2生活習慣の改善で血液を健康に
何気ない食習慣がその症状を引き起こしている?
多くの方が、ご自身の生活習慣、特に食事には気をつけていらっしゃるでしょう。それでも、検査を受けると、これまでに見たような黄色信号の数値が出てしまうことがあります。そこにはちょっとした勘違いや見落としがあるのだそうです。稲葉先生が出会った事例で、ケーススタディしてみましょう。
CASE1 隠れコレステロール食品
LDLコレステロールの高い女性。LDLコレステロールの高い食品はできるだけ避けるよう気をつけているという。「卵を食べません、レバーも食べません、食事は魚中心です。」では、何がLDLを上げていたのでしょうか?
【正解】魚卵
「この方は、よくよくお話をうかがうと、鶏卵は避けていましたが明太子や筋子がお好きで毎朝食べていることがわかりました。魚といっても、魚卵はかなりLDLが高い食品です。健康な方はけっこうですが、LDLが高い方はたくさん召し上がらないほうがいいでしょう。
その他、含有量が多い食べ物は、揚げ物・炒めもの、バターを使ったもの。バターと卵を使った食品の代表がアイスクリームやカスタードクリーム、ケーキなどの洋菓子や菓子パンですね。『コレステロールが高いものは食べません』という方でも、特に女性は、よく話を聞くと隠れコレステロール食品がお好きな方が見受けられます。」(稲葉先生)
CASE2 果物にも注意
中性脂肪の値が高い女性。油ものや甘いものはあまり食べないという。では、何が中性脂肪を高くしているのでしょう?
【正解】炭水化物
「中性脂肪に関しては、食事の中の油ももちろんですが、気をつけなければいけないのは糖質です。よくあるのは、甘いものがすごく好きな方。果物の糖(果糖)も中性脂肪になりますので摂りすぎに注意が必要です※。
忘れがちなのは、炭水化物も糖質だということです。穀物類や麺類、パン類のお好きな方は中性脂肪が上がりやすい。内蔵脂肪を減らしたい方は炭水化物をたくさん食べていないかを振り返り、多いようなら少し控えるべきでしょう。
また、見落とされがちなのが、アルコールも炭水化物だということ。日本酒はお米から、焼酎は麦や芋から、ビールとウイスキーは麦から、そして、ワインもブドウ糖です。炭水化物のエッセンスがアルコールになっているのです。食事に気を遣っていても、お酒がお好きな方には中性脂肪が高い方もいます。」(稲葉先生)
※厚生労働省・農林水産省による「食事バランスガイド」では、果物の1日の適量として、ミカンなら2個、リンゴなら1個という基準が示されています(図参照)。
図 食事バランスガイド
〈厚生労働省ウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html)より〉
CASE3 たんぱく質の摂り方
尿酸値の高い男性。肉類や魚の量に注意し、和食中心でアルコールの量にも気をつけているのになかなか数値が下がらない。尿酸を増やしている原因の食べ物は何?
【正解】納豆
「高尿酸血症は、肉食の多い方によく見受けられます。でも、実は寿司ネタも尿酸が高いんです。肉ばかりでも魚ばかりでもいけません。バランスのよい食事が大切です。
盲点は納豆。大豆たんぱくも尿酸なのです。この方は身体にいいからと毎日納豆を食べていたことがわかりました。尿酸値が高めの方は、納豆を召し上がる頻度を1日おきとか週1回にするなど、数値と相談しながら決めてください。同じように、枝豆も尿酸値を上げてしまいます。ビールと枝豆は尿酸の観点からすると最悪といえる組み合わせです。
ただ、同じ大豆製品でも、にがりが尿酸を除去してくれる豆腐や豆乳は問題ありません。」(稲葉先生)
今から取り組める生活改善
これまでに見てきた病気は「生活習慣病」といわれるものです。文字どおり、生活習慣を変えれば、病気の予防や状態の改善が可能です。稲葉先生に、主な改善ポイントを教えていただきました。
ポイント1 バランスのよい食生活
前の項目で見たように、何かが多すぎることは好ましくありません。バランスのよい食生活が基本です。特に、塩分とアルコールの摂りすぎは一般的に注意が必要です。
●塩分
日本人は塩分を多く摂る傾向があるので、控えるように意識してしすぎることはありません。
目標:1日に6g〜8g以内
目安 | 味噌汁=1杯2g程度(1日1杯まで) 日本そば=汁まで飲むと4g(汁は飲まずに味わうだけが望ましい) |
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●アルコール
糖質の摂りすぎだけでなく、度が過ぎると肝臓を悪くすることもあるため、適度に楽しむことが大切です。
目標:1日に1合
目安 | 日本酒=1合 ウイスキー=シングルで2杯、ダブルで1杯 ワイン=グラス2杯(ハーフボトル) ビール=500mL缶1本 |
