中高齢になると、「食が細くなった」、あるいは「こってりしたものが受け付けなくなった」という話をよく聞きます。若い時ほどの食欲は望めないにしても、「食欲の低下」=老化現象などと高を括っていると、思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあります。特に、最近痩せてきたという方、疲れやすくなったという方は要注意です。そこで、今回は、そんな怖い「高齢者の低栄養」を取り上げます。
1高齢者ほど肉食を
高齢者の「痩せ」の特徴
高齢になると、徐々に食欲が落ちてきて食べる量が減ってきます。しかも仕事を離れた生活を送っていると、自ずと日常の活動量は減っていきます。体を動かさなくなると当然、空腹感も出ないので、食事量は減り体重は落ちてきます。これまで肥満気味であった人が適正体重になるのは良いことですが、食欲が落ち続けるまま放置しておくと痩せてきます。
人から見て「痩せている」と思われるほどになると要注意です。それは、「筋力(筋肉量や筋肉の元気さ)」、「骨力」「血管力」が落ちていることを意味するからです。こうした人たちに共通なのは、食事に肉や魚、卵、牛乳・乳製品といった良質なタンパク質が不足していることです。これが「高齢者にある低栄養」です
怖い「高齢者の低栄養」…寝たきり、認知症のリスクも
なぜ、低栄養が問題になるのでしょう?これは、高齢者が低栄養状態になると「サルコペニア」という症状を起こすからです。サルコペニアとはギリシア語で「肉」を表すsarx(サルコ)と、「喪失」を意味するpenia(ペニア)を組み合わせた「筋肉の喪失」という意味の造語です。
筋肉の量や筋肉の元気さが減ってくるとどうなるでしょうか? 筋肉量が減ることで新陳代謝が悪くなったり、足腰の筋力が落ちてきたりします。血管も筋肉でできているため、血管が老化する原因にもなります。すると、歩くことが遅くなり、杖なしでは歩けない、あるいは転倒しやすくなります。転倒すると、全身のあちこちを強くぶつけて痛みが強い状態になります。同時に骨力が落ちていると足や股関節の骨折をすることもあります。全身が痛い、骨折などを起こすと、どうしても布団やベッドでの安静が必要になります。すると起き上がる力が弱まり、あっという間に寝たきりになってしまうのです。たった1日の入院で筋肉が1〜2%落ちることがわかっています。寝たきりになると、QOL(Quality of Life:生活の質)が下がるだけでなく、認知症のリスクも高くなります。
つまり、高齢者にとって、積極的に「筋肉を育てる」ことが健康長寿の秘訣になるのです。
どうしたら筋肉は作れる?
基本は動物性のたんぱく質。脂質も必要
筋肉をつくるためには、まず材料になる「たんぱく質」を積極的に食べることが重要です。目標は1食25グラム以上。主菜(肉や魚のおかず)で20グラム以上、副菜(野菜などのおかず)で5グラムで、1日の合計は70〜80グラムになります。副菜のメニューには野菜だけでなく、ヨーグルトを食べたり、ハムやチーズ、肉や魚介類を使ったメニュー(ハムサラダや貝の味噌汁、たこ酢など)を摂り入れると良いでしょう。
たんぱく質は、肉や魚、卵、牛乳・乳製品、大豆・大豆製品などに多く含まれています。主菜でたんぱく質を20グラムとるには、肉や魚を平均して100グラム以上が目安です。魚の切り身なら大きめを1切れ、さんまやあじは1尾程度を食べましょう。
たんぱく質には、動物性と植物性があります。肉や魚に含まれるたんぱく質は動物性たんぱく質で、体内で合成できない必須アミノ酸がバランス良く含まれており、「良質なたんぱく質」と呼ばれています。肉は、赤身の部分にたんぱく質が多く含まれているのでロースやもも、ささみがおすすめです。肉や魚にはたんぱく質のほかに、脂肪やビタミン、ミネラル類が豊富ですから、同時にこれらの栄養成分が取り込めるメリットがあります。
植物性タンパク質は動物性たんぱく質と一緒に摂ることで意味がある
同じたんぱく質源である大豆・大豆製品(納豆や高野豆腐など)は植物性たんぱく質です。しかし、食品中に含まれるタンパク質の量が肉や魚に比べて少なめです。しかもアミノ酸のバランスがあまり良くありません。ですが、動物性たんぱく質源と一緒に食べることで良質なたんぱく質に変化します。
例えば1食のメニューに納豆のほかに肉野菜炒めや刺身などを追加するとたんぱく質の質が良くなります。このほか、すき焼き、麻婆豆腐、肉豆腐など肉と大豆製品が一緒に食べられるメニューもおすすめです。
脂肪は体のエネルギー源として欠かせません。高齢になって弱くなりがちな細胞膜や血管を強くする働きをはじめ、皮膚や髪のつやにも必要です。
卵はどうする?
