地方公務員共済組合の新しい3階部分である退職等年金給付。本年2月支給期の時点で、ある共済組合では10数名の方が受給されているとのことです。そして、有期退職年金については、およそ半数の方が一時金で受給されたとのことです。
今後、受給される方が確実に増えてきますので、今回はまず、基本的情報を提供しておきましょう。
退職等年金給付の年齢区分に、なぜ59歳の終身年金現価率があるのですか? 〜退職等年金給付の年齢の捉え方に要注意!〜
(1)廃止となった職域年金相当部分・創設された退職等年金給付
市役所や県庁、小中学校の教員など、地方公務員共済組合の組合員は、平成27年10月1日から第3号厚生年金被保険者になっています。警察官も同様に、第3号厚生年金被保険者です。
地方公務員の加入していた共済年金は、平成27年10月1日に、厚生年金保険に統一され、旧3階部分の職域年金相当部分の年金は廃止されました。その関係で新たに創設されたのが、退職等年金給付です。
公務員の加入期間と職域年金相当部分・退職等年金給付の関係が、わかりやすく理解できるように、図表1でイメージ図を示しておきましょう。
昭和33年3月3日生まれの地方公務員で、大学卒業後、ずっと市役所に勤めていた人は、平成27年9月までの職域年金相当部分については、廃止になってしまったので、1円ももらえなくなってしまったということではありません。一元化前と同様、従来からの支給開始年齢である63歳になり、年金請求の手続きをすれば、受給できるようになります。ただし、平成27年9月まで支払った長期掛金(共済年金の保険料のこと)に相当する部分だけです。
一方、新しい制度である退職等年金給付については、平成27年10月から定年退職するまでの平成30年3月まで掛金を支払った期間に相当する部分が、原則として、65歳以後受給できるということになっています。
【図表1】職域年金相当部分(廃止)・退職等年金給付(創設)と組合員期間の関係
出典:平成28年度版 被用者年金一元化ガイドシート(社会保険研究所)6頁
(2)退職等年金給付とは
退職等年金給付には、次の3つの種類があります。
①退職年金
②公務障がい年金
③公務遺族年金
退職年金は、次の3つの要件を満たすと、受給することができます。
①65歳以上であること
②退職していること
③1年以上引き続く組合員期間を有していること
ただし、②と③の要件を満たしていれば、60歳から65歳に達する日の前日までの間に、繰上げ請求をすることができます。
なお、「1年以上引き続く組合員期間を有していること」とは、平成27年10月1日をまたいで在職している組合員の場合は、一元化前の組合員期間も含めて判定します。
図表2に【退職等年金給付の概要(1)】として、整理しましたので、ご参照ください。
【図表2】退職等年金給付の概要(1)
(3)退職年金の給付設計・基準利率は0.48%
なお、【退職年金の給付設計】のイメージ図は図表3のとおりです。
地方公務員共済組合の組合員(市役所や県庁の職員など)は、毎月の標準報酬月額から「掛金率」(現在、0.75%)を乗じて得た額を「掛金額」として徴収され、自治体も同額を負担します(「負担金」という)。期末勤勉手当(賞与のこと)からも、同じ掛金率で徴収され、自治体が同額を負担するのも変わりません。
つまり、退職等年金給付の「保険料率」は、現在1.5%であり、それを組合員(「掛金率」)と事業主である自治体(「負担金率」)で折半しているということになります。
この「保険料率」から一定の事務コスト等を控除したものが、「付与率」であり、現在は運用益等を考慮し、「保険料率」と同じ1.5%と設定されています。そして、毎月の標準報酬月額と標準期末手当等の額に、この「付与率」1.5%を乗じて得た額が「付与額」として積立てられていきます(下の【図表3】退職年金の給付設計の左側のイメージ図・「組合員期間中の積立」をご参照ください)。
このようにして積立てられた付与額を基準利率(現在、0.48%、平成28年10月に改定予定)で複利計算し、仮想的に個人別に給付算定基礎額として積立てていきます。
60歳で定年退職するまで積立てをし、退職で積立が完了します。そこから65歳までは、これまでと同様、その時点(毎年10月に改定)の基準利率で複利計算され、給付算定基礎額が形成されていくことになります。
そして、退職後の65歳から受給が始まります。積立てが完了した給付算定基礎額を毎年取り崩していくというイメージを描いていただくとわかりやすいと思います<図表3【退職年金の給付設計】のイメージ図参照:なお詳細については、長沼明著『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(日本法令)をご参照ください(262頁から270頁)。>
現在のように、預金金利が低い時代には、0.48%の基準利率は高い水準といえますが、マイナス金利の時代になっていますので、平成28年10月の改定では、0.48%の基準利率は引き下がるものと筆者は推測しております。
組合員期間が10年以上ある人は、原則として、【図表3】のように、組合員(事業主である自治体も2分の1を負担)が積立てていった給付算定基礎額の2分の1を終身退職年金として、残り2分の1を有期退職年金240月(120月または一時金で受給することも可能)として受給することになります。
なお、「組合員期間が10年以上」とは、平成27年10月1日をまたいで在職している必要はありません。一元化前と一元化後で離れている組合員期間も合計して判定します。
終身退職年金については、終身にわたり、おおむね一定額を受給できるように終身年金現価率が設定されるとのことです。
【図表3】退職年金の給付設計のイメージ図
(4)組合員には毎年通知、組合員だった人には、退職時・35歳時・45歳時・59歳時・63歳時に通知
