である死亡の原因が、第三者の行為により引き起こされた場合、年金による給付と損害賠償による補償との重複を避けるために、必要な調整を年金保険者(この場合は、実施機関は日本年金機構)は行います。
(厚生年金保険法第40条・国民年金法第22条)

 今回の事例は、交通事故による死亡ですが、警察のご遺族に対する説明によれば、自損事故です。自損事故なので、第三者の行為による事故ではないとの認識でいたのですが、第三者の行為ではない事故ということを証するためにも、【第三者行為事故状況届】を提出する必要がある、との年金事務所の説明を受けました。
 地方公務員共済組合の資料においても、「過失が10割のため損害賠償を受けることができない場合は、結果として調整を行うことにはなりませんが、当該事故に係る経緯を把握しておく必要があることから、第三者行為による事故として取り扱います。なお、自損事故の場合も第三者行為による事故として取り扱います。」(『年金ガイド』160ページ、平成29年9月刊)と記されています。
 したがって、【第三者行為事故状況届】を提出します。複雑な事案のときは、記入はたいへんかもしれません(本稿では【第三者行為事故状況届】の記入見本は省略します)。

 なお、前述した「死亡一時金」については、「受給権者が損害賠償を受けた場合であっても、損害賠償との調整は行われない」(厚生労働省のHPに掲載されている市町村向け『国民年金法 逐条解説テキスト』86ページによる)とされています。

確認書とは?

 【確認書】とは、第三者の行為による事故等により年金給付が受けられる場合などに、受給権者が日本年金機構など各実施機関に提出するもので、所定の様式が定められています。
 この事例の【確認書】は、【図表4】のようなものです。基本的には、遺族厚生年金を受給した人が日本年金機構に提出する誓約書のようなもの、ということになりましょうか。
 本事案については、自損事故で保険会社から支給されるものは何もないとのことでしたが、【確認書】を提出しています。

【図表4】確認書

【図表4】確認書<

 今月は子が死亡したときに、親に支給される遺族年金について述べてきました。子どもに先立たれたご両親の悲しみに、かける言葉はありませんでした。

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