平成28年12月16日、東京都内において神戸市・名古屋市・新潟市の国民年金担当者と厚生労働省、日本年金機構で、「国民年金の事務の変化と市町村の現状」をテーマとして座談会が行われた(NPO法人年金・福祉推進協議会主催)。前回は「市町村の立場は理解されているか」「地方分権による国民年金事務の影響は?」「業務マニュアルは作られるか」「ねんきんネットやねんきん定期便の見通しは?」について報告したが、後半では今後の制度改正などについての討論の様子を紹介する。
【出席者】
〈市〉
林 友美氏(神戸市国保年金医療課国民年金係長)
大須賀 竜一氏(名古屋市保険年金課事務係長)
滝沢 杉子氏(新潟市保険年金課国民年金主幹)
〈厚生労働省〉
高橋 和久氏(年金局事業管理課長)
〈日本年金機構〉
菅野 惠文氏(国民年金部長(平成29年1月1日より事業推進統括部長))
〈司 会〉
山崎 泰彦氏(神奈川県立保健福祉大学名誉教授)
受給資格期間の短縮で増える市町村の負担を軽減するには
(以下、敬称略)
─ 今後、年金受給資格期間短縮、年金生活者支援給付金、それから年金分野におけるマイナンバー制度対応といった大きな制度改正が予定されています。それぞれについて厚生労働省(以下、厚労省)の高橋課長からご説明いただき、その後、市町村からのご意見をいただきたいと思います。最初に受給資格期間短縮についてお願いします。
高橋 加入期間が10年以上ある方については、日本年金機構(以下、機構)から平成29年2月末から7月の5ヵ月間に、順次、年金請求書を送付する予定です。受給資格期間の短縮は29年8月から法律上施行され、最初の支払日が10月となっています。受給資格期間が10年以上ある方で、受給開始年齢に達している方に一度に請求書を送ってしまうと、届いた方が年金事務所に一時に集中して来られてしまい、お待たせしたり混乱が生じる可能性があります。それで、5ヵ月間で5回ぐらいに分散して、計画的に発送し、円滑に手続きが済むようにしていきたいと考えています。そのほうがお客様が集中せずに平均化するので、お待たせすることなく処理できます。
受給資格期間短縮の施行については住民の方から市町村にも問い合わせが行くと思われますので、市町村ともしっかりと情報共有をし、問い合わせがあった場合にもご対応いただけるようにしたいと考えております。また、本制度の紹介のチラシも市町村に置けるようなものを作ることを考えています。さらに、よくある質問に関するQ&A集も市町村にお送りしたいと検討しています。
実際に裁定請求書を送る際には、その対象者がお住いの市町村にも「こういう住民の方に送りました」という一覧表を送付させていただくことを考えています。機構では相談窓口の予約を事前に行っていただければ、お待たせせずに円滑に請求手続きを行っていただけるよう事前に必要な記録等の資料を準備を行いたいと考えています。
市町村にお願いしたいことは、裁定請求に必要な書類には市町村で対応していただく住民票、戸籍等がございますので、お客様が窓口に行かれたときには適切なご対応をお願いしたいということです。
─ 保険料納付済期間が1ヵ月でも、個別にお知らせするわけですか?
高橋 受給資格期間が10年未満の方にも、個別にお知らせする予定です。
─ 市町村にも仕事が一時的に集中しますが、いかがでしょうか?
大須賀 対象者の中には生活保護を受給されている方も多いと思いますので、生活保護担当部局ともしっかり連携してやっていく必要があると思います。事前に、生活保護の調査記録から今回受給資格期間短縮の対象となる受給者がどれぐらいいるかを確認してもらいましたが、生活保護受給要件を確認した際に年金受給可否を調べたときには、概ね7,200人ぐらいとのことでした。
高橋 それは65歳以上の受給者のうち、約7,200人が10年以上の対象者となり受給資格期間の短縮により受給権が発生する人ということですか?
大須賀 そうです。
─ 随分多いですね。
大須賀 確かに7,000人超はかなり多いのですが、対象となるのは高齢の方が多く、ご自分で請求手続することが難しいこともあると思うので、担当のケースワーカーさんに援助していただくと、スムーズにいくのではないかと思っています。市内部では、これから相談をしようと思っている段階です。
─ 滝沢さんはいかがですか?
