2保険料の納付(徴収)の時効は2年
未納期間を減らすために時効になる前に納付を
前項では、年金の受給に関する時効について解説しました。本項では、保険料に関する時効について見てみましょう。
国民年金の被保険者には、第1号被保険者(自営業者など)、第2号被保険者(会社員など)、第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者)の3種類があります。第2号被保険者の保険料は給料から天引きされますし、第3号被保険者は保険料の負担がありませんから、基本的には保険料の未納は生じません。したがって、保険料の時効に関係するのはほとんど第1号被保険者になりますので、以下、第1号被保険者の国民年金保険料のことについて説明します。
結論から言いますと、国民年金の保険料は納付の期限から2年で時効になります。これは、法律的に見れば「納付期限を2年過ぎた保険料を国は徴収することができない」という言い方になります(これについては後述します)が、年金権を確保したい、年金額を増やしたいという被保険者の視点で言えば、「納付期限を2年過ぎた保険料は納付することができない」ということになります。
【図表2】国民年金保険料の納付の時効
いまさらですが、納付できない(=未納になる)と、どんなデメリットがあるでしょうか?
一つには、受給資格期間を満たせなくなる場合があることです。ただ、事例①でも触れたように、受給資格期間は10年ですので、これを満たすのはそれほど難しくはないと言えます。やはり、未納の最大のデメリットは、年金額が減るということです。老齢基礎年金を満額に近づけるために、未納期間がある場合には遡って納付したいものです。しかし、保険料納付の時効は2年と短く、2年を過ぎると納付したくてもできなくなるわけですから、十分に注意してください。
参考までに未納のデメリットについて付け加えますと、未納期間が長くなると、いざというときの障害基礎年金や遺族基礎年金の受給要件を満たさない場合も出てきます。そして、もう一つ。支給される年金の半分は税金で賄われているということです。国民年金の保険料を払っていない人も、さまざまな形で税金は払っているわけで、未納によって年金がもらえなかったり減額されるということは、納めた税金の分について損をしているという言い方もできるのです。収入が少なくて保険料が払えないという人は、「免除」という制度があることも理解しておいてください。
督促状が送付されると時効はリセットされる
そもそも、国民年金への加入は任意ではなく強制です。保険料の納付は義務であり、税金と同じく、滞納すると財産が差し押さえられることになっています。日本年金機構は行政機関ではありませんが、裁判なしで差し押さえることのできる権限を持っているのです。
実際には差し押さえまでやることはないだろうと思うかもしれませんが、ここ数年、滞納者から保険料を強制的に徴収する「強制徴収」が強化されています。図表3のとおり、強制徴収の対象となる基準は年度を重ねるごとに厳格化されています。また、図表4を見れば、実際に差し押さえが実施されていることがわかります。
【図表3】強制徴収の対象となる基準の推移
年度 | 年間所得 | 未納期間 |
---|---|---|
2014 | 400万円以上 | 13ヵ月以上 |
2015 | 400万円以上 | 7ヵ月以上 |
2016 | 350万円以上 | 7ヵ月以上 |
2017 | 300万円以上 | 13ヵ月以上 |
2018 | 300万円以上 | 7ヵ月以上 |
【図表4】強制徴収の実施状況
最終催告状の送付 | 督促状の送付 | 財産差し押さえ | 完 納 | |
---|---|---|---|---|
2016年4月~ 2017年3月分 |
85,432件 | 50,423件 | 13,962件 | 76,758件 |
2017年4月~ 2018年3月分 |
103,614件 | 66,270件 | 14,344件 | 80,446件 |
※日本年金機構の資料(2018年6月29日発表)より作成
もちろん、いきなり差し押さえが実施されることはありません。図表5のように、電話や訪問も含めて、何度も納付の「督励」があります。この納付特例の最終段階が「最終催告状の送付」で、それでも納付しない場合に、「督促状の送付」に始まる「強制徴収」に入ります。
【図表5】保険料未納から強制徴収への流れ
さて、ここで「時効」の問題に戻ります。
時効について、法律的に見れば「納付期限を2年過ぎた保険料を国は徴収することができない」ということだと述べました。とすると、とにかく保険料を2年納付しないでいれば、その分は時効によって強制徴収されることはないのでしょうか。
答えはノーです。督促状には時効を「中断」する効力があるのです。ここで言う「中断」とは、時効の起算日である「納付期限の翌月末日」から経過した時効期間の効力が「消滅」することを意味します。つまり、督促状が送付されると時効はリセットされるということです。
保険料を納付せずに、いろんな通知が来ても放置していれば、そのうちに2年が過ぎる。そうなれば時効が成立して徴収されることはなくなる…ということはないと考えましょう。
年金詐欺にはくれぐれもご注意を
年金給付の時効、保険料納付期限の時効について見てきましたが、そこにつけ込むような詐欺も発生しています。「あなたには受給できる年金がありますが、このままでは時効となり請求できなくなります」とか「あなたには保険料の未納期間があり、このままでは差し押さえの手続きがとられます」などと言って、その状況を回避するためとして、個人情報を聞かれたりATMでの操作を指示されたりするものです。非常に巧妙なので十分な注意が必要です。
日本年金機構が、金融機関の口座を指定して保険料の振込みを指示したり、ATMの操作を求めたりすることは絶対にありません。また、訪問員がその場で保険料や延滞金・手数料などと称する料金を請求する(現金を預かる)ことも絶対にありません。「確認してから連絡する」と返事をしても「いますぐの対応が必要です」と言ってきたら、詐欺の可能性が高いと考えられます。
不審に思ったら、その場では対応せず、年金事務所への連絡や警察への通報をするようにしてください。
1.納付期限を2年過ぎた保険料は納付することができない
2.保険料を納付せずに放置し続けていると、財産を差し押さえられることがある
3.納付期限を2年過ぎた保険料を国は徴収することができないが、督促状が送付されると時効はリセットされる
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② 保険料の納付(徴収)の時効は2年