受給資格期間10年を満たしていない人に送付されるお知らせ『圧着ハガキ』の送付スケジュールが、平成29年12月20日に開催された社会保障審議会・年金事業管理部会で公表されました。
日本年機構などのHPでも公表されていますが、さまざまな情報を総合し、これからの年金相談に資するよう【図表1】のように送付スケジュールをまとめてみました。
全体での送付予定人数は、約47万7千人程度(当初は49.3万人を想定)とのことであり、実際の送付人数は、各送付の際に確定するとのことです。
したがって、【図表1】の各期ごとの送付人数は、筆者のほうで概数(万人単位とした)としましたので、合計数は約47万7千人に一致しません。
【図表1】受給資格期間が10年に満たない人に送られるお知らせ
−圧着ハガキの送付スケジュール−
【出典】平成29年12月20日に開催された社会保障審議会年金事業管理部会(第33回)で提出された、〈資料1〉に、筆者が一部情報を加筆した。送付人数はあくまでも概数で、公式に発表されたものではない。また、年齢については発送日現在とした。
筆者は、審議会で公表された資料を掲載していますが、日本年金機構のHP(平成29年12月18日に更新したと思われる)では、⑤と⑥の送付対象者が審議会提出資料と異なっています。日本年金機構の情報については、【トピックス】欄をご覧ください。
▶
/nenkin-kouhou/vol58/topics/topics-02.html
なお、審議会に提出された資料によれば、黄色い封筒で「短縮の年金請求書」が送付された人等の約59万8千人のうち、年金の請求手続きを終えられた人は、約46万人(平成29年11月末現在)であり、約4分の3の人が請求済になったということです。
ということですので、今後は、受給資格が得られるかどうか、なかなか難しいと思われる人に、【圧着ハガキ】が送付されることになりますので、年金相談の比重も【圧着ハガキ】が送付された人たちに移っていくことになるかもしれません。
さて、今月は審議会で公表された「年金給付に係る事務処理誤り等の総点検」で指摘されていた事例を取り上げて、年金相談の参考としていきたいと思います。
振替加算の支給漏れでは、共済組合がらみの事例ということがクローズアップされました。今回記すのも、共済組合というか、共済年金がらみです。
しかも、日本年金機構が発足して以後も発生していたという事案ですので、日本年金機構設立委員会の委員を務めた筆者としては、大いに反省しているところです。
年金相談の現場で、とっさに判断して、お客様に伝えるときは、間違いやすい事例です。バックヤードの支援体制が重要だったと認識しています。
社会保障審議会で公表された事務処理誤りについて
−旧共済法の退職年金と老齢基礎年金の関係について−
(1)Aさんに発生する年金は、
新地方公務員等共済組合法に基づく退職共済年金か、
旧地方公務員等共済組合法に基づく退職年金か?
【図表2】をご覧ください。
昭和8年2月15日生まれの男性Aさんですが、【図表2】のように昭和25年4月から昭和60年3月まで、35年間、市役所に地方公務員として勤めていました。共済組合に20年以上加入しており、昭和61年3月31日以前には退職しています。その後、昭和62年4月から2年間、国民年金に加入し、保険料を納付していました(事例はフィクションです)。
この地方公務員だったAさんに、受給権が発生する年金は、新地方公務員等共済組合法に基づく退職共済年金か、旧地方公務員等共済組合法に基づく退職年金か、というのが最初のクエスチョンです。
【図表2】Aさんの年金加入歴
これは、旧地方公務員等共済組合法に基づく退職年金ということになります。
法律上の根拠条文は、以下のとおりとなります。
(2)旧地方公務員等共済組合法に基づく退職年金は、
60歳前でも受給権が発生するのか??
昭和60年改正前の旧地方公務員等共済組合法では、 「退職年金」 は、次のように規定されています。
【図表3】 「退職年金」 を規定した条文
旧地方公務員等共済組合法 第78条第1項
組合員期間が20年以上である者が退職したときは、その者が死亡するまで、退職年金を支給する。
20年以上の組合員期間を有する者が退職したときに、退職年金の受給権が発生するしくみとなっていることがわかります。
ただし、60歳に達するまで、支給停止がかけられます(旧地方公務員等共済組合法第79条第2項、いわゆる「若年停止」)。
【図表4】 「退職年金」 の「若年停止」の規定
旧地方公務員等共済組合法 第79条第2項
退職年金は、(略)、これを受ける権利を有する者が、60歳未満であるときは、60歳未満である間、その支給を停止する。
つまり、旧地方公務員等共済組合法では、原則として共済組合に20年以上加入し、昭和61年3月31日以前に退職している場合には、生年月日にかかわらず、 「退職年金」 の受給権が発生するということになっていました。
(3)旧地方公務員等共済組合法に基づく退職年金の算定式は?