現職の組合員には毎年、「退職等年金分掛金の払込みの実績、直近1年間の組合員期間において適用される付与率及び基準利率、当該組合員期間の各月における付与額及び基準利率に基づく利息の額並びに当該組合員の付与額及び利息の額の累計額等について、通知を行うこと」(『平成28年度における地方公務員共済組合の事業運営』 平成28年1月29日 総行福第22号 総務省自治行政局公務員部福利課長 発出)とされています。つまり、わかりやすく表現すると、組合員には毎年1回、「給付算定基礎額残高通知書」というものが共済組合から通知され、そこをみると、この1年間にどのくらいの掛金を支払い、これまでに利息がどの程度加算され、累計額でどのくらいの積立額になっているか等を知らせなければならないことになっている、と解されます。退職した組合員などに対しては、退職時・35歳時・45歳時・59歳時・63歳時における、付与額や利息の額の累計額などが通知されてくるという予定になっています(「平成28年度における地方公務員共済組合の事業運営」の通知文の記述内容を筆者の責任において要点をまとめました)。
次の[表4]に[退職等年金給付の基本的事項を概要(2)]としてまとめてありますので、ご覧ください。なお、詳細については、長沼明著『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(日本法令)をご参照ください(262頁から270頁)。>
【図表4】退職等年金給付の概要(2)
(5)退職年金の期間は、10月1日から翌年9月30日までが1つの給付期間
終身退職年金の年齢区分:
当初決定時の年齢は前年の3月31日現在の年齢+1歳
(1月から9月までに受給権が発生した場合)
年金の世界では、年齢の捉え方が、すこし難解と感じられるときがあります。
たとえば、昭和31年6月15日生まれの人が、60歳になるのは、平成28年6月15日ではなく、平成28年6月14日になります。『年齢計算に関する法律』では、そのように規定されています。
厚生年金や共済年金、国民年金では、『年齢計算に関する法律』を根拠に、年齢をカウントしていました。
終身退職年金を受給するときの「終身年金現価率」の「年齢区分」を適用するときは、ちょっと注意が必要です。
図表5の【終身年金現価率表】をご覧ください。
59歳の年齢区分があることを確認できましたでしょうか?
【図表5】終身年金現価率表
ご覧のように『終身年金現価率表』の年齢区分に、「59歳」の年齢区分があります。
公務員は、60歳よりも早く59歳から受給できる"ウラ技"があるということなのでしょうか?
すでに述べているように、終身退職年金は、原則として65歳からの受給となりますが、60歳から繰上げて受給することも可能です。しかし、59歳からの繰上げ受給はできません。では、なぜ、「59歳」の年齢区分があるのでしょうか?
終身退職年金の受給権者の年齢区分は、最初に受給権が発生したときは、次のように決定されるからです〈当初決定時〉。
■受給権の発生が1月1日から9月30日まで
……その前年の3月31日現在の年齢に加算すること1歳の年齢区分
■受給権の発生が10月1日から12月31日まで
…その年の3月31日現在の年齢に加算すること1歳の年齢区分
したがって、たとえば、平成28年7月15日に65歳になり(昭和26年7月16日生まれ:平成28年3月31日に地方公務員を退職)、終身退職年金の受給権の発生した人の場合、前年の3月31日の時点ではまだ63歳であり、その年齢に1歳加算すると、64歳になりますので、「64歳」の年齢区分の「終身年金現価率」を適用し、終身退職年金の年金額を算定することになります(平成28年9月30日まで)。
なお、次の期間からは、毎年10月1日から翌年9月30日においては、その受給権者の、その年の3月31日現在の年齢に1歳を加算した年齢区分に応じて、改定された新しい『終身年金現価率表』(適用期間:たとえば平成28年10月1日から平成29年9月30日)の「終身年金現価率」を適用して、終身退職年金の年金額を算定することになります。
したがって、すでに受給権の発生した、この昭和26年7月16日生まれの受給権者の場合、次の期間である平成28年10月1日から翌年9月30日においては、その年(平成28年)の3月31日現在の年齢は64歳であり、それに1歳を加算した年齢区分は「65歳」となるので、『終身年金現価率表』の「65歳」の年齢区分の「終身年金現価率」を適用して、平成28年10月から平成29年9月までの終身退職年金の年金額を算定することになります。
(6)退職年金の期間は10月1日から翌年9月30日までが1つの給付期間:
60歳で繰上げ受給をした場合、59歳の年齢区分を適用する場合がある
たとえば、昭和35年6月10日の生まれの地方公務員が、平成32年3月31日に、定年を1年前倒して、地方公務員を退職し、平成32年6月9日に60歳になり、その時点で繰上げ請求をして受給権者になると、前年の3月31日の時点では、まだ58歳であり、1歳を加算しても59歳にしかなりません。
そのため、『終身年金現価率表』の年齢区分では、「59歳」の年齢区分が適用される(その年の9月まで)ことになります。
そして、その年の10月1日からは、その年の3月31日の年齢・59歳に1歳を加算して、「60歳」の年齢区分が適用される(その年の10月から翌年9月まで)、ことになります。
当然、このときは、改定後の『終身年金現価率表』の「60歳」の年齢区分が適用されます。
(7)参考図書の紹介:関根繁雄著
『よくわかる国家公務員の医療・年金ガイドブック 平成28年度版』(出版社:共済組合連盟)
【図表6】
日本で、いま、共済年金に一番詳しい人は、関根繁雄先生だと私は思います。その先生が、『よくわかる国家公務員の医療・年金ガイドブック 平成28年度版』(出版社:共済組合連盟)(図表6)を出版されました。価格も安くて、1,019円+税ですが、内容の充実度は、4,800円程度の分厚い本に匹敵します。
ムダのない記述で、奥の深い内容が網羅されています。
ぜひ、購入し、一読・二読・三読をお勧めします。
読むたびに、年金についての新しい発見があります。
本稿は関根先生の本を参考に執筆しました。深く感謝し、厚く御礼を申し上げます。