家族や自身が高齢化してくると、住まいのあちこちに不便を感じます。住まいは生活の基盤であり、年齢とともに家の中で過ごす時間が長くなりますから、住まいの安全・安心はとても大切なことです。また、高齢になると「転倒」が要介護の原因となり、最悪の場合は寝たきりになる恐れもあることはよく知られていることですが、転倒場所は屋外より屋内のほうが多いこと※1をご存知でしょうか。いつまでも元気で暮らすためにも、安全で安心して過ごすための住まいの改修について考えてみましょう。
 住宅の改修はできるだけ早く、経済的にも身体的にも余力があるうちに行うのが理想ですが、高齢になって気が付くことも多いでしょう。そのとき、心配になるのは費用のことです。今回は公的介護保険制度の範囲で行える住宅改修(住まいの環境整備③を参照してください)について、費用の目安※2をご紹介します。

※1 内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」(平成22年度)より
※2 費用は仕様や素材、メーカーなどによって異なるため、ここではあくまでも目安となる平均的な費用をご紹介します。

 

1住宅改修にはいくらかかるか?

手すりの取付け

 手すりと一言でいっても、材料や形状によって値段(1m当たり)はかなり違います。また、取付箇所の壁を補強しなくてはならない場合もありますので、住まいの状況によっても費用は変わってきます。

【材料の種類】

 取付ける場所によって、最適な材料を選びましょう。
○木製
 住宅の内部では木製の手すりが多く使われます。手触りが良いのと樹脂製や金属製に比べて暖かいので室内にお勧めです。木製には集成材(人工材)と無垢材(自然素材)があり、既製品はこれらに塗装が施されています。費用は無垢材を使っているほうが高くなります。
○樹脂巻き金属芯
 金属パイプに樹脂を巻きつけたもので、曲げることもできるので階段、廊下の曲がったところも途切れずに付けられるので扱い易いのが特徴です。
○金属製
 ステンレスなどは錆にくいので、屋外の手すりに使われます。オ-ダメイドが多くなります。

<例1>
1 yajirushi 2
左が施工前、右が手すり(木製)を取付けたところ。柱のすぐ脇には下地の木が入っていて木ネジが効くので下地の補強は必要ない。
<例2>
1 yajirushi 2
左が施工前、右が手すり(木製)を取付けたところ。壁の入隅(角)には下地の木が入っていて木ネジが効くので下地の補強は必要ない。
<例3>
1
浴室の手すり(金属芯樹脂巻き)。タイル面に取付けている。

【形状】

用途によって選びましょう。
○ストレート
 45cm、60cmなど、決まった長さの規格品が市販されています。手すり本体とブラケット(壁に取付ける部品)を組み合わせて長さも自由に切って使えるものもあります。
○曲がり
 同素材のシリーズには必ず曲がり部分の部品が揃っています。自在に曲げられるタイプが多いので直角だけでなく自由な角度が作れます。ただし、手すりの連続性という意味においては少し引っかかりがあります。

<例4>

1 階段手すり(木製)。壁の下地があるところを狙って支えの金属部材を取付けている。曲がり部も専用の部材を使って連続させている。

【壁補強】

 一般の木造住宅の場合、壁の下地の木は縦方向に30cmか45cm間隔に入っています。壁はプラスターボード(PB)という石膏を固めてボール紙を両面付けたものなので、木ネジが効きません。そこで手すりを付ける場合に先ず板を下地の木にビス止めしてから付けることになります。これを壁補強と言います。なお、ツーバイフォー(2x4)工法では壁全体がベニヤで出来ているのでどこでも手すりが付けられます。
※木造枠組壁工法ともいい、柱ではなく、床・壁・天井で住宅の枠組みを箱型につくって住宅を建築します。

<例5>

1 yajirushi 1 トイレのL型手すり。壁の中央への取付けとなるため、下地の板を取付けてから設置してある。

費用の目安(見積例)

 下記は実際の見積例です。見積書には専門用語などが使われていることもありますから、工務店から見積書をもらったら必ず説明を受けましょう。

(表紙)

