日本人の離婚件数は1年で約21万7,000件。うち、夫婦ともに50歳を過ぎているケースは2万件を超えます(厚生労働省「人口動態統計」〔2016(平成28)年〕より)。長年連れ添った夫婦が離婚を決意するには人それぞれの深い事情があると思いますが、熟年離婚には年齢によるリスクが伴います。長い老後を一人で生きて行くにはまだまだ資金が必要ですが、生活費だけではなく、医療費や介護費がかさむかもしれません。若い世代と比べて就労機会は少なくなり、これから仕事で収入アップをすることは簡単ではありません。財産を夫婦で分割して、それで生涯を十分に保障できるでしょうか。ここでは、離婚時の年金の分割に着目してみました。

※記載されている年金額は平成30年度の額です。

1離婚時の年金分割を正しく知ろう

離婚してなぜ年金が分割されるのか

 離婚してもお互い十分な財産がなければ先々の生活が不安です。特に年齢的に就労機会が少なくなる熟年者は、離婚後は就労収入以外で確実に生活を維持できる手段が必要です。老後は年金が生活を支える軸となりますが、専業主婦(夫)だった人や配偶者の収入に頼ることが多かった人の場合、老後、老齢基礎年金だけだったり、老齢厚生年金があっても低額だったりと、生活を支えるには不十分な額である心配が出てきます。そこで、婚姻期間の就労収入を夫婦で協力し合って作った財産と考えて、収入が高かった人から低かった人へ、その記録を譲渡することで、将来の年金額を2人の結婚生活に見合ったものにすることが離婚時の年金分割の目的です。

 年金の分割と言うと、年金額そのものが分割されると誤解されがちですが、分割されるのは年金額ではなく、年金額の計算の元となる月給や賞与、即ち厚生年金保険に加入していたときの記録です。厚生年金記録を分割して相手に譲渡することで、その分の老齢厚生年金の受給権が移動することになります。いったん移動してその人のものとなった受給権は、たとえ他の人と再婚しても無効となることはありません。

 国民年金への加入は国民一人ひとりの義務であり、個人の生活を保障するためのものであるため分割はしません。

年金のすべてが分割されるわけではない

 離婚すれば無条件に相手の年金が自分のものになるわけではありません。離婚時の年金分割にはいくつかの条件があります。

【条件1:年金の種類】…婚姻期間の厚生年金保険だけ

 分割の対象になるのは、婚姻期間中の厚生年金保険(2階部分)に係る分だけです。国民年金(1階部分)や企業年金等(3階部分)は分割されません。ですから、自営業の夫と手伝いの妻など、婚姻期間中、双方が第1号被保険者の場合は分割される年金はありません。

は離婚による分割部分です。

【条件2:分割の対象期間】

①結婚後、夫婦ともに厚生年金保険に加入した期間がある場合はその期間が対象

 夫婦ともに結婚後に厚生年金保険に加入したことがある場合は、その期間が分割の対象となります。ただし、請求期間は離婚等をした日の翌日から起算して2年以内で、2年以上経過すると請求することはできません。

〈例〉共働き夫婦の場合

〈例〉共働き夫婦の場合

については、報酬が多いほうの厚生年金記録を按分して少ないほうへ譲渡できます。

②いずれかが婚姻期間はずっと専業主婦(夫)だった場合は平成20年4月以降の期間が対象

 会社員等に扶養されていた専業主婦(夫)つまり第3号被保険者の場合、婚姻中の厚生年金保険加入期間のすべてが分割の対象となるわけではありません。第3号被保険者が年金を分割できるのは2008(平成20)年4月以降の期間に係る相手の厚生年金保険の分だけです。請求できる期間は、同様離婚の翌日から2年以内です。

〈例〉どちらかが専業主婦(夫)の場合

については、報酬の1/2を専業主婦(夫)へ譲渡できます。

③夫婦ともに厚生年金保険に加入した期間と専業主婦(夫)の期間の両方がある場合

 いずれかまたは両方に結婚後、厚生年金保険に加入した期間と専業主婦(夫)の期間がある場合はそれぞれ別々に計算します。婚姻期間中に夫婦ともに厚生年金保険だった期間はと同様に按分計算します。専業主婦(夫)だった期間はと同様に2008(平成20)年4月以降の相手の厚生年金保険に係る分を1/2ずつに分割します。
 なお、2008(平成20)年3月以前に専業主婦(夫)だった期間の分割はありません。