滝沢 生活保護担当課との連携が重要だということはわかってはいますが、まだ具体的には動けていません。
現実的に2月末から年金請求のために人が動き始めたときに、年金事務所では対応しきれるのでしょうか。相談窓口を予約制にしても、限られた窓口数と職員数ですべての相談に対応するので、1日に相談を1,000人も2,000人も受けられるわけではないと思います。また、予約が取れないことや電話がつながらないこともあると思います。
市町村では第1号被保険者期間のみの方は受け付けますが、例えば年配の方が「これ、送られて来たんだけど」と来られたときに「あなたは厚年がちょっと入っているから、うちじゃないですよ」と、言えるか言えないか。市町村も人手があればいくらでも対応できるかもしれませんが、そういうわけでもありません。人手を増やしたくても、具体的にどのくらいの人数に対応しなければならないのかという話になったとき「全国64万人」では、人手をどれくらい増やせばいいのか割り出せないこともあります。やはり、年金事務所の状態がどうなのかなというのはすごく気になります。
林 神戸市では10月頃から生活保護の担当部署と調整をしながら、請求手続ができるようになる時期に備えて準備を始めています。先ほど名古屋市が7,200人ぐらいとおっしゃられていましたが、神戸市では、実期間で10年の受給資格が有る方は4,000人くらいです。もともと生活保護担当課では、10年に短縮される法律改正が行われて以降、個々の記録を再調査し、ほぼ正確な数字を把握されていました。その中には1号期間のみの方もかなりおられるので年金担当としてもしっかりと連携を図っていきたいと考えています。
また、生活保護受給者で無年金の場合、会計検査院からの指摘もあり脱退手当金を受給してしまっているケースがかなりあります。昭和61年4月以降の支給はカラ期間に含むことができないということを理解していない職員もいるようですので、そういう点も含めて直前には研修を行う予定にしています。生活保護受給者の場合は、これまでにケースワーカーさんが聞き取りをしてカラ期間になりそうな記録を残しておられますので、その記録から合算対象期間についても、ある程度判断できるのではないかと考えています。
─ 所得水準は都市部のほうが高いけれど、低所得者も意外に都市部が多い。生活保護受給率も高いですよね。
林 そうだと思います。
─ 名古屋市も多いですよね。
大須賀 そうですね。
林 生活保護受給者のうち確実に対象となるのが4,000人ですが、神戸市全体では1万人くらいではないかと思いますので、半分弱くらいは生活保護受給者ということになります。把握できているこの方たちの請求手続きをできるだけスムーズに行うことが窓口の緩和にもつながると思います。
ただ生活保護受給者の場合、年金が支給されることになっても、その分の保護費が調整されることになりますから、本人にとっては手続きをするメリットがほとんどありません。ケースワーカーさんが、どれだけ年金を重要視して他法優先の原則に基づく本人への説明をしてくれるかにかかってくると思います。
─ でも、市の場合は保護費の4分の1を負担しているから、インセンティブがありますが、町村はそれがない。
高橋 町村は県が負担しています。
林 先ほど高橋課長は5回に分けて5ヵ月で発送するとおっしゃいましたが、64万人を1ヵ月ずつずらしながら5ヵ月間かけて発送するということですか?
高橋 そうです。
林 私はもう少し短いサイクルで全員に発送されるものと思っていました。5ヵ月かかるとなると、自分のところにはなかなか書類が届かないという問い合わせも増えますね。
─ 新聞やテレビですぐ話題になりますからね。
高橋 ですから、生年月日ごとに5回に分けようと思っています。「この生まれ年だったら、あなたはこの時期にお届けする予定ですので、まだ届かなくても大丈夫ですよ」とわかっていただけるようにする。
林 問い合わせがあれば生年月日で判断して「もう少しお待ちください」と言い切ってしまってよいものか何となく不安になりますね。「書類は届いていないが、手続きに行っては駄目か?」という人も出てくるのではないでしょうか。
─ 仕方がないですね。広報する以外ないですね。頭を下げて「お待ちください」と。
林 自ら相談や手続きに来られる方もおられるでしょうし、来られたら拒めませんよね。印字されている用紙はないですから、書いてもらうことは多くなりますが、受付できないわけではないので。
臨時給付金が数千円から3万円になった途端に短期間に請求が集中したように、今回も同じようなことが予想されます。受給資格期間の短縮では、1人あたり月に平均2万円ぐらい受給できることになるようですから。
─ しかも一時金ではなくて、月々ですからね、生涯にわたって。
林 年金としては0円だったものが2万円支給されるわけですから「できるだけ早く手続きをしたい」と思うのが普通の感覚だと思います。
─ ちょっと待ってください。請求した時点で受給権確定ですか?
高橋 そうではありません。
林 8月1日までは受給権はできません。
─ 8月まではね。8月に受給権が発生すると、過去にさかのぼらないですか?
高橋 8月に受給権が発生して、9月分からの支給になります。
─ そうすると、権利そのものが発生していないわけだから請求遅れになるわけではないんですね。
林 そうです。でも高齢者なだけに、できるだけ早く手続きをしたいと思われるんじゃないでしょうか。
高橋 仮に来年12月に手続きをされても、9月分からきちんとさかのぼってお支払いはできるわけです。
─ この問題はこれぐらいにして次のテーマに進みたいと思います。