平成28年12月16日、東京都内において神戸市・名古屋市・新潟市の国民年金担当者と日本年金機構、厚生労働省で、「国民年金の事務の変化と市町村の現状」などをテーマとして座談会が行われた(NPO法人年金・福祉推進協議会主催)。その様子を今回と次号の2回に分けて報告する。
【出席者】
〈市〉
林 友美氏(神戸市国保年金医療課国民年金係長)
大須賀 竜一氏(名古屋市保険年金課事務係長)
滝沢 杉子氏(新潟市保険年金課国民年金主幹)
〈厚生労働省〉
高橋 和久氏(年金局事業管理課長)
〈日本年金機構〉
菅野 惠文氏(国民年金部長(平成29年1月1日より事業推進統括部長))
〈司 会〉
山崎 泰彦氏(神奈川県立保健福祉大学名誉教授)
地方分権による国民年金事務の影響は?
─
私は、地方分権一括法が通り国に基本的な事務を返上した後2~3年間は、今ならまだ間に合うから、土下座してでも市町村に戻したらどうかと言っていました。今となっては時すでに遅しですが、関係者はだいぶ分かってきましたね。市町村との関係が大事だということを政治レベルでも意識され始めています。
髙橋さん、今までの話全体で何かお考えになっていることはありますか。
髙橋 今回法案を審議するなかで、国民年金保険料の収納率の低さについて、もっと強制徴収を広げるべきではないかという議論がありましたが、地方分権で国民年金の収納事務が国に戻される直前の国民年金保険の収納率は7割程度あったはずです。国民健康保険の収納率は9割以上ある。国年と国保をセットで自治体が徴収すれば、国民年金の収納対策になるのではないか、行政コストも安くなるのではないのかというご指摘をいただきました。
経緯については、平成14年の地方分権の議論の中で、国と地方の役割が整理されました。現実的にいま、市町村が収納事務をどこまでできるかと言うと、市町村の国民年金の体制が縮小されています。しかしながら、国は市町村と何も協働していないのかと言うとそうではありません。口座振替の勧奨や法定受託事務など、市町村に協力・連携事務としてお願いをしているものがあり、今後、さらに市町村と連携を深めていく必要があります。
林さんの話に戻りますと、国民年金の仕事の重要性があまり自治体の中で認識されていない面があるということですが、年金というのは国の事業である一方で自治体にとっても大事な事業だということをご理解賜りたいと思います。
自治体が収納する介護保険料、後期高齢者医療保険料、住民税を一定額以上の年金受給者については、年金から特別徴収していますので、年金は自治体の財政にも関わっていることも市町村にはご理解いただきたいと思っています。
林 年金の大切さというのは、年金の担当者だけではなく、市町村の誰もが理解していると思います。その理解と国民年金の担当者たちが置かれている状況とが、市の中ではリンクしていない。ここがもどかしいところです。国民年金の担当者を高く評価してくれと言っているわけではありません。普通に、業務内容・業務量に見合う体制強化が図られるよう、もう少し国においてもご尽力いただけないものかと思います。
それほど大変ならもっと年金事務所に振ればいいじゃないか、とおっしゃるかもしれません。でも、目の前のお年寄りに「それは年金事務所が担当」「年金事務所に電話をかけて」「(遠くにある)年金事務所に行って」と言えるでしょうか。そういう葛藤を毎日しています。
年金生活者支援給付金の延期が決定しましたが、これまで機構では、給付に関していえば、低所得者対策というものは無縁だったと思います。ですから低所得者対策となると、市民の感覚では、どうしても市町村ということになります。給付金・受給資格期間の短縮は、ともに年金としては大きな制度改正でありながら、自治体の体制強化は、ほとんど図られていません。でも市町村職員は現実の問題に直面しますから、縮小された体制のまま、スタートに備えなければいけないというわけです。
─ 受給資格期間の短縮と年金生活者支援給付金の窓口は、もう市町村になっているのですか?
林 表向き、大部分は機構でということになっていますが、無年金・低年金者対策という制度の趣旨からすると、その対象者の多くは、日頃何かしら自治体で関わりを持っている人たちということになります。「機構で対応するから大丈夫」と言われても、現実的には、大丈夫ではない制度なんだと思います。
─ 機構から市町村にも出向してもらうといいかもしれませんね。
林 それは良いことだと思います。市町村にすれば体制強化になりますし。
─ それから市町村の長にもわかってもらわないと。担当者がどういう苦労をしているかを。
滝沢 ほかの市もそうだと思うのですが、新潟市の区役所では、年金だけではなく国民健康保険や後期高齢者医療などいろいろな業務が一つの係の少ない職員に任されているため、毎日難儀をしていると思います。
─ 政令市でそうだとすると、一般の市町村になると、これはもっと大きな問題でしょうね。