東京消防庁防災部震災対策課震災対策係の栗田智恵さん(消防司令補)
地震に対する防災対策として有効な“家具転対策”をご存知ですか?「家具転対策(かぐてんたいさく)」とは、地震時の家具や家電などの転倒・落下・移動による、けがや出火、避難障害を防止する「家具類の転倒・落下・移動防止対策」の略称です。地震の発生は防ぐことができませんが、自分でできる対策は行い、いざという時に落ち着いて行動したいものです。東京消防庁の調査では、こうした家具転対策について「対策していない」世帯は28.7%でした。
そこで家具転倒防止の実態と現実的な対策について、東京消防庁防災部震災対策課の栗田智恵さんにお話を伺いました。
1見直しましょう 家具転倒防止対策の必要性
家具類の転倒・落下・移動で想定されるケガ人は?
東京消防庁では、過去の大地震でけが人が多数出た場合、現地でケガの原因をヒアリング、さらに時間が経ってからアンケートを行い、室内でどんな被害があったのかを調査しています(図1)。
家具類の転倒・落下・移動による被害をひもとくと、古くは阪神・淡路大震災、そして東日本大震災を経て昨年の熊本地震に至るまで、けがをした理由の30~50%程度が家具の転倒・落下等によるもの。この割合が大きく変わっていないのだといいます。昨年の熊本地震でも、約30%の人が同じ原因で負傷しました。もちろん、命をおびやかす危険もあります。
「地震の規模や地域性が違っていても、家具の転倒などによるけがの割合は突出して増えたり減ったりすることがありません。東京では南海トラフ大地震、直下地震が30年に高い確率で起こると言われており、けが人は約1万人と推定されています。つまり、約50%の方が家具類でけがをしているこれまでの経験から、対策をすれば5,000人程度のけが人を減らせるわけです。
災害でけが人が出た場合、その方が苦しい思いをするだけでなく、けが人を救護所まで運ぶ人、治療する人が必要となり、さらにその方の関係者も生活に支障をきたすことになります。けが人の何倍もの人に影響が出てしまうのです。きちんと対策をしてその人がけがをしなければ、逆に困っている方に手を貸すこともできます。」(栗田さん)
■図1 近年発生した地震における家具類の転倒・落下・移動が原因のけが人の割合
〈東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」より〉
家具の転倒防止対策、しないとどうなる?
写真①②は、熊本地震後の家庭内の状況です。思った以上に家具は倒れ、動き、収納してあったものが部屋中に散乱することがわかります。
ここで改めて、今回対象としている家具類の動きと被害について整理してみます。
【家具・家電等の転倒】
特に高さのある家具は、強い揺れが起こった際には倒れ、周囲の人や物に被害をもたらします。冷蔵庫等の大型家電製品も同様です。
【家具・家電等の転落】
高所への収納物は強い地震の際、落下します。食器棚の食器などには特に注意が必要です。テレビや電子レンジ等の家電製品も落下や転倒の恐れがあります。
【家具等の移動】
東日本大震災では、10階以上の高層階になるほど家具の転倒・落下・移動した割合が増えていました。これは「長周期地震動」が一因と考えられています。中でも、家具が転倒せずに概ね60cm動いた「移動」が目立っています。そこで東日本大震災以降、「移動」についても対策が必要と考えられるようになりました。キャスターつきの家具類には特に注意が必要です。また、つり下げ式の照明が大きく揺れて天井に衝突することもあります。
長周期地震動とは?
波のように遠くまで伝わるのが特徴。地震動が終息してからも、数分にわたって揺れる場合があります。マグニチュード8クラスの地震が起こると、50階ビルでは片振幅2mに達する揺れが10分以上継続する恐れがあると推計されています。
長周期地震動の揺れの大きさは「階級」1~4で示され(図2)、気象庁では地震発生の際に震度等と合わせて「長周期地震動に関する観測情報」の発信を試行しています。
■図2 長周期地震動階級関連解説表
〈東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」より〉
■写真① 熊本地震後の家庭内の様子1
■写真② 熊本地震後の家庭内の様子2
〈東京消防庁提供〉
家具の転倒が二次被害をもたらす恐れも
家具転倒防止対策は、地震の際に倒れたり落ちてきたりした家具等から身を守ることが第一です。でも、この対策を怠ると、その後さらに以下のような悪影響をもたらす二次被害の恐れもあります。
【避難障害】
地震がおさまって避難しようとした際、家具が扉に向かって倒れると、扉が開けられず外に出られなくなってしまいます。落下して割れた食器等の破片が避難の際の歩行の障害となる場合もあります。
【火災】
ストーブに落下した落下物による火災発生が過去にありました。台所にある家具等が転倒し、その際コンロのスイッチが押されて点火、落下したものに着火してしまうことも考えられます。
また、水槽の転倒や落下によってヒーターが過熱し、火災の原因になることも少なくないといいます。
「停電している間に避難所に行ってしまい、停電が解消された時に水槽から外に出たヒーターがそのまま放置されて加熱して、火災を起こす例もあります。避難の際には、ブレーカーを落とすことも大切です」(栗田さん)
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① 見直しましょう 家具転倒防止対策の必要性