それでは、旧地方公務員等共済組合法に基づく 「退職年金」 の年金額は、どのように算定していたのでしょうか?
旧地方公務員等共済組合法に基づく 「退職年金」
の年金額を算定する方法は、なかなか複雑なので、表記しづらいのですが、条文を踏まえ、平成29年度の年金額に置き換えて表記してみると、【図表5】のようになります(「旧地方公務員等共済組合法 第78条の2」のいわゆる「通年方式」のみを示します)(*)。
(*)【参考文献】『年金相談の手引-平成29年度版-』(社会保険研究所)773頁
▶http://www.shaho.co.jp/shaho/shop/detail.php?no=94
【図表5】 「退職年金」 の年金額の基本的なしくみ
(1)定額=①基本額+②加算額
=731,250円+731,250円÷20×(組合員期間の年数*1-20年)
(2)給料比例額*4=給料年額×1/100×組合員期間の年数*2×0.999*3
*1:組合員期間の年数は、35年を限度とする。
*2:組合員期間の年数は、40年を限度とする。
*3:0.999は昭和13年4月1日以前生まれの人の従前額改定率。
*4:国家公務員共済組合連合会では、「給料比例額」を「俸給比例額」、「給料年額」を「俸給年額」という。
*5:退職年金の額は、給料年額100分の70に相当する額を限度とする(当初)。
旧地方公務員等共済組合法では、新地方公務員等共済組合法のように平均給料月額で算定するのはなく、原則として退職時の給料年額を基礎として、年金額を算定していました。
(4)審議会で公表された事務処理誤り事案の概要
審議会に報告された事案では、当然のことながら、地方公務員だけでなく、国家公務員に関する年金も、支給誤りがあったものと思われます。
そのため、審議会に報告された事務処理誤りの事案の概要では、『旧共済法』という言葉が用いられています。
事案の概要は、【図表6】のとおりです。
【図表6】審議会で公表された事案の概要
○旧共済法退職年金の計算の基礎となった共済組合員期間を有する方に老齢基礎年金を決定する場合、その共済組合員期間は年金額の計算の基礎とはせず、合算対象期間として扱われる。(カラ期間)
○共済組合員期間が旧共済法退職年金の計算の基礎となっているかについては、お客様より提出のあった「年金加入期間確認通知書」に基づき判定を行うが、この判定に誤りがあった結果、老齢基礎年金に過払いを生じていた。
【図表2】に記したAさんの事例でいうと、老齢基礎年金の決定をするにあたり、国民年金に加入し、保険料を納付した昭和62年4月から平成元年3月までの2年間だけの期間ではなく、昭和36年4月から昭和60年3月までの期間についても、老齢基礎年金の計算に算入していたと思われます。それが、事務処理誤りとして発見され、公表されたと考えられます。
すなわち、昭和25年4月から昭和60年3月までの期間、旧地方公務員等共済組合法(旧共済法)では、退職年金を支給する計算の基礎にしていました。もちろん、昭和36年4月から昭和60年3月までの期間についても、退職年金の年金額に算入しています。
それにもかかわらず、昭和8年2月15日生まれということで、昭和36年4月から昭和60年3月までの期間についても、老齢基礎年金の受給額に反映させて、老齢基礎年金も支給していたと思われます。これでは、昭和36年4月から昭和60年3月までの期間については、旧共済法の退職年金と老齢基礎年金の二重払いになってしまいます。
つまり、ハッキリ言えば、過払いです。
法律上は、返還してもらうことになりますが、実際のところ、返還してもらうのは容易ではないと思います。
(5)再発防止策について
審議会で公表された再発防止策によれば、次のようになっているとのことです。
○平成27年の共済情報連携システムの稼働により、新たな発生は防止されている。
要するに、平成27年10月1日の被用者年金一元化後については、共済情報連携システムが適切に稼働されているので、あらたな事務処理誤りは生じていない、ということのようです。
とはいえ、年金相談の実務を担当するものとしては、ウインドウマシン任せにするわけにはいきませんので、法律上の根拠をしっかりと身につけておくべきものと考えます。
私も本稿を執筆するにあたり、参考にさせていただきましたが、『事例解説
合算対象期間(平成29年度版)』(年友企画)が、わかりやすいと思います。法律の条文だけでなく、具体的な事例も示されていて、実際の年金相談の疑似体験ができます。
ぜひ、一読にされることをお薦めします。