1退職金をどう使う?

まずは住宅ローンをどうするか

 退職してもまだ住宅ローンが残っているという人も少なくないでしょう。そして、その多くは退職金で完済することを予定しているでしょう。ですが、本当に退職金を住宅ローンの返済につぎ込んでしまって大丈夫でしょうか。
 確かに退職金で住宅ローンを完済するというのは一つの手段です。ただ、今後の生活費や医療費、介護費、さまざまなイベントに係る費用がどれくらいになるか、残りの退職金や預貯金、公的年金で補えるか、一度試算してみたほうが良いでしょう。退職後の生活設計に不安がある人は、住宅ローンを完済せずに、一部を返済する、またはこれまでどおりの額を返済し続けるということも試算して、最も安心できる方法をとることをお勧めします。住宅ローンは一度完済した後に、借り直すことはできませんから、是非慎重に決断しましょう。

退職金と住宅ローン返済の選択肢

  • 退職金で住宅ローンを完済する。
  • 退職金で住宅ローンの一部を返済し、住宅ローン残高については返済期間や月々の返済額を見直す。
  • 退職金はそのまま残し、住宅ローンはこれまでと同様の方法で返済する。

※住宅ローンの場合、団体信用生命保険に加入していれば、住宅ローンの名義人が死亡または所定の高度障害の状態になったときには、残りの住宅ローンは保険金により弁済されます。これは住宅ローンが遺族等の負担にならないように配慮された仕組みです。

退職金を使う

子や孫のために使う

 子や孫の生活費、教育費などを負担してあげることについて考えてみましょう。

【子のために(暦年課税贈与・相続時精算課税)】

 財産を生前贈与する場合、贈与税が課税されることがあります。いわゆる「暦年課税贈与」を活用する場合、年間110万円の基礎控除を受けることができます。税率は10%〜55%の累進課税になっています。制度上、年間110万円までの贈与は非課税ですから、その範囲内で贈与をすれば問題はないのですが、実務では、暦年課税贈与が否定されて課税される場合もあるようです。そこで、安全策を採るとすれば、年間111万円贈与して、贈与税を1,000円だけ納めておくという選択肢があります。なお、亡くなる前3年間の贈与分は相続財産に含まれるので、対策は早めにとることが必要です。
 また、受贈者(贈与を受ける人)の選択により、「相続時精算課税」の適用を受けることができます。制度の概要は次のとおりです。

  • ●選択できるのは、贈与者(贈与する人)が60歳以上の父母又は祖父母で、受贈者が20歳以上かつ贈与者の推定相続人である子又は孫に該当(年齢は贈与の年の1月1日現在)
  • ●贈与税は特別控除により累積で2,500万円まで課税されない
  • ●贈与財産の価額は、贈与者について相続発生時に相続財産の価額に合算され、相続税において精算される

 ただし、いったん相続時精算課税を選択すると、その後同一の贈与者からの贈与については同制度が強制適用され、暦年課税制度によることができないため、注意すべきです。

【孫のために】

 孫(子どもでも可です)の教育資金を1,500万円まで贈与しても無税という制度があります。2013年4月1日から2019年3月31日までの間、信託銀行に孫名義の口座を作って1,500万円を振り込むと、教育費用がそこから引き落とされるという仕組みの教育資金の一括贈与です。
 学校に直接支払われる支出(入学金、授業料等)は、上限の1,500万円まで非課税の対象ですが、学習塾やそろばん教室、スポーツ教室等または通学定期代といった学校以外に直接支払われる支出は500万円が上限となっています。
 ちなみに、日本政策金融公庫による「平成27年度教育費負担の実態調査結果」によれば、義務教育以降の高校入学から大学卒業までに必要な入在学費用は、子ども1人当たり約900万円(国公立大学:約690万円、私立大学文系:約908万円、私立大学理系:約1,050万円)となり、前年比20万円の増加となっています。