〈例〉厚生年金保険加入期間と専業主婦(夫)両方の期間がある場合

については、共働き期間(夫婦ともに厚生年金保険の第2号被保険者期間は標準報酬額総額の1/2までの額を按分できます。按分割合は下記の「按分割合」を参照してください。

【条件3:按分割合】…合意により決定。専業主婦(夫)は合意なしで1/2を分割

 離婚時の年金分割というと、必ず相手の年金の半分は自分のものになると誤解している人が多いようです。夫婦のどちらも厚生年金保険の加入期間がある場合は、話し合いあるいは協議を行い厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)の按分割合を決めます。どちらかが専業主婦(夫)の場合は、合意なく対象の厚生年金記録を1/2ずつに按分することができます(障害厚生年金は含まれません)。

分割のための情報は請求できる

 按分割合を決める(合意分割)ためには、お互いの収入(標準報酬額)を正しく知っておく必要があります。そのため、お互いに相手の情報を請求することができます。請求は離婚から2年以内に行います。情報の請求についてはお互いに合意が無くても年金事務所に対して該当期間の資料の作成を依頼することができます。

「内縁関係」というだけでは分割できない

 いわゆる「内縁関係」と呼ばれる事実婚の関係だけでは年金を分割できません。届出により国民年金の第3号被保険者として認定を受けていることが必要です。また、いずれかが正式に他の人と婚姻関係にあった場合は「重婚」とみなされ分割の対象からは外されます。

按分割合は両方の厚生年金記録を合計した額の1/2まで

 按分割合は合意によりますが、互いの厚生年金記録を合計した額の1/2が上限となります。例えば、分割対象期間の夫の標準報酬額(賞与を含む平均月額)が50万円、妻が30万円ならば、対象期間の収入多いほうの夫は最大で10万円を妻の厚生年記録に渡すこととなります。こうして按分された後の40万円を元に年金額が計算されます。

実際に計算してみよう

例を元に計算して、実際にどれくらいの年金が動くことになるのかを見てみましょう。

〈事例 共働き夫婦の場合〉

 夫59歳(1959年4月2日生まれ)・妻54歳(1964年4月2日生まれ)。1989(平成元)年12月から結婚生活を送ってきたが2019(平成31)年4月に離婚することを決意した。
 婚姻期間中の給与は、夫が標準報酬月額40万円、標準賞与額(2回分)100万円、妻が標準報酬月額20万円、標準賞与額(2回分)50万円。賞与を含めた標準報酬額は夫が約48万円、妻が約24万円なので、2人の合計額72万円の1/2=36万円を超えないように按分される。
 協議により夫の厚生年金の分を1:3に按分し、妻に1/4の12万円を渡し、両者ともに36万円で対象期間の年金を計算するようにした。

※実際にはそれぞれの年の給与総額に再評価率を乗じて年代による誤差を少なくして計算します。

については、報酬が多いほうの厚生年金記録を按分して少ないほうへ譲渡できます。

《計算結果》

この期間の本来の年金額

結果、収入の多い夫から妻が差額の239,192円(年額)を受けることとなった。

⇒詳しい計算方法を知りたい方はコチラ

〈事例 会社員の夫と専業主婦の場合〉

 夫59歳(1959年4月2日生まれ)・妻54歳(1964年4月2日生まれ)。1989(平成元)年12月から結婚生活を送ってきたが2019(平成31)年4月に離婚することを決意した。
 婚姻期間中の給与は、夫が標準報酬月額40万円、標準賞与額(2回分)100万円、妻は専業主婦。2008(平成20)年4月以降の夫の厚生年金の分を1/2ずつ按分する。夫の賞与を含めた平均標準報酬額は48万円なので、対象期間の年金を、夫は平均標準報酬額24万円、妻は24万円で計算するように分割した。

※実際にはそれぞれの年の給与総額に再評価率を乗じて年代による誤差を少なくして計算します。

については、報酬の1/2を専業主婦(夫)へ。
に譲渡できます。

《計算結果》

この期間の本来の年金額

結果、妻は168,327円(年額)を受けることなった。

⇒詳しい計算方法を知りたい方はコチラ

65歳になるまではもらえない

 年金の分割が行われることになっても、年金は慰謝料ではありませんから、すぐに手に入るわけではありません。通常の年金同様、自分自身が65歳(特別支給の老齢厚生年金がある人はその受給開始年齢)から受け取ることができます。受給開始年齢までにまだ年数がある人は、現時点の生活をどうやって維持するかを見直しておいたほうが良いでしょう。

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