地方公務員共済組合の新しい3階部分である退職等年金給付。本年2月支給期の時点で、ある共済組合では10数名の方が受給されているとのことです。そして、有期退職年金については、およそ半数の方が一時金で受給されたとのことです。
今後、受給される方が確実に増えてきますので、今回はまず、基本的情報を提供しておきましょう。
繰上げを受給した場合、加給年金額の加算はどうなるのですか?
〜一元化前に繰り上げした場合と一元化後に原則通りに受給した場合〜
(1)一元化前に、共済年金と厚生年金を繰上げすると、加給年金額の加算はどうなるのか?
一元化前に、共済年金と厚生年金を繰上げすると、加給年金額の加算はどうなるのでしょうか? わかりやすく、事例をもとに説明をしていきましょう。
なお、加給年金額がどういう場合に加算され、どういう場合に支給停止になるのかという基本的事項については、本年金講座の第1回(2015年6月)などに記しておりますので、ご参照ください。
(2)モデル夫婦の基本情報 -サンプルデータ-
モデル夫婦の年金データをもとに、年金の支給開始時期を図表で示しながら説明していきます。
◇夫婦の年金データ(生計維持関係あり)-年齢は、平成28年7月1日現在のもの-
- 夫(昭和30年8月10日生まれ、現在60歳)。
共済組合(市役所勤務)144月、 厚生年金120月、 国民年金100月加入。
60歳に到達して、一元化前に老齢厚生年金と退職共済年金を繰上げ請求する。
本来の支給開始年齢は、62歳(平成29年8月)。平成32年8月に、65歳となる。
- 妻(昭和35年11月30日生まれ、現在55歳)。
共済組合(市役所勤務)120月、 国民年金300月加入。64歳(平成36年11月)に、特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生、平成37年11月に、 65歳となる。
(3)合算の判定の契機とは
共済組合の加入期間と厚生年金の加入期間は、加給年金額の加入期間を判定するうえでは、一元化後は、基本的に合算して判定されます。
一元化前ですと、合算して判定していませんでした。たとえば共済組合に20年以上加入していることが、加給年金額を加算するうえでは必要で、共済組合と厚生年金であわせて20年以上あるからといって、加給年金額が加算になるということはありませんでした。
しかしながら、一元化後に特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生するなど、一定の要件を満たした場合には、合算されることになっています。
これを【合算の契機】といっています。合算するタイミング、時期といってもいいでしょう。 図表7として、資料を示しておきました。
なお、詳細は、拙著『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(日本法令)をご参照ください。
【図表7】一元化後の加給年金額の合算の契機(時期)
(4)一元化前に、共済年金と厚生年金を繰上げ受給すると、合算の契機はどうなるのか?
一元化前に、共済年金と厚生年金を繰上げ受給したときのイメージ図を図表8に示しました。
【図表8】
この事例ですが、一元化前に繰上げをしますので、特別支給の老齢厚生年金を繰上げ受給すれば、老齢基礎年金も繰上げ受給することになり、老齢基礎年金の年金を繰上げるので、特別支給の退職共済年金も繰上げることになる、と理解しています。
さて、加給年金額は加算されるのでしょうか?
4つの選択肢がありますが、どうでしょうか?
① | 一元化前に、60歳で繰り上げたときに合算され、加給年金額は加算されるのか? |
② | 一元化後の、62歳になり、特別支給の老齢厚生年金が支給開始の年齢に到達したときに、加給年金額は加算されるのか? |
③ | 65歳のときに、本来支給の老齢厚生年金に裁定替えされて、そのときに加算されるのか? |
④ | 合算の契機がないので、加給年金額は加算されない。 |
筆者の理解では、①については、一元化前においては、厚生年金と共済年金の加入期間は合算しない取扱いでしたので、合算しません。したがって、加入期間が20年以上と判定されず、一定の要件を満たす配偶者がいたとしても、加給年金額は65歳になっても加算されません。
②についても、【図表7
一元化後の加給年金額の合算の契機(時期)】でお示ししたように、一元化後に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に到達しましたが、今回の事例では受給権が発生しているわけではなく、合算の契機とはなりません。したがって、加入期間が20年以上と判定されず、一定の要件を満たす配偶者がいたとしても、加給年金額は65歳になっても加算されません。
③についても、65歳到達時に、本来の老齢厚生年金の裁定変更が行われませんので、【図表7
一元化後の加給年金額の合算の契機(時期)】でお示ししたように、合算の契機がないと判断されます。したがって、加入期間が20年以上と判定されず、一定の要件を満たす配偶者がいたとしても、加給年金額は65歳になっても加算されません。
筆者は、④を正解と認識しています。
(5)一元化前に、繰上げ受給をせずに、原則通りに受給していたら、どうなっていたか?
では、モデル夫婦の夫が繰上げ受給をしなかった場合は、どうなったのでしょうか? 原則通りに、この事例では、一元化後に、62歳になって受給を開始したら、加給年金額は加算されていたのでしょうか?([モデル夫婦の基本情報]の繰上げ請求に関する記述を二本取消線で記しました)
◇夫婦の年金データ(生計維持関係あり)-年齢は、平成28年7月1日現在のもの-
- 夫(昭和30年8月10日生まれ、現在60歳)。
共済組合(市役所勤務)144月、 厚生年金120月、 国民年金100月加入。
60歳に到達して、一元化前に老齢厚生年金と退職共済年金を繰上げ請求する。
本来の支給開始年齢は、62歳(平成29年8月)。平成32年8月に、65歳となる。
- 妻(昭和35年11月30日生まれ、現在55歳)。
共済組合(市役所勤務)120月、 国民年金300月加入。64歳(平成36年11月)に、特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生、平成37年11月に、 65歳となる
【図表9】
一元化前に、繰上げ受給をしていない場合については、【図表7】
一元化後の加給年金額の合算の契機(時期)でお示ししたように、一元化後に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に到達し、一元化後に受給権が発生していますので、合算の契機となります。したがって、加入期間が20年以上と判定され、一定の要件を満たす配偶者がいますので、加給年金額は65歳になると加算されます(上記【図表9】をご参照ください)。
なお、加給年金額は、共済組合から加算され支給されます。詳細は、【図表10】一元化後の加給年金額の加算の判定ルールをご参照ください。
【図表10】加給年金額の加算の判定ルール
(6)このモデル夫婦からの相談:
加給年金額が受給できるようになるためにはどうしたらいいか?
さて、一元化前に繰上げ受給をしていて、65歳の時点で加給年金額が加算されないということがわかったこのモデル夫婦の夫から、加給年金額(年額390,100円)を受給できるようにしたいという相談を受けました。どのようなアドバイスがあるでしょうか? ぜひ、考えてアドバイスしてあげてください。