自身や夫婦のために使う

 冒頭でお知らせしたように、インフレや年金額の減額の心配もありますので、あまり多くの費用をかけずに利用できる事例をいくつか紹介します。

【教養を磨く】

 まず思い浮かぶのがカルチャーセンターですが、受講できる講座は広範囲に及びます。また、大学教授、学識経験者、作家といった多彩な講師陣を揃えている講座もあります。費用は講座によって異なりますが、目安となるのは授業回数で1回から10回程度のものまで、授業期間については1日で終了するものから半年程度のものまでと、講座によって様々です。1講座につき1万円弱から3万円前後あれば受講できるようです。ただし、別途、教材費や材料費、入会金がかかるところもあります。

【歌う】

 カラオケ健康法という言葉があるように、好きな歌を大きな声で歌うことで、自律神経のバランスが調整され、脳全体が活性化し、若返りのホルモン分泌も促進されるといわれています。費用については、平日昼間のワンドリンク制(必ず1杯のドリンクをオーダーするシステム)の場合、30分当たり数十円から100円未満、ドリンクの飲み放題制でも200円未満が大半のようです。また、フリータイム制(基本的には何時間歌っても同じ料金のシステム)では、飲み放題制では1回1,000円を超えますが、ワンドリンク制の場合には、1回1,000円未満で利用できるところが多いようです。

【施設で運動やスポーツをする】

 高齢者向きのスポーツとされる、ゲートボール、グラウンドゴルフ、パークゴルフは、いずれも我が国で考案されたものですが、最近ではこういったスポーツに飽き足らずにジム通いをする高齢者が増えているようです。
 民間施設を利用する場合の費用については、利用回数の制限がないコースで月額1万円強のところが多いようですが、浴室やプールなどの維持費のかかる設備を設置していない施設の場合には、月額7,000円前後という低価格のところもあります。週2回ないしは1回利用のコースでは、月額1万円未満の施設が多いようです。一方で健康管理プログラムを組み込んで、高齢者向けに付加価値を高めた施設も登場してきています。
 近年は地域住民の健康寿命を延ばすことを目的に、健康づくりや生活習慣の改善に取り組む自治体が増えています。その一環として利用できるのが、健康増進センターやスポーツセンターなどと呼ばれる公営施設です。最近では運営管理を民間事業者に代行させるなどして、サービス向上を目指す例も増えていますし、住民だけでなく一般に広く開放している施設もあります。

社会のために使う

【寄付をする】

 地域のために退職金を役立ててみてはいかがでしょうか。国や地域に対する寄付金を「特定寄付金」といいますが、所得控除を受けることができます。
 また、遺産の一部をNPO法人や公的機関に寄附する、遺贈寄附への関心が高まっています。終活ブームと相まって、人生の集大成として納得できる最期を迎えたい高齢者が増えているようです。一方、手続の煩雑さに加え、信頼できる団体を見極める難しさが遺贈寄附を躊躇させる要因になっているとの声も上がっています。詳細を調査のうえ行ったほうが良いでしょう。

相続税法が強化、相続人の負担増

 2015年1月に相続税法が強化され、課税最低限が引き下げられました。相続税は相続財産から基礎控除と呼ばれる非課税枠を差し引いて税額を算出します。その基礎控除は、従前は「5,000万円+法定相続人数×1,000万円」であったものが、改正後はその6掛けの「3,000万円+法定相続人数×600万円」になりました。例えば、妻と子どもが2人の夫が亡くなった場合、改正前の基礎控除額は8,000万円でしたが、改正後は、3,000万円+3人×600万円=4,800万円となり、相続財産額がそれ以上の場合には、相続税が課税されることになります。
 このため、課税対象者が広がり、2015年に亡くなった約129万人のうち、相続税の対象となった人は前年比83%増の約10万3千人(約8%)になったと国税庁から発表されました。ただし、この129万人には若くして亡くなった方も含まれていますので、高齢者に限れば、対象者の割合はもっと高くなるはずです。
 同時に、相続税率も変更されています。相続税対象額が2億円以下では変わりませんが、2億円超3億円以下(40%→45%)、6億円超(50%→55%)と、それぞれ5%の引上げとなりました。
 ですから、被相続人となる可能性がある人は、遺産を残すだけではなく、遺産を譲り受ける相続人の負担もある程度考慮しておくことをお勧めします。

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