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年金・社会保険
掲載:2019年12月13日

“目で見る”年金講座【第15回】
繰下げ受給のデメリットとは?

②繰下げすると損をする場合がある

「加給年金額」が加算される人は老齢厚生年金の繰下げは慎重に

 老齢厚生年金に「加給年金額」が加算される人については、繰下げをしても「加給年金額」が増額されることはありません。また、繰下げを待機している期間(65歳~繰下げ受給の開始まで)に「加給年金額」のみを受け取ることもできません。

【用語解説】

「加給年金額」の加算

厚生年金保険に原則20年以上加入している人の老齢厚生年金には、その人に生計を維持されている配偶者や子がいる場合、加給年金額が加算されます。

※ 配偶者の加給年金額が加算されるのは、配偶者が65歳になるまでです。

※「生計を維持されている配偶者や子」については、【第7回】『「生計を維持されている」とは?』を参照してください。

●加給年金額

配 偶 者 224,500円(月額18,708円)
1人目・2人目の子 各224,500円(月額18,708円)
3人目以降の子 各74,800円(月額 6,233円)

昭和9年4月2日以後に生まれた受給権者には、受給権の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額に特別加算が行われます。

●配偶者の加給年金額の特別加算

受給権者の生年月日 特別加算額 加給年金額の合計額
昭和 9年4月2日~昭和15年4月1日 33,200円 257,700円(月額21,475円)
昭和15年4月2日~昭和16年4月1日 66,200円 290,700円(月額24,225円)
昭和16年4月2日~昭和17年4月1日 99,400円 323,900円(月額21,475円)
昭和17年4月2日~昭和18年4月1日 132,500円 357,000円(月額29,750円)
昭和18年4月2日以後 165,600円 390,100円(月額32,508円)

 それでは、Aさんの例を見てみましょう。

【事例4:Aさんと繰下げ受給④】加給年金額の加算の有無による比較

今年65歳になるAさんに、5歳下の妻Bさんがいる場合(1)

BさんはAさんに生計を維持されている。

Bさんには15年の厚生年金加入期間があり、65歳から老齢基礎年金・老齢厚生年金を合わせて100万円の年金が受け取れる見込み。

Aさんが65歳から本来の年金額を受け取る場合、Bさんが65歳になるまでの5年間、加給年金額が加算されることになっている。

ア.Aさんが65歳から本来の年金額を受け取り、85歳まで生きた場合

本来の年金額:200万円
加給年金額:22.45万円+16.56万円=39.01万円(便宜上39万円とします。)

65歳から70歳になるまで(Bさんが65歳になるまで):239万円×5年=1,195万円
70歳から85歳になるまで:200万円×15年=3,000万円

⇒ 計:4,195万円

イ.Aさんが70歳からの繰下げ受給の年金を受け取り、85歳まで生きた場合

本来の年金額:200万円
70歳からの繰下げ受給の年金額:200万円×142%=284万円

65歳から70歳になるまで(Bさんが65歳になるまで):0円
70歳から85歳になるまで:284万円×15年=4,260万円

⇒ 計:4,260万円

※なお、Bさんが65歳から80歳になるまで自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給、80歳から自分の老齢基礎年金と遺族厚生年金を90歳まで受給する場合、Bさんの受給総額は3,115万円と試算されます。

 Aさんが85歳まで生きれば、繰下げ受給をしたほうが額面上でトクすることになります。が、前項で述べたように、手取り額は額面ほど増えません。また、Aさんが84歳で亡くなったとすると、額面上でも繰下げ受給をした場合の総額のほうが下回ります。
 妻との年齢差によっても加給年金額の受給総額は変わってくるので一概には言えませんが、加給年金額の加算の有無は、繰下げ受給を検討する際の大きなポイントであると言えます。
 なお、繰上げ受給・繰下げ受給は、老齢基礎年金だけでも老齢厚生年金だけでもすることができます。老齢厚生年金を65歳から受給すれば、老齢基礎年金だけを繰り下げても、加給年金額は加算されるのです。Aさんの例で見てみましょう。

【事例5:Aさんと繰下げ受給⑤】老齢基礎年金だけを繰り下げた場合

今年65歳になるAさんに、5歳下の妻Bさんがいる場合(2)

Aさんは、老齢基礎年金78万円は5年繰り下げ、老齢厚生年金122万円は65歳から受け取ることにしたケース。

その他の条件は事例4と同じで、Aさんが85歳まで生きるとして試算。

●老齢基礎年金(5年繰下げ)

