2野鳥が羽を休めるところ、三井住友海上「駿河台緑地」
商業施設や公共施設だけでなく、企業のオフィスビルでも、屋上庭園を設けるなど地域の緑化に力を入れるケースが増えています。大きなオフィスビルは、景観を形づくる重要な要素。緑のあるなしで街の印象は大きく変わります。いち早く建物や敷地の緑化に取り組んで都市の一角に緑の拠点をつくり、地域に開放している三井住友海上の「駿河台緑地」を訪ねました。
屋上にニュートンのリンゴの木?
駿河台ビルの屋上庭園
三井住友海上の「駿河台緑地」は、屋上庭園をはじめ、前庭や建物周辺の植栽、街路樹などを含めた敷地全体の緑を総称したもので、実に総敷地面積の4割以上が緑地化されています。JR御茶ノ水駅から徒歩5分とアクセスがよく、周囲にはオフィスや大学の校舎、病院など大きなビルが建ち並びますが、少し歩けば、神社や教会、神保町の古本屋街など昔ながらの建物が残るところもあり、落ち着いた雰囲気が感じられる界隈です。
同社の駿河台ビル3階にある屋上庭園は、地上から直通エレベーターが設置されており、誰でも自由に見学が可能(開園は平日10時~17時。11月~3月は16時まで)。地域の人や近くの病院に通院する人がついで立ち寄ったり、周辺のオフィスに勤める人が昼休みに気分転換に訪れたりと、地域のオアシスとして機能しています。
エレベーターから屋上庭園に出ると目に入るのは、背丈を超える木々の濃い緑です。同時に土の匂いや風のそよぎも感じられ、風景だけでなく空気も一変します。植物は、ユズリハ、モッコク、ヤマモモ、ツバキなどの常緑樹を中心に約100種類に上り、実のなる木や蜜の出る花も植栽して生物多様性を意識した植生。季節に応じた表情を楽しむことができます。また、物理学者ニュートンの生家にあった木の枝から細胞培養された貴重な「ニュートンのリンゴの木」もあり、21世紀の東京で17世紀イギリスにおける偉大な科学的発見に思いをはせるのもいいでしょう。
屋上で野鳥に親しむ
浦嶋裕子さん
コンクリートばかりだと思われる東京も、実は皇居をはじめ、明治神宮、新宿御苑、上野恩賜公園、お台場海浜公園など広い緑地がいくつも存在し、植物だけでなく多様な生き物が生息しています。特に野鳥は、これら点在する緑地を行き来しながら“都市生活”を送っていることがわかっています。
駿河台緑地は皇居と上野公園のほぼ中間地点に位置しており、「両方を行き来する野鳥が羽を休める中継地点(鳥の駅)になるよう、樹木や植栽の選定を行っています」と三井住友海上の浦嶋裕子さん。このような生物が生息する空間の適切な配置・つながりのことを「エコロジカルネットワーク」というそうです。緑化にあたっては、皇居と上野公園で見られる生物を研究して、その野鳥や昆虫の好む樹種を採用。新設した緑地の植物は在来種を中心に構成し、バードバス(野鳥のための水盤)も設けました。
ヒメアマツバメ
駿河台緑地では、これまでにシジュウカラ、メジロ、モズ、シメなど20種ほどの野鳥の飛来が確認されています。「これからの季節(秋)には、ジョウビタキがやって来ます。それから、ヒメアマツバメがビルの最上階の一角に巣をつくっているんですよ。朝夕、多い時には40〜50羽のツバメの声が聞こえることもあります」(浦嶋さん)。都会のオアシスは、人を癒すだけでなく、野鳥にとっても絶好の休息の場所です。
屋上庭園では、毎月第2木曜日の午前8時から「バードウォッチング」を開催しています(8月、9月はお休み)。法政大学人間環境学部の高田雅之教授や、教授のゼミに所属する学生の皆さんの解説を受けながら観察できるとあって、出勤前の人や親子連れなど幅広い年齢層が参加しているといいます。参加費は無料、事前申し込みは不要、手ぶらでOK、という気軽に参加できるイベント。朝のさわやかな時間に、都会の森を体験する絶好の機会です。
屋上で野菜づくりも
