これまで職場が中心となっていた生活は、退職を機に大きく変わっていきますが、職場という活動場所がなくなることに不安を感じる方もいるかもしれません。でも、変化は大きなチャンス。家庭を生活の基本にしながら、同時にその外にも活動の場を広げていく絶好の機会です。今回からシリーズで、退職後のさまざまな活動の場をご紹介します。

1シルバー人材センターとは?

 シリーズの初めとして、2回にわたって「シルバー人材センター」をご紹介します。ポイントになるのは、シルバー人材センターが、単なる就業場所ではなくさまざまな出会いの場であるということ。今回、お話を伺った草加市シルバー人材センターのスローガン「仕事がある・仲間がいる・出会いがある」は、まさにそのことを象徴しています。

会員は全国に約72万人

 「名称は知っているけれど、詳しくはわからない。」シルバー人材センターについて、このような認識の方は多いのではないでしょうか。シルバー人材センターの歴史はけっこう長く、1975(昭和50)年に創設された「高齢者事業団」が出発点です。高齢者が増えるなか、定年などで現役を引退した後もなんらかの形で働くことを希望する人が増えてきたことを背景に、東京都で誕生しました。
 事業の目的は、高齢者が知識や経験、能力を活かしつつ、共に助け合いながら働くことを通じて生きがいを得るとともに、地域社会に貢献すること
 この目的が多くの共感を得て、取組みは全国各地に広まり、1980年にはこうした事業を行う団体に対する国庫補助が始まって、このときから名称が「シルバー人材センター」に統一されます。そして1986年、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が施行されると、シルバー人材センターはこの法律に基づいて事業を行う組織として位置づけられました。全国のほとんどのセンターが、都道府県知事の認可を受けた「公益社団法人」として活動しています。
 全国に広がったセンター数は、1980年には425センター、会員数4万6,000人でした。それから35年後の2015年には1,304センター、会員数72万1,712人に拡大しています。

入会するための条件は?

埼玉県の草加市シルバー人材センター 坂本百合子事務局長
草加市シルバー人材センター
事務局長 坂本 百合子 さん

 どのような人たちが会員になり、どのような仕事や活動をしているのでしょうか。今回は埼玉県の草加市シルバー人材センター(以下、草加市シルバー)を訪問し、坂本百合子事務局長にお話を伺いました。
 入会条件は、おおむね60歳以上で、健康で働く意欲があること。シルバー人材センターの趣旨に賛同して、定められた会費を納入することで、特別な資格などはいりません
 シルバー人材センターは、「自主・自立、共働・共助」の理念を掲げています。これは会員自らが運営に参画するという意味で、会員が役員を選び、役員が中心となって事業を展開していきます。事務局は会員の活動をサポートし、会員が安全に安心して働き、活動できる環境づくりに努めています。
 会費は各センターによって異なりますが、だいたい年会費1,000円〜3,000円が中心です。

仕事の種類は?

 各センターでは、会員が働くことを通じて生きがいの充実や社会参加を図るとともに、地域社会に貢献する場をつくることを目的として、会員に就業機会を提供することを事業の中心に据えています。
 提供する仕事は、地域に密着した「臨時的・短期的」または「その他の軽易な仕事」で、民間企業や一般家庭(個人)、地方公共団体等から、請負や委任契約で受注したものが主です。
 各センターでは、地域のニーズ調査をしたり、事業所訪問などのPR活動を行ったりして受注開拓に努めています。また、自治体と協力して地域で手助けを必要としている人たちの支えとなる役割を担ったりして、活動の場を拡げています。このため、受注している仕事は各センターによって異なりますが、全国的にみて多い仕事として、植木の剪定や草刈り、除草、駐輪場などの施設管理、清掃、家事支援、子育て支援、学習教室、自転車のリサイクルなど多様な仕事が挙げられます。

■会員が就いている主な仕事の例
http://www.zsjc.or.jp/about/about_06.html
〈全国シルバー人材センター事業協会 ウェブサイトより〉

収入はどのくらい?