本来の年金額:78万円
70歳からの繰下げ受給の年金額:78万円×142%=111万円

70歳から85歳になるまで:111万円×15年=1,665万円 ─①

●老齢厚生年金

本来の年金額:122万円

65歳から70歳になるまで(Bさんが65歳になるまで):161万円×5年=805万円 ─②
(※122万円+加給年金額39万円)
70歳から85歳になるまで:122万円×15年=1,830万円 ─③

⇒ 計:①+②+③=4,300万円

※事例4と同様として、Bさんの自分の年金の受給総額は3,115万円と試算されます。

 Aさんのように、老齢基礎年金だけを繰り下げて加給年金額ももらえるようにすると、老齢基礎年金・老齢厚生年金を一緒に65歳から受け取る場合、あるいは一緒に70歳まで繰り下げる場合よりも受給総額が大きくなりますので、加給年金額が加算される条件を満たしている人は検討してみるとよいでしょう。

遺族厚生年金の受給権発生によって繰下げがムダになるケースも

 ここで遺族厚生年金について簡単に説明しておきます。
 遺族厚生年金は、厚生年金の加入者または受給者が死亡した場合に、一定の要件を満たす遺族に、死亡した人の老齢厚生年金の4分の3の額が支給されます(加入者が死亡した場合などに、加入期間が300月に満たないときは300月分に増額されます)。
 ただし、遺族厚生年金を受け取る配偶者が65歳以上の場合は、「①死亡した人の老齢厚生年金額の4分の3」か、「②死亡した人の老齢厚生年金額の2分の1と自分の老齢厚生年金額の2分の1を合わせた額」の、どちらか多い方が支給されます。支給の仕組みは実際はもう少し複雑ですが、ここではこの程度の理解をしたうえで、Aさんの例を見てみましょう。

【事例6:Aさんと繰下げ受給⑥】遺族厚生年金と繰下げ受給(1)

Aさんが75歳で亡くなり、妻Bさん(70歳)が遺族厚生年金をもらう場合(1)

Aさんの老齢基礎年金78万円・老齢厚生年金は122万円

Bさんの老齢基礎年金70万円・老齢厚生年金は30万円

Bさんがもらう遺族厚生年金は「①Aさんの老齢厚生年金122万円の4分の3の91.5万円」か、「②Aさんの老齢厚生年金122万円の2分の1(61万円)とBさんの老齢厚生年金30万円の2分の1(15万円)を合わせた額の76万円」の、どちらか多い方、すなわち「①91.5万円」が支給される。

Bさんは90歳まで生きるとして試算。

ア.Aさんは65歳から本来の年金額を受け取り、75歳で死亡した場合。
Bさんは65歳からAさんが亡くなる70歳までの5年間、自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取り、70歳からは遺族厚生年金と自分の老齢基礎年金を受け取り、90歳で死亡した場合。

Aさん~65歳から70歳になるまで:239万円×5年=1,195万円 ──①
(※老齢基礎年金78万円+老齢厚生年金122万円+加給年金額39万円)
Aさん~70歳から75歳になるまで:200万円×5年=1,000万円 ──②
(※老齢基礎年金78万円+老齢厚生年金122万円)
Bさん~65歳から70歳になるまで:100万円×5年=500万円 ───③
(※老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金30万円)
Bさん~70歳から90歳になるまで:161.5万円×20年=3,230万円 ─④
(※老齢基礎年金70万円+遺族厚生年金91.5万円

夫婦(AさんとBさん)の受給総額(①+②+③+④)⇒ 計:5,925万円

イ.Aさんは、70歳からの繰下げ受給の年金を受け取り、75歳で死亡した場合。
Bさんは、上記と同様。

Aさん~65歳から70歳になるまで:0円(繰下げ受給の待機中)  ──①
Aさん~70歳から75歳になるまで:284万円×5年=1,420万円 ──②
(※老齢基礎年金78万円+老齢厚生年金122万円の42%増)

上記のBさんと同様

Bさん~65歳から70歳になるまで:100万円×5年=500万円 ───③
Bさん~70歳から90歳になるまで:161.5万円×20年=3,230万円 ─④

夫婦(AさんとBさん)の受給総額(①+②+③+④)⇒ 計:5,150万円

 事例6は、繰下げ受給をしたほうが夫婦の受給総額がかなり少なくなるケースです。これは、Aさんが繰下げ受給の損益分岐点よりも早く亡くなった場合なので当然なのですが、もう1つ注目すべきなのは、Aさんが繰下げをしようがしなかろうが、妻のBさんが受け取る遺族厚生年金の額は変わらないという点です。繰下げ受給によって老齢厚生年金の額を増やしても遺族厚生年金の額は増えないということは覚えておきたいポイントです。
 では、逆に妻のBさんが繰下げ受給を選択した場合はどうなるでしょう?

