特別寄稿

被用者年金一元化をめぐって

神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 山崎 泰彦
神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 山崎 泰彦

 昨年は、公的年金制度の歴史上、大きな節目になる年であった。一つは、マクロ経済スライドの施行により、年金制度の持続可能性の確保に向けた平成16年改正のフレームが動きだしたこと。もう一つは、昨年10月の被用者年金一元化法の施行により、昭和59年の閣議決定による公的年金制度の一元化が実現したことである。
 被用者年金一元化については、これが公的年金制度改革の「最終的な到達点」なのか、それとも長い道程の「一里塚」にすぎないのか、いろいろな見方があろう。たとえば、民主党が提案しているような、税財源による最低保障年金とセットにした単一の所得比例年金への一元化のような姿を最終到達点だと考える人には、一里塚にすぎないのかも知れない。が、ここに至る長い過程を見聞してきた私には、相当に完成度の高い到達点であるように思える。
 この間の経緯を振り返りつつ、雑感を記しておきたい。

退職給付の官民均衡

 公務員年金の在り方を論ずる場合、一時金制度である退職手当との関係が重要な論点になる。

【平成18年前の均衡論】

 わが国では、国家公務員給与は人事院勧告に基づいて決定され、退職手当についても、人事院が概ね5年ごとに実施する民間企業の退職金実態調査に基づいて、民間との均衡を図るという観点から見直しが行われてきた。
 人事院調査において国家公務員の退職手当が準拠する民間の退職金の範囲は、退職一時金と企業年金(一時金換算額)の使用者負担分の合計額であった。民間の企業年金の多くは退職一時金を年金化したものである。また、その年金にしても、選択一時金や一時金の分割払い的な有期年金を採用するものが多い。このような実態からすれば、一時金と代替関係にある企業年金部分を含めて民間の退職金水準とするのは当然であろう。
 ただし、当時の人事院調査では、共済職域部分は民間退職金との比較の対象外とされた。浅尾慶一郎参議院議員の質問趣意書に対する政府答弁書(平成16年4月20日)は、以下のように述べている。
 「国家公務員共済年金の職域加算部分は、公的年金の中で、公務の能率的運営に資するという観点から、国家公務員に様々な身分上の制約が課せられていること等を踏まえて設けられたものであり、その給付水準は民間企業の企業年金の支給水準との関係で設定しているものではない。このように、国家公務員共済年金の職域加算部分は、勤続報償を基本的性格とする国家公務員の退職手当とは異なる性格のものであることから、これを退職金の支給水準の官民比較の対象に含めていない現状は妥当なものである。」
 このように、当時の政府見解では、公務員の身分上の制約等を踏まえて設けられている共済職域部分と勤続報償としての退職手当とは異なる性格のものであり、両者の合計額が民間退職金を上回るとしても問題なし、とされていたのである。

【新たな均衡論】

 しかしその後、平成18年から、人事院調査は新たな観点から行われることになった。それは、平成18年4月28日の閣議決定で、公的年金としての職域部分を廃止することと、新たな公務員制度について、人事院が実施する調査の結果を踏まえて、制度設計を行うこととされたことによる。
 新たな人事院調査では、「共済職域や公務の退職手当については、両者とも退職後の生活保障という性格を持つことは明らかであるから、民間の退職給付と比較して、そのあるべき水準を考える場合には、官民それぞれの使用者拠出に係る年金、退職一時金を合わせた退職給付の総額を比較することが適当と考えられる。」とされた。
 こうして、それまで退職手当の官民均衡の対象外とされていた共済年金の職域部分についても、退職給付としての共通性から官民均衡の対象とすることとされ、平成24年の被用者年金一元化法とそれにともなって導入されることになった「年金払い退職給付」は、このような退職給付の新たな官民均衡論にもとづいて設計されることになった。

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