2教室は「楽しい」が一番
化粧で楽しく
「いきいき美容教室」の様子を見てみましょう。
実際にメークに入る前に、まずはジェルを手首の内側につけてその香りを楽しみ、心身をリラックスさせることから始めます。続いて、準備体操(通称「美体操」)で気持ちを集中させた後、ホットタオルで顔を拭いて汚れを落とし、スキンケア、メーキャップ(男性はリップクリーム程度)、整髪と進めていきます。
教室では、「何よりも『楽しい』ということが重要です」と池山さん。いったんメークが始まれば気持ちが高揚し、参加者はお互いに声をかけ合って自然に会話が弾むようになります。メーク自体は、ファンデーション、アイブロー(眉墨)、チーク(頬紅)、口紅程度で、難しいテクニックは使いません。面倒になって続けることができないからです。自分でやることが重要なのです。
「化粧しやすいように最初にケープとターバンを身につけますが、これにも演出効果があります。メークの間は、ケープとターバンの白が、より顔の変化を引き立ててくれます。そして、メークが仕上がった後にケープを取り去れば、幕が引かれるように洋服の色彩が現れ、より華やかな演出効果が生まれます。」(池山さん)
いきいき美容教室(資生堂提供)
化粧が口腔ケアに?
すでに述べたように、高齢期の化粧にはさまざまな効果があります。ここでは、唾液の分泌について見てみましょう。
唾液は、口の中を潤して粘膜を湿った状態に保つだけでなく、口の中の汚れを洗い流したり、細菌の侵入を防いだりするなど、さまざまな効果があります。しかし、高齢期には、日常的に複数の薬を服用する高齢者も多く、副作用で唾液の分泌が減るケースもあります(血圧の上昇を抑える降圧剤など)。最近では、介護予防における口腔ケアの重要性にも注目が集まっています。
「唾液腺には、耳下腺、顎下腺、舌下腺があり、日常生活ではではあまり触れない場所ですが、化粧のときには自然にこれらの部分に触れるようになります。『化粧療法』では、スキンケアをしながら意識的に唾液腺をマッサージするようアドバイスしています。
また、教室では、まず初めに化粧品のよい香りを楽しみ、心身をリラックスさせます。さらに、みんなでメークをすると会話が弾み、自然と口を動かすことが多くなります。いずれも唾液の分泌を促す状況(行為)が創出されます。化粧療法の前後に測定をすると、唾液の量が増えることがわかっています。これを繰り返し行うことで、食欲が増したり、口の中の状態がよくなって口腔ケアに積極的になったりしたというケースも報告されています。」(池山さん)
「美容」で「健康」になる
講演する池山さん(資生堂提供)
女性の場合、日常生活の中で、しばしば「美容と健康」という言葉が使われます。しかし、高齢者にとっては、「美容」と「健康」という2つの目的を同時に追求するのは大変なことです。医療や介護の現場でも、治療や介護が重視され、美容という目的は後回しにされてしまいます。このような考え方を転換させたのが「化粧療法」だと、池山さんは言います。
「化粧療法の考え方は、『美容と健康』ではなく『美容で健康』です。つまり、手段として化粧をすることで健康になる、化粧がそのまま健康につながる、ということです。こういったご提案をすることで、高齢者ご本人にも、現場のスタッフやご家族など周囲の方にも、『それならば化粧を続けてみよう』と考えていただけるのではないかと思います。
高齢になると、今までずっと続けてきた化粧をやめる『きっかけ』があります。例えば、病気で倒れて急性期の病院に入院したとき、化粧の習慣が途絶えます。そして、症状が落ち着いて退院すると、多くの場合、亡くなるまで化粧をしなくなる。でも、化粧が健康を保ち、介護予防につながることがわかっていれば、習慣が途切れずに続きます。私たちの希望は、これまでやってきた化粧をできるだけ長く続け、いきいきと暮らしていただきたいということです。」(池山さん)
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② 教室は「楽しい」が一番