卵は良質のタンパク質源であるとともに、ビタミン・ミネラル類が豊富な優秀な食品です。卵に含まれるたんぱく質はMサイズ1個で約6.8グラムです。また、日本動脈硬化学会により、「高コレステロール血症でなければ、コレステロールの多い食品を控える必要はない」と発表されました。ですから「コレステロールが気になるから」と避けなくても良いのです。だし巻き卵にすると1度に2個ぐらい食べやすくなります。しかし、2個食べても必要なたんぱく質の目安量には届きません。他の食事で肉や魚を多く食べるか、四角い形の個別包装になっているプロセスチーズなら2個(1個15グラムでたんぱく質量3.4グラム)を追加するとちょうど良くなります。
ポイントはビタミンB群
肉や魚に含まれるビタミン・ミネラル類は肉や魚の種類によって異なりますが、肉類全般にはビタミンB群が豊富です。このビタミンB群とは、ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの8類の総称です。ビタミンB群が体内に豊富にあると、たんぱく質の代謝を高めて筋肉の合成を促す働きがあります。ですから、たんぱく質だけ食べるよりも効率よく筋肉を作ることができます。高齢者こそ肉食をすすめたいのは、こんなところにも理由があります。
このほか、ビタミンB群はからだ全体の代謝を促進するために、食べた食事がスムーズに体や脳のエネルギーになる「からだの元気の素」になります。不足すると、疲れやすくなり、疲労回復に時間がかかるようになります。
コラーゲンは美容のためにあるのではない
弾力があってしなやかな筋肉をつくるためには、筋膜の構成成分であるコラーゲンが不足しないようにする必要があります。また、コラーゲンは骨力を高めるためにも欠かせません。カルシウムとたんぱく質でできた骨の細胞同士をくっつける「のり」の役割を果たすのです。不足すると骨がすかすかになってもろくなる病気の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を招く原因にもなります。転倒時に骨折しないためにも重要な成分です。
コラーゲンは外から摂り入れても意味がないと言われています。たんぱく質と共にビタミンA(ベータカロテンが体内で必要に応じてビタミンAに変化)、ビタミンCをしっかりと補給することで、コラーゲンを体内で合成することができます。合成する力は加齢とともに弱くなりますが、その力は食事で補うことしかできません。
ベータカロテンは緑黄色野菜で
ベータカロテンは緑黄色野菜に豊富です。野菜のなかで緑黄色野菜とそのほかの野菜との区別には細かい定義がありますが、簡単な見分け方法があります。それは、野菜の外皮と切った断面が両方とも色が濃いことです。例えば、かぼちゃは外皮が濃い緑色で断面はオレンジ色ですから緑黄色野菜です。逆になすは外皮は濃い紫色ですが、断面は白色なのでそのほかの野菜とみなされます。野菜の摂取量の3分の1から半分以上は緑黄色野菜を食べるのが理想的です。
ビタミンCは柑橘系の果物で
ビタミンCは柑橘系の果物(みかんやオレンジ、いよかんなど)のほか、キウイ(緑)、いちご、メロン、赤ピーマン、ブロッコリー、かぼちゃ、カリフラワーなどに豊富です。ただし、ビタミンCは熱に弱いので、加熱加工してある缶詰には残っていません。果物は生で食べるのがコツです。
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① 高齢者ほど肉食を