2どう使う、福祉用具?
あえて「お勧めしない」という場合も
福祉用具は、突然の病気やけがなどによって思いがけず必要になる場合も多く、本人の退院を前に家族が慌てて「介護すまいる館」に駆け込むというケースも少なくないといいます。このようなとき、「とりあえず一式揃えなきゃ」と焦って闇雲に購入してしまう、などということが起こりがちですが、「まずは使用する方の心身の状態や生活環境、希望するライフスタイルなどを確かめ、そのうえでそれぞれの方に合ったものを選ぶことが必要です」と岡本さん。
「皆さん、大切な家族のために『とにかく何とかしなければ』という不安に駆られているのですが、慌てて決めてしまわないことが大切です。私たちはまず、ご本人がどのような状況なのかをお聞きして、そのうえでどのような用具をどの程度使えばいいのか提案します。頼りすぎると体の衰えが進んでしまうことがあるので、福祉用具を使わないほうがいい場合もあります。『伺ったご様子から、ここまでの用具は必要ありません』と、あえて使用をお勧めしないこともあります。例えば、介護する側の視点から車いすを希望しても、ご本人が、補助があれば歩けるのなら歩行器などをお勧めしますし、逆にご本人につえで歩く意欲があっても、症状などから危ないと判断すればシルバーカーなどをお勧めします。」
また、同館では、福祉用具のアドバイスだけでなく、公的なしくみや相談機関の案内も行っています。「市町村の介護保険担当課や地域包括支援センターなどの相談窓口を案内しています。介護保険や自治体独自の補助を利用することができることもありますし、また、福祉用具だけで対応できない場合には、多様なサービスがあることを教えてくれます。いろいろな方法があることをお話しすると、皆さん安心してご納得いただけます。」(岡本さん)
レンタル・購入の前に必ず試してみること
菊地育子さん
「介護すまいる館」は、埼玉県から委託を受けて社会福祉法人埼玉県社会福祉協議会が運営しています。同館では、約1,100点の福祉用具を展示。用具は、一般社団法人日本福祉用具供給協会と連携して新しい製品が取り揃えられており、実際に触れて、試すことができます。また、専門知識を持つ相談員が常駐して、無料で福祉用具に関する相談に乗ってくれます。
福祉用具は、使う人それぞれの状況や目的(何のために使うか)によって、使いやすいものが異なります。利用者本人が動ける場合は、必ずこうした展示場を訪れて試用し、体の状態にマッチしているのかを確認するのが望ましいそうです。菊地さんに、利用者の多い、歩行を補助する福祉用具の使い方についてお聞きしました(「※」印は、介護保険給付の福祉用具の対象外)。
●折りたたみづえ※
普段は大丈夫でも、出かけた帰りなどに疲れてつえが必要だと感じることがあります。コンパクトに折りたたむことができ、持ち歩きに便利。足腰の衰えを感じ、最初に導入するケースが多いようです。
●1本つえ
足や腰の痛みが強くなり、毎日使うようになると、折りたたみづえ※から切り替えることが多くなります。広く使われているT字つえ※は、同じものでもグリップの形状、つえ先のゴムの大きさなどで安定性が変わるので、展示場などで実際に試してみるといいでしょう。また、「介護すまいる館」では、体に合わせてつえを短く切ることもできます。なお、介護保険の対象になる歩行補助つえは、握力や腕の力が弱ったときなどに用いられるもので、手や肘、上腕全体でつえを支えることができるものです。
種類豊富なT字つえ(左)
つえ先のゴムの形によってつえの安定性が変わる(右)
●多点杖
複数の点で体を支えるつえで、1本杖ではバランスを崩しやすい場合に用いられます。ただし、地面に凹凸があったり、傾斜がある場合はつえが安定せず、不安定になるため、主に室内で使用します。
●シルバーカー※
つえでは不安になった人が外出用に用いるもので、ハンドルを両手でつかめるのでバランスをとりやすくなっています。歩行器と異なりあくまでも体を軽く支える用具で、自立して歩行ができる人が使います。早めに使い始めると頼りきりになってしまう場合もあり、使用には注意が必要です。
●歩行器
体の前面と側面にハンドルがあるので、しっかり体重を預けることができ、病気などで足腰が弱った人がリハビリで使うこともあります。シルバーカーではふらつく場合も安定して歩けるようになります。車輪がついているタイプ(歩行車)もあります。
多点杖
歩行器
「このように、歩行を補助する福祉用具だけでもさまざまなものがあり、体の状態に応じて段階的に用具を変えていくこともあります。機能低下が進むばかりではなく、例えば骨折で歩行器を使っていた人が回復して、つえで歩けるようになる場合もありますし、状態の変化とともに用具を変えていけるのはレンタルの利点です。また、最近は、レンタルでも購入でも、正式な契約の前にデモ機で一定期間試用できることがほとんどです。福祉用具の事業所で試用期間について尋ねてみるといいと思います。本格的に使う前に、ぜひ実生活の中で試してみてください。」(菊地さん)
広がる選択肢、だからこそ専門家のアドバイスを
福祉用具の変遷を目にしてきた大島さん、岡本さん、菊地さんは、時代とともに求められるものが変わってきたことを感じるといいます。高齢者の増加とともにバリエーションが広がり、つえやシルバーカー、車いすなどがファッショナブルになったり、居室や浴室など家の中で使うものも、内装になじむブラウン基調のデザインになったりと、「いかにも福祉用具」というものから、より洗練されて「見せる=魅せる」ものに変化しています。選択肢の増えた福祉用具を上手に使って、心身の機能が低下しても、自分の望むライフスタイルを継続するチャンスが広がりました。
とはいえ、使い勝手が第一。日常生活で急に必要になったときに慌てて決めてしまうと、使わなくなるだけならまだしも、かえって事故を起こしたり、心身の機能を低下させてしまうこともあります。まずは、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。各都道府県には公的な機関が運営する福祉用具の展示場があり、レンタルや購入を前提にしなくても気軽に見て回ることができます。また、より身近なところでは、市町村が運営する地域包括支援センターで、福祉用具を展示しているところもあります。福祉用具が必要になったときはもちろん、差し迫った必要を感じる前にも、ぜひこうした展示場を訪れてみてはいかがでしょうか。
車いすは、機能だけでなくデザインも多様
■介護すまいる館
福祉用具の情報提供・展示・販売(見学・相談は無料。予約相談も可能)
開館日: | 火~日曜日(午前9時~午後5時) |
---|---|
休館日: | 月曜日(月曜日が祝日の場合、その翌日)、毎月第一日曜日、年末年始 |
住 所: | 〒330-8529 埼玉県さいたま市浦和区針ヶ谷4-2-65 彩の国すこやかプラザ1階 |
電 話: | 048-822-1195 |
-
② どう使う、福祉用具?