皆さんは、「ケアマネジャー(介護支援専門員)」をご存知ですか?
 介護が必要になったときに、高齢者本人や家族の状況を把握・評価したうえで、これに基づいたサービスの利用計画(ケアプラン)を作成してくれるのがケアマネジャーです。さらに、居宅サービス事業所や役所などの間の連絡・調整を行うことで、利用者がスムーズにサービスを受けられるようサポートします。ケアマネジャーは、介護保険サービスを受ける際にその入り口となるばかりでなく、“介護の質”を左右すると言っても過言ではありません。
 今回は、ケアマネジャーとしての経験を活かし、介護現場の目線で研究を行う淑徳大学教授の結城康博先生(社会保障論、社会福祉学)に、ケアマネジャーの探し方・付き合い方についてうかがいました。

1ケアマネジャーで介護が変わる?


【ケアマネジャー選びのポイント1】

① ケアマネジャーの能力によって、サービス利用者の介護の質が左右されることもあるということを覚えておこう。

② 介護が必要な状態であることの認定(要介護認定)を受けたら、「地域包括支援センター」で「居宅介護支援事業所」(ケアマネジャーが所属。個人事業所もあり)の紹介を受けよう。

③ 介護の知識・経験がなく選びようがない場合は、まずは近隣の事業所を選んでみよう。

④ 介護がスタートして相性が悪いと思ったら、ケアマネジャーを替えてもらおう。最終的には「個人と個人のフィーリング」。遠慮は無用。

在宅での暮らしの質を上げるケアマネジャー

結城 康博 先生

 介護が必要な状態になったときに、実際にサービスを提供するのは居宅サービス事業所(ホームヘルパーや介護福祉士が所属)ですが、効果を考えながらサービスを組み合わせ、全体を管理するのはケアマネジャー。その力量が在宅生活の質を左右すると結城先生は言います。


 “介護の質”を上げるケアマネジャーとは、どのような人なのでしょう。「例えば、ケアマネジャーは、本人の心身の状態や家庭の状況をすべて見極めたうえで、『どのようなサービスが必要か』、反対に『本人が自分でできることは何か』を考えてプランを作成します。本人や家族ができないと思っていても、実際やってみればできることがある。これは素人にはわかりません。何でもやってあげればいいというわけではなく、よいケアマネジャーならば、自立して暮らし続けるために本人の残っている能力を引き出してくれます。よいケアマネジャーに出会うことが、よい在宅生活を送るための第一歩になると言えます。」(結城先生)


「よい」ケアマネジャーは何が違う?

 ケアマネジャーの力量はどのような点に表れるのでしょう。つまり、信頼できるケアマネジャーを探すとき、どのような点に注目すればいのでしょうか。結城先生が挙げるのは次のようなポイントです。

①問合せに対するレスポンスや対応が早い

②約束を守り、勝手に予定を変えたりしない

③事務的ではなく、話を聞いてくれる

④経験年数が長い  ⑤医療職等の専門資格を持つ

⑥地域の介護・医療資源に通じており、ネットワークが広い。

 基本は利用者に対して誠実であること(①~③)、そして、経験が長く、さまざまなケースに対応できるということです(④~⑥)。例えば、在宅で生活していた高齢者の要介護度が急に進み、施設に入所しなければならなくなったときなど、ケアマネジャーのネットワークが広いかどうかで、施設選びの苦労が変わってくるといいます。「担当のケアマネジャーがネットワークづくりのうまい人だったので、うまく施設に入れた。おかげで、『介護離職をせずに済んだ』『老老介護による共倒れを免れた』というケースもあります。つまり、本人だけではなく、家族も救われるということがあるんです。」(結城先生)

 どのような場面でケアマネジャーが必要になるのでしょうか。介護保険のサービスを受けるためには、まず、市町村に「介護の必要度」の認定をしてもらうことが必要です(要介護認定)。これが認められると、ケアマネジャーの出番です。
 一般的には、高齢者や介護関連の相談を受け付けている「地域包括支援センター」(市町村内に複数存在)でケアマネジャーが所属する事業所(居宅介護支援事業所)を紹介してくれますが、事業所のリストを渡されることが多いようです。公正中立が原則であるため、要望に合った人(事業所)をピンポイントで紹介してくれるわけではありません。初めて介護を行う場合、どのように選んだらいいのでしょう。

最初は選べなくて当然

 「初めて介護が必要になったときは経験や知識がない素人なので、ケアマネジャー(事業所)を選ぶといっても、どう選んでいいのかわかりません。それならば、医師を選ぶのと同じように、近隣の事業所を選ぶというのも1つの手だと思います。後で『合わない』と思ったら、いつでも変更することができます(同じ事業所内でケアマネジャーを変更することもできますし、事業所自体を替えることもできます)。
 まずは第一歩を踏み出すことが必要で、選ぶことができるようになるのは次の段階です。介護生活に入って、デイサービスに通ったり、ヘルパーさんと付き合ったりするようになると、いろいろと情報が入ってきます。『あのケアマネさんはいいですよ』とか、『あの事業所のほうがいいんじゃないか』とか。そうすると、だんだんケアマネジャーの質がわかるようになってくるものです。」(結城先生)

まずは付き合って、悩んだら替えてもいい

 「よいケアマネジャー」という言葉を聞くと、客観的な尺度があり、誰にとってもよいケアマネジャーが存在するようにも思えます。もちろん、選択の際の観点として先に紹介したような一定のポイントはあるものの、最終的に人と人が合うかどうかは「フィーリング」や「相性」だと結城先生は考えています。


 「例えば、経験が長いケアマネジャーであればいいかというと、『偉そうだったり、決めつけたりする態度が気になる』などということもあるかもしれません。その場合、経験があまりなくても、若くて誠実な人のほうがいいでしょう。
 本人も家族も、ケアマネジャーと合うかどうかは、最終的にはフィーリングだと思います。相性に理由はありません。例えば、『学校の担任の先生と合うか合わないか』というのと同じで、誰のせいでもありません。個人個人に合ったケアマネジャーがおり、ケアマネジャーのほうでも『あの利用者とはうまくいくのに、この利用者とはうまくいかない』ということがあります。だから、必ず実際に会ってみてきちんと人を確かめる。いいと思ったら何カ月か付き合ってみて、合わないことがわかったら替えるということです。


 利用者や家族は、相性が合わず『これは無理だ』と思ったら、ケアマネジャーか居宅介護支援事業所に遠慮なく言ってください。制限はなく、自由に替えることができます。言いづらければ、地域包括支援センターに間に入ってもらってもいいでしょう。」(結城先生)

※1 要介護認定:介護保険サービスを受ける前に、「どの程度介護が必要な状態であるか」について市町村から認定を受ける。要支援1・2、要介護1~5の7段階があり、段階に応じて受けられるサービスの種類や量が異なる。申請は、市町村の介護保険の窓口や地域包括支援センターで行う。

※2 居宅介護支援事業所:介護保険サービスの利用計画(ケアプラン)を作成するケアマネジャーが所属する事業所。在宅でサービスを受ける人が、ケアマネジャーに利用計画を作成してもらうサービスを「居宅介護支援」という(利用者負担はなし)。

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