一般社団法人日本グリーフケア協会会長/自治医科大学看護学部教授 宮林幸江先生
一般社団法人日本グリーフケア協会会長/自治医科大学看護学部教授
宮林幸江先生

 誰もが人生で一度は経験する、「かけがえのない人との別れ=死別」。その悲しみは、計り知れません。残された者の心に渦巻く悲しみの感情「グリーフ」は、その後の暮らしのなかで、涙が止まらないほど大きく膨れ上がることもあれば、「頑張らなきゃ」と前向きになれるほど小さくしぼむほどに抑え、または忘れて何かに没頭できることもあるでしょう。絶えず揺れ動く大きな喪失感「グリーフ」は、様々な症状となって私達に現れるといいます。その症状は時に、身体機能をそこない、人柄さえも変わってしまったのかしら?と思わすほど強烈なこともあります。その症状とうまく付き合いながら、悲しみを癒やし、乗り越えていく(=グリーフケア)ために私達はどうすればよいのでしょう?


 『大切な人の死に直面した直後から起こりうるグリーフの反応を知ること、そして乗り越えていくための手段を知ることが大切です』と語る、日本グリーフケア協会会長、自治医科大学看護学部の教授・宮林幸江先生に"悲しみを癒すためのプロセス"を伺いました。

 

1深い喪失感(グリーフ)から人格が変わる?

死と直面して起こる4つのグリーフ反応

 大切な人を失った直後からはじまる深い喪失感・悲嘆「グリーフ」には、4つの反応があります。①、②、③の悲しい感情=喪失志向と、④の前向きな感情=再建志向が左右の両天秤にのり、その時々でカタカタと揺れ動くイメージです。「グリーフ」といってもただ悲しいだけではない、複雑な感情が入り乱れ、前向きな感情も全てひっくるめて「グリーフ」なのです。泣いたかと思えば、頑張ろうと前を向いたり、その途端やる気を失ったり…そうした感情が1日のなかで何回も繰り返される初期から半年、1年と経つころにはその変化は徐々にゆっくりになっていくのが悲しみのプロセスでもあります。

図

①「思慕」「追慕」

亡くなった人を慕う、想う気持ち。

②「気後れ感」「疎外感」

自分は他の人とは違う、といった気持ち。

③「うつ」に似た症状(死別うつ)

生きる意味や目標を失いやる気がでない、何をしても不安や虚無感にとらわれる気持ち、など。

④「前向き」「ポジティブ」

頑張らなきゃ、と元気に日々を過ごそうと苦しい自分を忘れるように努力する気持ち。

宮林先生からアドバイス

 「4つの反応といっても、表出するタイミングや程度は人それぞれです。②の劣等感・疎外感でいえば、今まで一緒に出掛けて楽しかった友達と付き合うのが急に嫌になったり、家に閉じこもって対人関係をシャットアウトしたり、『私、人が変わってしまったのかしら…』と心配になって相談に来られる方も多々いらっしゃいます。でも、これも『グリーフ』反応の1つ。日本ではグリーフ反応における認識が薄いようですが、長年の研究に基づいた多くの人に見られる症状といっていいでしょう。"今までの自分じゃない"ことに驚き、嘆くより『誰にだって起こること』と気持ちを楽に持つようにしましょう。こんな時期はいつか終わる日が来ます。」

悲しみの期間は3年以上、体の不調も

 悲しみ=グリーフの期間って果たしてどれくらい? 自分と亡くなった大切な人との関係性にもよりますが、宮林先生の研究によれば、亡くなった人が親の場合は3年、配偶者ならば4年半〜5年、子どもならば5年ぐらい回復にかかり、また若者より高齢者の方が回復に時間がかかって5〜6年ぐらいの期間を要するそうです。グリーフが癒えるには想像以上に長い年月がかかるわけです。回復してきたとわかる目安は「亡くしたひとのことを涙なくして語れるようになったら」でしょう。ただし、死別後の1年間は特に以前の生活との比較がなされる分、つらい時期となります。

 「いつもいた人がそこにいない…」その事実を目の当たりにした時、自分が生きてきた世界観が根底から覆されてしまうような深い悲しみに襲われることも少なくありません。
 「生きる意味が見出せない」、「生きる目標を見失った」という声もグリーフケアではよく聞かれることです。先に紹介した①〜④のグリーフ反応に加えて、体には様々な不調が表出します。特に多い2大症状を知っておきましょう。

①"食"障害

集中して食を楽しむ気分になれず何を食べても美味しくない、食べ物の味がしない、または、美味しいと食を楽しむ自分を(死者に対し)申し訳ないと感じるといった症状。

②"睡眠"障害

なかなか寝付けない、早朝覚醒してしまう、熟睡感がない、といった症状。
次のページでは、悲しみを癒やす方法・対処法(=グリーフケア)について紹介します。

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