読書の秋。でも、読書の楽しみとは、本を読み耽ることだけにあるのではありません。読みながら季節を満喫し、その場の雰囲気やそこに流れる時間を感じること、また、ブックカフェでお茶を飲んだり店主と会話を楽しんだりすることも、大きな喜びではないでしょうか。

 「わざわざ訪ねる価値あり」、こんなふうに紹介されている図書館が全国に増えています。カフェや喫茶店にも読書の空間として味わい深い店があちこちにあり、静かに話題を呼んでいます。今回は本を読むための空間に着目し、その魅力的なスペースの楽しみ方をご紹介します。

図書館へ行こう!1図書館へ行こう!

 本を探す、読む、借りるだけでなく、ふらりと訪れても素敵な時間を過ごせる魅力的な図書館が増えています。公立図書館は住民でなくても利用することができ、最近は図書館を巡る旅に出る人もいるとか……。建築としての美しさに魅了される、雰囲気のいいカフェが併設されている、ユニークな催しが行われているなど、その魅力はさまざま。今回は、「赤レンガ図書館」の愛称でも親しまれ、近隣のみならず遠方から訪れる人も多い東京都北区立中央図書館を例に図書館の魅力を探りました。

北区立中央図書館

地域の図書館の魅力 5選

土地の歴史を知る

館内に残された赤レンガの外壁

 地域の図書館には、歴史ある建物を活用していたり、由緒ある場所に建っていたりするところがけっこうあります。また、地域の資料が豊富に収集されていることも魅力です。

 北区立中央図書館の愛称「赤レンガ図書館」は、1919(大正8)年に建設された東京砲兵工廠銃包製造所のレンガ造りの建物を活かす形で建設されたことが由来です。当初の銃包製造所(弾丸や薬莢、火薬を製造)は、終戦後にアメリカ軍に接収され、返還後は陸上自衛隊の支所となっていました。その後、一部が北区へ移管され、軍事施設としての始まりから数えると約90年後の2008(平成20)年に、この図書館に生まれ変わりました。館内では、旧い赤レンガ造りの建物の一部を見ることができます。

 この歴史や建築物などについてもっと知りたい思った方は、1階の「北区の部屋」へ。ここには地域の図書資料や古写真、古地図、古文書などが多数所蔵され、それらの企画展も行われています。また、地域資料専門員が在室している日は、北区に関する質問に答えてもらうこともできます。

ゆかりの文人に触れる

 図書館には、その土地ゆかりの文人や作家などのコーナーを設けているところが数多くあります。北区立中央図書館には「ドナルド・キーン コレクション」のコーナーがあり、全国からファンを集めています。

 アメリカ合衆国出身のドナルド・キーン氏は、日本文学・日本文化研究の第一人者。寄贈された書籍や絵画を、キーン氏の書斎に見立てて公開しているコーナーで、ご本人の書き込みのある貴重な図書も閲覧室で手に取ることができます。キーン氏はニューヨーク市生まれですが、東日本大震災を機に2012年に日本国籍を取得。北区には40年ほど前から暮らしており、名誉区民で北区アンバサダー(大使)も務めています。

書斎を模した「コレクション」のコーナー

アートとしての建築・空間・家具を堪能する

鉄骨トラス(左)とラチス柱(右)。当時のままのラチス柱の土台をガラス張りの床から見ることができる

 機能性と美しさを兼ね備えた外観やエントランス、書架、ついつい長居をしたくなる閲覧室など、建築や空間づくり、机や椅子などの家具を堪能することも、ぜひ提案したい図書館の楽しみ方です。

 北区立中央図書館はレンガ造りの旧い建物にガラスを取り入れた新たな建築を調和させていることなどが評価され、2009年度グッドデザイン賞を受賞しています。レンガ造りの三角屋根の外観は、図書館の隣りに広がる芝生の公園にも調和し、絵になる風景を道行く人に届けています。

