遺族年金は、被保険者が死亡したら必ず家族は受け取れるのでしょうか。
人が亡くなったのだから、できるだけ保険でフォロー(※)してほしいところですが、実際には被保険者(国民年金や厚生年金保険の加入者)が亡くなったからと言って、遺族年金が必ずしも家族に支給されるわけではありません。
また、逆に既に被保険者ではないけど、家族が遺族年金を受け取れることもあります。
遺族年金を知る2回目は、「遺族年金、どんなときにもらえるの?」です。
遺族年金を家族が受け取るための要件を整理していきます。
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この記事の目次
遺族基礎年金は「なお書き」が大事
まず、『遺族基礎年金』を見ていきます。
死亡した本人の要件は以下の通りです。
この中で1つでも当てはまるものがあることが大前提ですが、注意したいのは、後に記載した「なお書き」です。
【死亡した本人の要件】
- 国民年金の被保険者である間に死亡したとき
- 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
- 老齢基礎年金の受給権者(*)であった方が死亡したとき
- 老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
(*)受給権者:年金を受給できる要件を全て満たしている人のこと
『なお』、です。
上記の1と2の要件については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上であることが必要です。
ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月まで直近1年間に保険料の未納がなければ良いことになっています。
ややこしいですが、『要は国民年金の保険料はちゃんとある程度払ってないとダメで、令和7年度までなら、直近払っていればOKという救済措置が一応あるよ』、と理解しておけば良いでしょう。
「国民年金加入期間の3分の2以上」って、
どうやって計算するの?
「国民年金加入期間の3分の2以上」を下記の方を例に
具体的に計算してみましょう。
【前提】亡くなられた方の内容
・生年月日:昭和57年4月10日
・死亡日 :令和4年5月10日(死亡当時40歳)
・被保険者期間(年金加入期間):240月(20歳から年金制度に加入)
・国民年金保険料 納付済期間 :30月 免除期間:12月 未納期間:78月
・厚生年金保険の被保険者期間 :120月
20歳から亡くなった40歳までの20年間(240月)に年金の加入期間が3分の2以上(160月)あれば、未納期間78月(6年6ヶ月)あったとしても、なんとか遺族年金の対象になります。
なお、厚生年金保険の期間は、年金の加入期間に含まれます。
※ 日本年金機構 遺族年金ガイドより抜粋
「死亡日が含まれる月の前々月まで直近1年間に
保険料の未納がない」って、どういうこと?
「死亡日が含まれる月の前々月‥‥」言葉では、わかりづらいですね。
そういう時は図にしてみると理解しやすくなります。
いかがでしょうか。
「保険料納付済期間」はもちろんのこと、「保険料免除期間」もその期間に含まれます。
直近1年間に「未納」の期間がないため、遺族年金は受け取ることができます。
※ 日本年金機構 遺族年金ガイドより抜粋
なお、3および4の要件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(学生であった期間や海外に居住していた期間)を合算した期間が25年以上ある方に限ります。
この要件は既に現役を退いた世代のものですが、『その現役時代にある程度保険料を納付した方でなければ遺族基礎年金は対象とならない』、ということです。
※「保険料免除制度」に関する内容は下記の「くらしすと」ページをご覧ください。
(国民年金保険料の「免除制度」と「猶予制度」は何が違うのですか?)