 全国平均をみると、会員1人あたりがひと月に働く日数は8〜10日、ひと月の平均収入は3〜5万円程度となっています(2014年度実績)。
 「臨時・短期・軽易に限られた仕事ですので、多くの収入は望めませんが、現役時代とは違った緩やかなペースで働きながら健康を保ち、社会とつながりを持つことができます。そして働くことを通じて、その仕事が地域や誰かの役に立っていることを実感できたり、元気なうちは地域福祉の受け手ではなく、支え手・担い手として行動できる場があるのがシルバー人材センターです。
 入会の動機は、『生きがいや仲間を見つけたい』とか、『時間的余裕』『健康維持のため』とお答えになる方が多数です。また、仕事をして少しでも収入を得たいという方もいらっしゃいます。」(坂本事務局長)

草加市シルバー人材センター

 草加市シルバーの会員数は現在約2,300人。うち、男性が約1,500人、女性が約800人です。
 「全国のセンターと同様に、当シルバーも国・地方自治体から援助を受けている公共性の極めて高い公益法人で、営利を目的とする団体ではありません。1983年に発足して以来、市民の皆様、地域の事業所ならびに草加市からご支援をいただくなか、さまざまな就業機会を得てきました。会員の皆さんはその就業機会に対し、それまで培ってこられた知識や技能、経験を発揮し、ボランティア活動の取り組みも含めて、地域社会に貢献していこうと日々元気に活動しています。」(坂本事務局長)
 シルバー人材センターでは、働くこととあわせて会員のボランティア活動にも積極的に取り組んでいます。草加市シルバーでは「シルバーボランティア運営委員会」が中心になり、近隣の子どもたちと農作物を栽培、収穫する「シルバーボランティア農園活動」、園児と一緒に市内の保育園に球根を植える「チューリップいっぱい活動」などを行っています。

会員になるには?

 各センターでは定期的に入会説明会を開催しています。説明会に参加して、センターの趣旨などを了解し、入会の希望をすれば、入会の手続きに入ります。
 草加市シルバーの場合は、入会説明会を毎月2回開催しています。
 「まず、センターに電話でお問い合わせください。月2回の入会説明会と、年数回、出張説明会を開催しています。出張説明会は会員から選ばれた理事が主催し、理事からセンターのしくみや趣旨を説明します。また、会員の体験発表も行いますので、実際の会員の声を聞いていただけます。センターの主旨をご了解いただいたうえで、その後、入会の手続きをいたします。入会後は、事務局の職員と個別に面談し、希望する仕事の分野などを聞き、適した仕事を職員がコーディネートします。新たな仕事に就いたときは、1か月間は試用期間として働くことができ、合わないと感じたときには他の仕事を探すことができます。」(坂本事務局長)

89歳の会員も活躍

 定年延長や継続雇用制度などにより、企業で働く人の年齢が上がるなか、シルバー人材センターへの入会年齢は年々高まっていて、最近では60代後半以降に入会する人がほとんどといいます。
 「当シルバーで仕事をしている会員の平均年齢は、現在71.6歳です。ここでは70代が働き盛り、60代はまだまだ若いといわれます(笑)。」(坂本事務局長)
 高年齢になってそれまでの仕事ができなくなったとしても、できる仕事を見つけて働き続けている会員がたくさんいます。草加市シルバーでは、例えば、歩いて広報誌を各戸に配布する仕事があり、80代の会員さんが担っています。また、89歳で除草の仕事で活躍している人もいるということです。

生きがいを得るための就業

 「センターでの働き方は就職ではなく、"生きがいを得るための就業"を目的としていますので、就業日数や収入の保障はありませんが、それぞれの希望や能力、体力に応じた働き方が可能です。希望にかなう仕事が必ずあるとは限りませんが、『何でもやってみよう』という気持ちで参加していただければと思います。一歩踏み出して何かに関わることで、いろいろな可能性が広がると思います。そのうち、ボランティア活動もしたり、センターの運営に関わってみたり、文化祭のような行事もありますので、そうした場で活躍する会員もいます。シルバー人材センターの会員になって、人生をより豊かにしてみませんか。」(坂本事務局長)

■草加市シルバー人材センター ウェブサイト
http://www.soka-silver.com/

■全国シルバー人材センター事業協会 ウェブサイト
http://www.zsjc.or.jp/index

 次のページでは、草加市シルバーの会員として活躍している福田常一さんから体験談をお聞きします。

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