これまで職場が中心となっていた生活は、退職を機に大きく変わっていきますが、職場という活動場所がなくなることに不安を感じる方もいるかもしれません。でも、変化は大きなチャンス。家庭を生活の基本にしながら、同時にその外にも活動の場を広げていく絶好の機会です。シリーズで、退職後のさまざまな活動の場をご紹介します。

1お近くの病院でもボランティアが活躍

病院ボランティアとは?

 大きな病院を訪れた際、受診や会計の手続きに戸惑ったり、院内で迷ってしまったりという経験のある方は少なくないでしょう。そんなとき、手助けをしてくれるのが病院ボランティアです。実際、「声をかけられて助かった」「案内をしてもらえてほっとした」という方もいるのではないでしょうか。

 病院ボランティアは、患者さんやその家族、お見舞い客などが手助けを必要としているときに力を貸し、不安を和らげたり、入院生活を過ごしやすくしたり、話し相手をしたりしています。また、このような活動は、病院サービスの向上に貢献し、院内の医療・事務スタッフを陰で支えることにもつながっています。

 活動は外来・入院患者さんのサポートで、欧米で始まった活動が日本でも次第に大規模な病院を中心に行われるようになり、ボランティアを受け入れる病院の数も増えてきています。活動の内容やその場所、活動する人に求められる条件は、病院によってさまざまです。活動場所は、外来や入院病棟をはじめ、緩和ケア病棟、小児病棟、院内の図書施設、リハビリテーション施設など。また、活動内容は、外来フロアでの案内や受診などの手続きの支援、車いすの患者さんの移動支援、入院中の患者さんの話し相手や病棟とリハビリ棟間の送迎などがあります。

 皆さんが通うお近くの病院でも、きっとボランティアが活躍しているはずです。病院のウェブサイトなどをご覧になるといいでしょう。

東大病院「にこにこボランティア」

ボランティアコーディネーター 上野 仁子 さん
ボランティアコーディネーター
上野 仁子 さん

 では、病院ボランティアの実際の活動とはどのようなものでしょうか。今回は、東京・文京区にある東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)のボランティアコーディネーター・上野仁子さんにお話を伺いました。

 東大病院では1994年7月、外来棟の新装オープンを機に患者サービスの一環としてボランティアの受入れをスタート。日本百貨店協会と東京ボランティアセンターの協力で集まったボランティアメンバーで「東大病院にこにこボランティア」を結成して23年目を迎えています。

 「スタート当初のボランティアには、デパートの職員の方が参加してくれました。職場を定年退職した後も当初のメンバーの多くが活動を継続し、23年目を迎えた方が20人もいらっしゃいます。現在は、そうした定年後の世代をはじめ、主婦、会社員、大学生など、年齢も職業も異なる125人のボランティアの方が活動しています。」(上野さん)

 平均年齢は61.8歳。最年長は81歳、最年少は20歳の学生さんです。125人のうち8割強が女性ですが、男女にかかわらず歓迎とのことです。活動にかかる交通費やボランティア保険(社会福祉協議会)の保険料はすべてボランティアの自己負担となっていますが、埼玉県や千葉県、神奈川県から通っている人もいるといいます。

病院にとってなくてはならない存在

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院内図書館「ニコニコ文庫」の貸出し

 「活動内容は患者さんへの手助けが中心で、外来フロアでの受診手続きのお手伝い、院内ガイド(検査室等の案内)、車いすの介助などです。『にこにこボランティア』はこのような外来患者さんへの対応からスタートして、現在では、長期入院で院内学級に通う児童の送迎、小児病棟での子どもの遊び相手、院内図書室『にこにこ文庫』での本の貸出など、徐々に活動の幅を拡げてきました」と上野さん。

 東大病院のボランティアコーディネーターは、代々、看護師長や看護主任の経験者が担当しており、上野さんも看護師、そして看護師長としてこの活動を間近で見てきました。「当時、医療機関では患者さんを『お客様』ととらえる考え方が希薄でした。接客の経験が豊富なボランティアの方々は患者さんへの応対がやわらかで、とても勉強になりました。これを機に職員の接遇への意識が大きく変わったと思います。また、外来患者さんは年々増えていて、1日4,000人を超す日もあります。ボランティアの方が案内などの一般的な対応を支えてくれるおかげで、医療スタッフは医療サ-ビスに専念でき、診療が滞りなく進みます。患者さんの支えになるだけでなく、病院スタッフの助けにもなっています。東大病院にとって本当になくてはならない存在です」と語ります。

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自動受付機の使い方を案内

 結成時に名づけた「東大病院にこにこボランティア」の名前は、「いつも笑顔で応対しましょう。なにも差し上げるものはないけれど、せめてスマイルをあげましょう」という気持ちを込めたものだといいます。ボランティアは、ライトブルーの揃いのエプロンを着用し、主に外来フロアで活動しています。玄関やフロア内に気を配り、気になる患者さんがいれば声をかけます。案内を求められて応対する姿は、きびきびしながらも穏やかな表情で、「にこにこ」という名前どおりの印象を受けます。

ボランティアになるには?

 では、活動に参加するにはどうしたらよいのでしょうか。

 「何か資格が必要ということはありませんが、最低月2回、1回3時間、立ったままで活動することが可能な18歳以上の方が条件です。活動日数は人によってまちまちで、月2回からほぼ毎日という方まで幅広くいらっしゃいます。活動日と時間帯は都合に合わせて選んでいただけますので、シニア世代の方にも活動しやすいものとなっています。無理なく、細く、長く活動していただける方をお待ちしています。」

 募集期間内に申込みをして説明会に参加し、面接、研修を経たうえで活動を開始。研修は3か月間で、東大病院のことや、車いすの介助の仕方、患者さんへの応対など学び、外来患者さんへの対応から経験していきます。一見大変そうですが、しっかりした研修を受けることで活動への不安を解消することができます。

 また、ボランティアコーディネーターによるサポートがあるのも、安心して活動できる理由です。コーディネーターが研修の講師をしたり、必要に応じてボランティアの相談にのったりして活動を支えます。上野さんは「皆さんに快適に活動していただけるようにボランティア活動を支えるのが私の役目です」と語ります。

ボランティア対象の講座や仲間同士の活動も

 東大病院では年3回、ボランティアの要望に応じたテーマで講演会を開催しています。例えば、認知症に対する知識を深めたり、病気や健康、ボランティアなどをテーマに学んでいます。講師は、東大病院の医師が担当しています。こうした学びの機会があることもこの活動の魅力といえるでしょう。また、ボランティア自身による運営委員会があり、ボランティア活動の運営について話し合うだけでなく、仲間同士でお花見を楽しむといったこともしているそうです。

 「活動を続けている皆さんからは、『患者さんから感謝の言葉をいただけることがやりがいになっています』『笑顔でありがとうと言っていただけると疲れが吹き飛びます』といった声が聞かれます。私から見て、皆さんは年齢よりずっと若々しく見えます。病院の顔である外来フロアに立ち、訪れる方にやさしく丁寧に応対をされているからでしょう、颯爽とされていて素敵です。」

 上野さんの話す言葉は、常にボランティアの方々への尊敬が感じられるものでした。

 次のページでは、東大病院でボランティア活動を長く続けている3人の方から体験談をお聞きします。

 
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