特別寄稿

被用者年金一元化をめぐって

神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 山崎 泰彦
神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 山崎 泰彦

 昨年は、公的年金制度の歴史上、大きな節目になる年であった。一つは、マクロ経済スライドの施行により、年金制度の持続可能性の確保に向けた平成16年改正のフレームが動きだしたこと。もう一つは、昨年10月の被用者年金一元化法の施行により、昭和59年の閣議決定による公的年金制度の一元化が実現したことである。
 被用者年金一元化については、これが公的年金制度改革の「最終的な到達点」なのか、それとも長い道程の「一里塚」にすぎないのか、いろいろな見方があろう。たとえば、民主党が提案しているような、税財源による最低保障年金とセットにした単一の所得比例年金への一元化のような姿を最終到達点だと考える人には、一里塚にすぎないのかも知れない。が、ここに至る長い過程を見聞してきた私には、相当に完成度の高い到達点であるように思える。
 この間の経緯を振り返りつつ、雑感を記しておきたい。

職域年金から社会保障年金へ

 被用者年金一元化は、昭和50年代初頭から始まる年金の「官民格差論議」とその解消に向けた取組みの最終的な到達点でもある。
 皆年金体制下に組み込まれたとはいえ、当時の共済年金は、支給開始年齢55歳、退職年金額は最終1年の平均俸給をベースとして最高40年加入で70%、退職後は民間企業に在職しても全額支給、退職年金と遺族年金が全額併給されるなど、厚生年金との給付格差は歴然としていた。また、社会保障制度の一翼を担うとすれば、制度内の所得再分配機能も重視されるが、最終俸給比例方式では、その機能を持たないのみか、昇給カーブの高低があることからすれば、生涯の給与(掛金)以上の格差を生むことになる。
 が、それは共済年金が公務員等の職域独自の職域年金としての特性を色濃く残していたからである。このことは、退職金との類似性で考えればわかりやすい。伝統的な退職金は、勤続期間に対して累進的であり、最終給与に比例し、退職と同時に全額が支給される。これには、昇進や長期勤続に対するインセンティブがあり、定年制を円滑に機能させる上でも有効である。
 当時の官民格差論には、恩給期間分の追加費用について、これを'隠し財源'として追及するなど誤解によるものがあったが、総じて職域年金から社会保障年金への切替えを求めるものであったように思う。しかも、共済年金についても財政不安が語られるようになって、自らも襟を正す必要に迫られるようになった。
 社会保障年金への切替えの過程について素描すると、①昭和36年の通算年金通則法の制定にともなって、20年の受給資格期間が実質的に解消、②昭和49年改正により、最終俸給の低い者に対しては通算退職年金方式(厚生年金方式)の選択制を採用、③昭和54年改正により、支給開始年齢を55歳から60歳へ引き上げ、④昭和61年の改正により、2階部分を厚生年金相当分と職域年金相当分に分離、⑤最終的に今回の一元化により、職域年金相当分が廃止され、純粋な職域年金として年金払い退職給付が導入された。

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