国民年金の納付をおろそかにしていると、自分が突然亡くなった際、遺族に対して本来渡されるべきお金を渡せなくなる可能性があります。
以前、障害年金の解説で、自身が障害者になったときのために、国民年金の納付や免除申請はきちんと行っておこう、と書かせていただきました。
遺族年金のことを考えると、自分のためだけではなく、残される大切な家族のためにも、国民年金のことをきちんとしておくことが大事なのです。
初診日によっては亡くなったときに被保険者でなくても遺族厚生年金が支給される
次に、『遺族厚生年金』を見ていきましょう。
以下は死亡した本人の要件です。
以下の5つのいずれかの要件を満たしていれば良いのですが、遺族基礎年金と同様に「なお書き」があります。
【死亡した本人の要件】
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金保険の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
『なお』、です。
1と2の要件については、前段の遺族基礎年金の納付要件が前提となります。
また、4と5の要件も基礎年金と同じく合算期間25年以上、という縛りがあります。
特徴的なのが2ですね。
会社員時代に発症した病気やけがが原因であれば、その後退職して被保険者でなかったとしても、5年以内に亡くなれば遺族厚生年金が支給されます。
発症から死亡まで5年以内であれば、死亡原因は被保険者期間中にあったと因果関係が認められるということです。
これを知っていると知らないでは、受け取れる金額が大きく変わりますので、覚えておきましょう。
婚姻は事実よりも関係性
前回も少しだけ触れましたが、離婚をしていた場合、遺族年金の関係はどのようになるのでしょうか。
まず、原則で言えば離婚後の元夫婦は他人であり、例えば元夫の死亡により元妻に受給権は発生しません。親子関係は継続していますので、子どもの受給権は離婚には原則影響しません。
ただし、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子には『遺族基礎年金』は支給されないという支給停止措置があるため、実際には離婚後に元妻と子が一緒に暮らして、元妻が子どもと生計を立てているケースでは、元夫の『遺族基礎年金』は支給されないことになります。
ただし、『遺族厚生年金』には、親がいることによる支給停止要件がありませんので、 死亡した親から仕送りを受けていたなどの生計を同一にしている事実があれば、『遺族厚生年金』を子が受け取ることができます。
もっとも、別れた後に上記ケースであれば夫が再婚して子どもがいる場合、優先順位は新しい子となるため、元妻との子には遺族年金は支給されません。
図を使ってまとめると下記のとおりです。
ところで、レアケースではありますが、例外があります。
夫婦が借金取りなどの暴力から逃れるために偽装的に離婚をし、実質的には生計を同一にしていたケースなどで、離婚していても遺族年金の支給が認められたことがあります。
また、離婚後に別の親の養子になったケースなどでも同様で、結局、大事なのは生計同一要件となります。
必ず受け取れるとは言えないのですが、書面上夫婦や親子で無くなっていたとしても、実際に夫婦親子の関係性を維持していたのであれば、遺族年金の支給が認められることがあります。
特別な事情があるなら、年金事務所などにご相談に行くことがお勧めします。
「これからの遺族年金は••••」
国民年金や厚生年金保険、いわゆる公的年金制度は、「老齢」「障害」「死亡」という3つの社会的リスク(誰もが直面する可能性のある普遍的なリスク)をカバーすることが目的の強制加入保険です。
日本の国民すべての人が、この制度に加入することを義務付けられています。
でも、最近は、「ライフスタイルが多様化している」とも言われてますね。
例えば、「結婚する人の割合が減った」とか、「結婚しても子供を持たない人が増えた」とか、そんな話も珍しくありません。
でも、これまで学んだ遺族年金は「子供がいないともらえない」とか「夫より妻の方が優先する」とか‥。国民全員が加入を義務付けられている制度なのに、時代にあってないようにも感じます。
2023年5月8日の「第3回 社会保障審議会年金部会」では、下記のような意見が出されました。
「今後の社会は、男女ともに就労することが一般化していくと想定される中で、遺族年金についても社会の変化に合わせて制度を見直すことが必要であり、遺族厚生年金の遺族の範囲や要件の男女差等が今の時代に合っているのかどうか、将来を見据えた検討が必要。」
厚生労働省ホームページ:第3回社会保障審議会年金部会より
まだ、議論は始まったばかりですが、「時間をかけて(20年ぐらい)、基本的な考え方の整理から行っていく」としています。これから、時代にあった制度へ変わるかもしれません。
「社会保障審議会」とは、厚生労働省に設置された審議会の一つです。社会保障制度の横断的な基本事項を審議しています。皆さんの生活に関係する年金も、こうした議論のもとに決められています。 これから、どんな議論がなされるのか? 皆さんも耳を傾てみてはいかがでしょうか。
大切な人との縁を切らさない
遺族年金は故人が残された家族のために渡すことができる最後のお金とも言えるでしょう。それは、亡くなった方が残された家族へ感謝を伝え続けることができるメッセージとも言えます。
国民年金を滞納することで、人生最後のメッセージを伝えられないとしたら、こんな悲しいことはありません。
残されるかもしれない人のために、遺族年金がきちんと支給されるのかを生きているうちに確認しておきましょう。
次回は、本題とも言えます。「遺族年金って、いくらもらえるの?」です。
具体的な金額を計算していきます。お楽しみに。