 館内に入ると「鉄骨トラス」や「ラチス柱」と呼ばれるレンガ棟の構造が洒落たオブジェのように図書館の空間に融合し、窓から差し込むやわらかな光とあいまって、窓辺の閲覧コーナーを心地よい空間にしています。誰もが利用しやすいようにと配慮された高すぎない書架や広めの通路、段差がないこと、シンプルで座りやすいデンマーク製の椅子なども快適。晴れた日は開放感あふれるテラスで読書を。


機能的な美しさをもつ、閲覧室の机と椅子(左)。ソファーでゆっくり読書も(右)

子どもと一緒に楽しむ

子ども向けに棚や机、椅子の高さが設定されている

 最近の地域の図書館は、子ども図書室も凝っています。北区立中央図書館には2階に広々とした「こども図書館」があり、児童書架をはじめ、定期的におはなし会が開かれる「おはなしのへや」や、幼児の遊び場や授乳室、給湯設備を備えた「子育て情報支援室」、さらにテラスもあるなど内容も充実。赤ちゃんの時から絵本に親しんでもらおうと「赤ちゃん絵本サロン」という催しもあります。子ども用の椅子には大小いろいろなサイズがあり、子どもが自分に合った椅子を選ぶ楽しみもあるようです。


自分に合った高さの椅子が選べる(左)。椅子の下には秘密の引き出し(右)

一日過ごせる場所

大橋信夫さん

 「利用者が主役の図書館を目指して、利用しやすく長時間滞在にも配慮した空間づくりを工夫し、一日中いられるように喫茶室や飲食のできるスペースを設けています。また、当館は区民協働型の図書館であることも特徴で、現在、約600人の区民パートナーとともに図書館活動を行っています」と北区教育委員会教育振興部中央図書館の大橋信夫さん。区民パートナーの皆さんは「区民の会」というグループをつくり、この図書館のホールでコンサートや講演会などのイベントを催したり、多彩な講座を実施したり、図書館や地域コミュニティのために知恵や力を出し合っているといいます。例えば、「古文書を読み説く講座」や、住民から提供してもらった昔の8ミリフィルムを鑑賞するイベントなどが、最近は特に好評だと聞きました。

すべての世代に開かれている

読書に疲れたら建物の外へ

 2時間、3時間と滞在していると、いろいろな人が図書館を訪れていることに気づきます。朝刊を読みに来る人、読み終えた本を返却して次の本を選んでいる人、赤ちゃん連れやお孫さんを連れた人、喫茶でおしゃべりしている人、椅子に腰かけて外を眺めている人など。放課後の時間には中高生が増えるのでしょう。北区立中央図書館には「YA(ヤングアダルト)スペース」という中高生世代のグループ学習室があり、ここに置かれている椅子も、逆向きに座れば背もたれがひじ掛けに変わるなど、またひと工夫あるものです。

 休日には家族連れの姿も増え、図書館と隣りの公園を行き来しながら本を読んだり借りたり、遊んだり……。閲覧室で本を読みふけるのもいいですし、落ち着いた空間でのんびり過ごすのも心地よさそう。図書館の楽しみ方もさまざまです。秋の一日、まずはお近くの図書館へ出かけてみませんか。

おすすめの1冊

『古畫総覧 第1期 円山四条派系』

(佐々木丞平・佐々木正子 編著/国書刊行会)

 絵画の写真資料を掲載している重厚な書物です。内容も素晴らしいのですが、「この一冊で7.2㎏あり、当図書館で最も重量のある本です」(大橋さん)。図書館でないとなかなか手に取ることができない、質・量ともに重量級の1冊です。

■東京都北区立中央図書館
(〒114-0033東京都北区十条台1-2-5)

〈アクセス〉

・JR京浜東北線・東京メトロ南北線・王子駅北口(北とぴあ前)からコミュニティバスに乗り「中央図書館」下車すぐ。または、王子駅から徒歩15分

・JR埼京線・十条駅南口から徒歩12分

・JR京浜東北線・東十条駅南口から徒歩12分

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