【事例7:Aさんと繰下げ受給⑦】遺族厚生年金と繰下げ受給(2)

Aさんが75歳で亡くなり、妻Bさん(70歳)が遺族厚生年金をもらう場合(2)

Aさん・Bさんの年金額等、諸条件は事例6と同じで、Bさんは90歳まで生きるとして試算。

ア.Aさんは65歳から本来の年金額を受け取り、75歳で死亡した場合。
Bさんは自分の年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)の受け取りを繰り下げて、70歳から受給しようとしていたところAさんが亡くなり、繰下げで増額した自分の老齢基礎年金と遺族厚生年金を受け取り、90歳で死亡した場合。

Aさん~65歳から75歳で亡くなるまでの受給総額:2,195万円 ──①
(※事例6のア.の①+②)  
Bさん~65歳から70歳になるまで:0円(繰下げ受給の待機中) ──②
Bさん~70歳から90歳になるまで
 老齢基礎年金 99.4万円(70万円の42%増)×20年=1,988万円 ─③
 遺族厚生年金 91.5万円(事例6と同じ)×20年=1,830万円   ──④

夫婦(AさんとBさん)の受給総額(①+②+③+④)⇒ 計:6,013万円

イ.Aさんは65歳から本来の年金額を受け取り、75歳で死亡した場合。
Bさんは自分の老齢基礎年金のみ繰り下げて、70歳から受給しようとしていたところAさんが亡くなり、繰下げで増額した自分の老齢基礎年金と遺族厚生年金を受け取り、90歳で死亡した場合。

Aさん~65歳から75歳で亡くなるまでの受給総額:2,195万円 ──①
(※事例6のア.の①+②)  
Bさん~65歳から70歳になるまで
 老齢基礎年金 0円(繰下げ受給の待機中)
 老齢厚生年金 30万円×5年=150万円   ────────────②
Bさん~70歳から90歳になるまで
 老齢基礎年金 99.4万円(70万円の42%増)×20年=1,988万円 ─③
 遺族厚生年金 91.5万円(事例6と同じ)×20年=1,830万円   ──④

夫婦(AさんとBさん)の受給総額(①+②+③+④)⇒ 計:6,163万円

 事例6と事例7は、どちらもAさんが75歳、Bさんが90歳で亡くなるケース(夫は平均余命よりも早く亡くなり、妻は長生きするケース)ですが、比較してみると、夫が繰下げするより妻が繰下げをするほうが受給総額が多くなることがわかります。
 夫のほうが妻よりも年金額が相当に高い場合、夫が繰下げ受給を選択して年金額を増やそうとしても、増額の果実を得る前に亡くなると、繰下げ受給の待機をしていた期間の年金がソンになってしまう一方、一般に長生きである妻の年金を繰り下げておくと、増額の果実を長く得ることができます。
 また、事例7のア.とイ.の比較でわかるように、妻が繰下げで老齢厚生年金を増やしても遺族厚生年金のほうが高い場合が多いので、老齢基礎年金だけを繰り下げたほうがトクになることのほうが多いかもしれません。
 ただし、何度も繰り返しますが、繰上げ・繰下げのソン・トクは一概には言えません。長生きするかしないかによって変わってくることはもちろん、本人や配偶者の年金額や年齢差などによっても変わってきます。社会・経済情勢の変化により年金制度(年金額改定)も見直されていく可能性もあります。自分や夫婦の年金についてよく理解したうえで、場合によっては専門家に相談したりして、老後のライフプランをしっかり見据えて選択することがなにより大切です。

point

1.加給年金額は、老齢厚生年金を繰り下げても増額されず、繰下げの待機中も支給されない(老齢基礎年金だけを繰り下げるのも一つの方法である)

2.老齢厚生年金を繰り下げて増額させても、遺族厚生年金には反映されない

3.女性の平均余命を考慮すると、夫が繰下げするより妻が老齢基礎年金だけを繰り下げることが有効な場合が多い

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