屋上庭園の奥に菜園と水田が設けられているのも、地域交流の場である「駿河台緑地」の大きな特徴です(見学はできません)。菜園に足を踏み入れると庭園とはがらりと雰囲気が変わり、ナス、トマト、オクラなどがたわわに実っています(8月下旬に取材)。ビルの屋上とは思えない光景ですが、顔を上げればオフィスビルの窓が目に入り、不思議な気分になります。
菜園は全部で25区画あり、それぞれの区画は約6㎡。駿河台緑地から30分圏内に在住・在勤の人を対象に無料で貸し出しています。初心者でも栽培のプロからアドバイスとサポートを受けながら、季節ごとの野菜やハーブなどの栽培ができるしくみになっています(貸出しの条件として、サポートの費用が必要になります)。興味のある方はチャレンジしてはいかがでしょうか。
一方、水田は、千代田区立お茶の水小学校に貸し出しており、5年生が田植え・収穫体験を行います。それぞれの時期には、都会の屋上が子供たちの声でにぎわうそうです。
屋上の菜園(左)と水田(右)
オフィス街で眺めるサクラ
岩佐結子さん
屋上庭園を鑑賞した後は、ぜひ「ECOM駿河台」を訪ねてください。「ECOM(エコム)」とは、「環境(Eco)+コミュニケーション(Communication)」を表現した名称。地域に開かれた環境コミュニケーションスペースとして、環境や自然に関するさまざまな情報発信をしています。
まずは、建物の外、前庭広場から。取材時には、白とピンクのサルスベリの花がとりわけきれいに咲いていました。ここには、野鳥やチョウの好む樹種や人がアレルギーを起こしにくい樹種が選ばれ、生き物にも往来する人にも配慮した緑地にしているといいます。また、春の訪れを伝えるサクラは、長い期間楽しめるように開花時期の異なるオオカンザクラ、ソメイヨシノなど複数の種類を植えています。
三井住友海上の岩佐結子さんは、「満開のサクラにメジロが遊びに来ます。その様子をここから眺めることができるんですよ」と教えてくれます。「ここから」というのは、ECOM駿河台2階の大きなガラス窓。サクラの木が窓越しの目の前にあり、野鳥がその枝で休み、花の蜜を吸う姿を間近に観察することができます。「ECOM駿河台では、環境や自然に関するさまざまな情報を発信し、地域の交流拠点となることを目指しています。絵画や写真など、どなたでもご覧いただける展示会や、自然や環境に関するワークショップも実施しています。ぜひ一度、お立ち寄りください」(岩佐さん)
ECOM駿河台(左)と前庭(右)
◎三井住友海上駿河台ビル(屋上庭園)
〒101-8011 東京都千代田区神田駿河台3-9
http://www.ms-ins.com/company/csr/environment/afforestation/
◎ECOM駿河台
〒101-8011 東京都千代田区神田駿河台3-11-1 三井住友海上新館よこ 2階
http://www.ms-ins.com/company/csr/ecom/
https://www.facebook.com/ecomsurugadai/
【アクセス】
・JR中央線・総武線「御茶ノ水」駅(徒歩5分)
・都営地下鉄新宿線「小川町」駅(徒歩10分)
・東京メトロ千代田線「新御茶ノ水」駅(徒歩5分)
・東京メトロ丸の内線「御茶ノ水」駅(徒歩8分)
屋上庭園を訪ねてまず感じるのは、都市の緑の心地よさ。しかし、ゆっくり巡っていると、そこにはさまざまなテーマが凝縮されていることに気がつきます。例えば、植物や生物の生態、地球環境の問題や人間と自然との共生、地域の歴史、食べ物と農業、などなど。まずは外に出て歩いてみてはいかがでしょう。皆さんの身近にも、自分だけの興味を見つけられる場所がきっとあるはずです。
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② 野鳥が羽を休めるところ、三井住友海上「駿河台緑地」