日本の夏は昔の夏とは違います。平成19年(2007年)から「猛暑日」(日最高気温が35℃以上の日)という言葉が用いられるようになったように、暑さが格段に上がってきています。熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上の日)も増え、夜だから涼しくなるとは限らなくなりました。アスファルトやコンクリートに覆われた都市部では直射日光だけでなく、照り返しが厳しく、気温が下がりにくくなっています。

 そこで増えてきたのが熱中症です。熱中症とは脱水と過度の体温上昇による体に起こる障害の総称です。脱力感、体のだるさ、頭痛、めまい、たちくらみ、吐き気、筋肉の痛みを伴ったけいれん(こむらがえり)、失神などの症状が起きます。

1熱中症の外因は温度と湿度

毎年5万人近くが救急搬送

 総務省消防庁の調査によると、全国で毎年5万人近くの人が熱中症で救急搬送されており、平成23年~平成28年の6年間で約30万人にも上ります(下のグラフ。データは平成23年から平成28年の熱中症が多く発生する6月から9月の総務省消防庁のデータです。平成27年より5月のデータも公表されています。)。
 救急車のお世話にはならなかったけれど熱中症で苦しんだ人も合わせると、その数は計り知れません。熱中症は屋外で運動や労働をしている人だけでなく、室内で就寝中にも起きていますから、非常に身近なところにある怖い病気です。特に高齢になると命を落とすことも少なくありませんから、予防対策をよく理解して快適な日々を過ごしていただきたいものです。

〈総務省消防庁ホームページより〉

〈総務省消防庁ホームページより〉

体の中では何が起こっているか

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 私達は暑い環境に長くいると「暑い」「暑苦しい」と不快に感じます。そこで涼しい場所に移動したり、汗をかきます。体のために、汗をかくことと、汗が乾くことは体温を調整するうえで非常に重要です。汗をかいて皮膚の上で蒸発させることで体温を調節しています。つまり、汗をかくことで上がりすぎた体温を下げて調節をしているのです。

 汗をかくと、体から水分が出て行ってしまいます。私たちの体は、一定の水分量を保つように出来ています。このため失われた水分を補うために脳が「のどの渇き」として水分を摂るように指令を出します。暑いとのどが渇いて冷たい飲料を飲みたくなるのは水分補給と飲料の冷たさで体温を下げようとしているためです。こうして取り込んだ水分がさらに汗となって体温を下げていき、上がりすぎた体温を落ち着かせていきます。

 しかし、水分を摂らないでいると水分が汗で出て行く一方です。汗は水分だけでなく、体に必要な電解質(ナトリウムやカリウム、マグネシウム、カルシウムなど)が含まれています。体に必要な水分量と電解質量を維持できなくなるのが脱水なのです。
 脱水が進むと臓器への血流が減り、血液を送り出す心臓のポンプ機能も落ちてしまいます。この調節機能がダメになってしまうと体温が上がりすぎて虚血(臓器や組織に流入する血液の量が著しく減少した状態)になります。すると心臓や脳などの臓器障害が起きて熱中症の症状を起こすのです。

熱中症の原因は2つ

 暑い屋外でスポーツや体を使った作業などを一定時間以上行うと熱中症を起こしやすくなります。これは筋肉を動かす動作を続けると、体から熱が発生するからです。自ら体内で熱を作りだし、さらに気温の高さのダブルパンチで体温が上がりすぎてしまうのです。体力に自信がある人でも数時間で熱中症に陥ってしまいます。

 また、気温が高過ぎる環境にいるだけで起こる熱中症もあります。数日にわたる猛暑日と熱帯夜によって疲労の蓄積とともに脱水症状が進行して起こります。高齢の人に多くみられ、持病の悪化なども相まって体調を崩してしまいます。半数が室内で発症し、自覚が少ないために「気づいた時には重い症状になっていた」ということがしばしばあり、亡くなる方の多くはこのケースです。

 暑いだけでなく、湿度の高い「蒸し暑い」状態でも熱中症は起こりやすくなります。日常に起きる体調不良(下痢、発熱、睡眠不足、二日酔い)、肥満なども熱中症の原因となります。また、水分補給をしているつもりでも、充分な量ではなかった場合もあります。
 このように、熱中症は気温や湿度が高い時期に起こりやすくなっています。夏といえば8月までという印象が強いのですが、9月いっぱいまでは、まだまだ気温が高いので注意が必要です。

■表 熱ストレスの暑さ指数と気温、温度との関係

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〈日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3より〉

熱中症の症状

 熱中症の主な症状は脱水症状、めまいや立ち眩み、筋肉痛、吐き気、多汗、体温の上昇などがあります。こうした兆候が現れたらすぐに対処することで症状を軽くすることができますが、高齢になると処置が遅れたり、回復が遅くなったりで、事態が深刻化する危険も大きくなります。
 ですから、まずは罹る前に予防を心掛けることが何よりも大切になります。次のページでは、その予防法について見ていきましょう。

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