「住み慣れた家や地域で住み続けたい」というのは多くの人の願いです。しかし、若く健康であるうちは気にならないものの、高齢になったり障害を持ったりすると、住まいの環境はさまざまな"バリア"に満ちていることがわかります。できる限り"我が家"で暮らし続けるためには、どのような配慮が必要なのか。私たちにできる住まいの環境整備についてシリーズでご紹介します。
1介護保険でできることは?
高齢になって介護が必要になっても、手すりを取り付けたり、段差を解消したりすることで住み慣れた家に暮らし続けることができます。バリアフリー化にあたって大きなポイントとなるのが費用の問題ですが、介護保険を利用すれば費用の9割(一定以上所得者は8割)が制度から支給されます。今回は、介護保険における住宅改修費の支給についてご紹介します。
要介護・要支援者で、20万円までが支給対象
住宅改修費の支給の対象になるのは介護保険の要介護・要支援認定を受けた人で、支給限度基準額は20万円までです。1割が自己負担となるので、実質的には介護保険から18万円が支給されます(一定以上所得者は2割負担で16万円を支給)。介護保険では一般的に要介護・要支援状態区分が重度になるほど支給限度基準額が上がりますが、住宅改修費についてはこれに関係なく一律20万円です。
ただし、対象となる工事には制限があることに注意が必要です(図1)。①手すりの取付け、②段差の解消、③床または通路面の材料の変更、④扉の取替え、⑤便器の取替えの5つが対象で、①〜⑤に付帯する工事も含まれます。例えば、壁に手すりを取り付ける際には、手すり本体の設置工事だけでなく、壁の下地の補強工事も支給の対象となります。
なお、新築の場合は対象になりません。増築も、新たに居室を設ける場合には対象になりませんが、廊下の拡幅にあわせて手すりを取り替える、便所の拡張にあわせて和式便器を洋式便器に取り替えるといったケースでは、手すりの取付けや便器の交換の費用のみ支給対象となります。
この制度では、介護保険を運営する市町村が独自に対象工事を拡充したり、上限額を引き上げたりすることができるようになっています。「こんな改修がしたい」という具体的なプランがある方は、お住まいの市町村の介護担当窓口に問い合わせてみるといいでしょう。
図1 給付対象となる工事
①手すりの取付け※ |
廊下、便所、浴室、玄関、玄関から道路までの通路等に転倒予防もしくは移動または移乗動作に資することを目的として設置 |
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②段差の解消※ |
居室、廊下、便所、浴室、玄関等の各室間の床の段差および玄関から道路までの通路等の段差を解消するための住宅改修(敷居を低くする、スロープの設置、浴室の床のかさ上げなど) |
③床や通路面の材料の変更 |
居室:畳敷から板製床材、ビニル系床材等への変更 |
④扉の取替え |
開き戸を引き戸、折戸、アコーディオンカーテン等に変更(ドアノブの変更、戸車の設置等を含む) |
⑤便器の取替え |
和式便器を洋式便器に変更 |
⑥上記①〜⑤の付帯工事 |
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※設置工事の必要のない手すりやスロープを使用する場合は、介護保険の福祉用具貸与の対象になっています。
分割して利用することも可能
上限となる20万円の使い方に融通が利くのもこの制度の特徴です。1回の改修で使った額が20万円に満たなかった場合は、残りの金額をまた別の改修に充てることができ、1回の工事ですべてを使い切る必要はありません。20万円に満たないからといって、依頼していない改修を追加するよう、業者などから勧められた場合には、現在の状況で本当に必要なのか考えてみてください。
また、業者に依頼せず(本人や家族など)自ら改修を行った場合には、材料の購入費が支給対象となることもポイントです。このときは購入費の領収書を提出することになっているので、購入先から忘れずに受け取って保管してください。なお、この場合は、使用した材料の内訳を記載した書類を自ら作成することが必要です。
介護の必要度が上がったら再度20万円まで
住宅改修をしたものの介護の必要の程度が上がり、別の改修が必要になった、あるいは家族の事情で引っ越しをしなければならない、しかも20万円の支給限度基準額は使い切ってしまった、ということがあるかもしれません。介護保険ではこのようなケースも想定しています。
最初に住宅改修費の支給を受けた工事の着工時点と比較して、介護の必要の程度が大きく上がったときは、それ以前に支給された額にかかわらず、改めて20万円までの住宅改修が可能になります(図2、図3)。具体的には、要介護・要支援状態区分(図2右欄)に応じて設定された段階(図2左欄)が3段階以上上がった場合に、これまで支給された額がリセットされ、改めて20万円までの支給が可能になります。ただし、リセットは1回のみです。
では、引っ越しについてはどうでしょうか。「住宅改修の対象となるのは、現在住んでいる住居に限る」という考え方から、たとえ旧居の改修を行っていても、新居のほうで改めて限度額まで支給を受けることができるようになります。こちらは何回でもリセットが可能です。
図2 住宅改修費のリセット
図3 リセットになる事例
次のページでは、申請から支給までの流れについてご説明します。
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① 介護保険でできることは?