9

(明細書)

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【浴室の段差解消】

最近の浴室ユニットは段差の無いものが主流になってきています。木造在来工法ではそのようなユニットに変えることで段差が解消できます。1間四方の1坪タイプ以外にも1.8m(1間)x1.35mの小さいものも揃っています。また、ユニットに変えることでタイル張りの冷たい床が滑りにくい樹脂製になるので快適です。とはいえ、水廻りの改修はお金がかかります。加えて、既存の撤去費、給排水管の変更や電気、サッシの変更なども必要になることがあります。
※柱や梁などの軸組で住宅を支える建築法です。

11 yajirushi 1

からの視点(奥が浴室)。

費用の目安
1坪タイプのユニットで本体価格は60万円から100万円+既存の撤去費用、給排水管の変更、電気、サッシの変更費用など。
⇒公的介護保険制度を利用する場合は、本体価格にその他の費用を加えた額の1割が自己負担となります。
★介護保険を利用できるのは1軒につき20万円(自己負担2万円)までです。

【玄関の段差解消】

 スロープの勾配は1/10から1/12程度が理想的です。このためには50cmの段差では5m〔1/10〕から6m〔1/12〕のスロープが必要となります。そのほかに平らな部分を加えると6mから7mのスペースが必要となります。スペースが足りない場合は昇降機(リフト)などの機器を使うと良いでしょう。

床の滑り止め

【フローリングの滑り止め】

○ワックスの選び方
 床のワックスは非常に滑りやすい物があります。特に油性タイプの物が滑りやすくなっています。最近は水性タイプが増えてきており、扱いも楽です。その中で滑りにくい物を選ぶと良いでしょう。
○タイルカーペットを置く
 そのままでは不安な場合は床の上に置くタイプのタイルカーペットが良いでしょう。事務所などでよく使われている50cm角の物で、厚さは6mmで下面はゴムでできています。糊付けするのが一般的ですが、自分で設置する場合は、置くだけでも問題なく、繋ぎ目がめくれてくることはありません。

1 1
置いたタイルカーペット。 裏面はゴムで滑らない。

【外部のコンクリートやタイルの滑り止め】

○防滑塗装材を塗る
 外部の場合はコケが生えたりして滑りやすくなることもあるので、先ず水が溜まらないようにすることが先決です。それでもタイルの中には滑りやすい物があります。そんな場合は張り替えるのが一番ですが、塗り床材の防滑性のものを塗るのも良いでしょう。エポキシ系のものは外部でも使えます。

※エポキシ樹脂という接着力の強い樹脂を加工します。毒性や引火性は少なく、耐熱、耐水、耐薬品、耐候性に優れています。

費用の目安 (単位:円)
部屋の広さ 商品 タイルカーペットの場合 エポキシの場合
直接工事費 経費 工事代金 直接工事費 経費 工事代金
4.5畳 商品A
商品B
18,900
27,000
2,835
4,050
21,735
31,050
27,000
36,000
4,050
5,400
31,050
41,400
6畳 商品A
商品B
25,200
36,000
3,780
5,400
28,980
41,400
36,000
48,000
5,400
7,200
41,400
55,200
8畳 商品A
商品B
33,600
48,000
5,040
7,200
38,640
55,200
48,000
64,000
7,200
9,600
55,200
73,600

「直接工事費」は、直接工事に関わる費用のことで「共通仮設費」(準備費、機械器具費)と「諸経費」を除きます。
上表については50㎡のタイルカーペットまたはエポキシを使うことを前提としていますので、端数の枚数分も含まれています。

**エポキシ塗装の経費はその他の工事と合わせた場合で、単独に工事を依頼する場合はもっと高くなります。

⇒例えば、タイルカーペット商品Bによる6畳の滑り止め工事に対して、公的介護保険制度を利用する場合は、41,400円の1割で4,140円が自己負担となります。
★介護保険を利用できるのは1軒につき20万円(自己負担2万円)までです。

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