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アドバイス:週2回は、まったく飲まない「休肝日」を設け、肝臓を保護しましょう。
生活習慣病などの傾向がある方の留意ポイント
●脂質代謝異常症
魚や大豆製品のおかずを中心に。内臓類や卵の摂りすぎに注意。油を使う料理は1日2回まで。アルコール、甘いものも控えめに。また、体内の余分な活性酸素の害を防ぐ「抗酸化作用」のある食品(かぼちゃやほうれん草など緑黄色野菜を中心とする食品)を取り入れるのもよいでしょう。
●高尿酸血症
バランスのよい食事が特に大切。肉や大豆の摂りすぎに注意。アルコールは控えめに。「プリン体」を多く含む食品(エビ、レバー、寿司など)を続けて食べない。
●CKD(慢性腎臓病)
病気の進行度(ステージ)に応じて注意するポイントが変わるため、医師の指導を受けることが特に大切。どのステージでも塩分の摂りすぎは禁物。ステージ5になると、カリウム制限のため生野菜でなく温野菜に。
ポイント2 適度な運動
運動で新陳代謝をよくすることで、HDLコレステロールを増やし、LDLコレステロールを減らす効果があるそうです。中高年には激しい運動ではなく、1日30分の速歩が適しています。
目標:1日30分、普通よりも10%スピードアップで歩く。週に2時間以上。
目安:両手の親指を立てて腕を前後によく振って歩くと、足の親指にも力が入り、10%増しのスピードで歩くことができます。
アドバイス:続けて30分でなくても、たとえば朝昼晩に10分ずつでもOK。動悸・息切れが起こらない程度、人とおしゃべりできるスピードで運動効率が高まります。ただし、水分をこまめに補給しながら、脱水症や熱中症にはご注意を!
ポイント3 禁煙
煙草は動脈硬化の元凶になり、がんのリスクも高くなります。また、研究発表によると、ある街で受動喫煙がない環境をつくったところ、その期間は狭心症・心筋梗塞の患者が3分の1に激減したというデータがあるそうです。
ポイント4 ストレスをためない
心身にストレスがかかると、自律神経に影響を及ぼします。自律神経は血管の開け閉めをつかさどるため、ストレスにより血圧が上昇するのです。ストレスが血糖値を上げることもわかっており、高血圧症、糖尿病、脂質代謝異常症や、脳卒中やがんの発生にも関係すると考えられています。
適度なストレスはけっこうですが、ストレスをためずに自分なりにリラックスする方法を持ちましょう。
お医者さんから"生活の処方"をもらいましょう
生活改善のポイントでお話しいただいたことは、主に予防のために取り組める一般的な事柄です。もし、血液検査で異常値が見つかった場合は、医師に相談し、専門家にゆだねることが大切です。
「一人ひとり顔が違うように、薬の処方が違いますし、生活の処方も違います。『自分のデータはこうです。どこに気をつけたらいいですか』とお医者さんに"生活の処方"をもらっていただきたいのです。食生活や生活のリズムなどとデータを合わせ、医師は血圧の管理や血糖値の管理など生活習慣の見直しを指導します。
生活習慣病も、適切に対処すればよくなっていきます。私が医者になった35年前には、たとえば高血圧症に処方する薬は、血圧を下げるだけでした。現在は、血管を保護する作用があり脳梗塞や心筋梗塞のリスクも減らす、とてもいい薬が出ています。また、指導を受けて減塩しただけで、薬を飲む必要がなくなる高血圧症の患者さんもたくさんいらっしゃいます。糖尿病患者さんも、血糖をうまくコントロールすれば、合併して起こる糖尿病性腎症や糖尿病性網膜症なども防ぐことができます。
一番いいのは未病のうちに発見、対処ができること。そのためにも、年に2回の血液検査を受けていただきたいと思います。」(稲葉先生)
稲葉先生から一言「やりすぎは禁物!」
ストレスをためないことに関連して、生活習慣の改善もやりすぎは禁物です。何らかの問題を改善するためにストイックになりすぎて体を壊したり、かえってストレスになってしまったりと、他の問題を引き起こしてしまう方もいらっしゃいます。頑張りすぎず、ご自身のペースで取り組んでください。
稲葉 敏(いなば さとし)先生 プロフィール
1957年東京生まれ。東京慈恵医科大学を卒業。東京慈恵医科大学青戸病院内科医長、内科講師を経て現在、いなば内科クリニック(東京都葛飾区)院長、医学博士。日本血液学会指導医・日本内科学会認定内科医。専門は内科学、血液学、造血器腫瘍学。著書・論文も多数出版されている。
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① 血液検査から何がわかる?
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② 生活習慣の改善で血液を健康に