1血液検査から何がわかる?
いなば内科クリニック院長
稲葉 敏 先生
健康診断の項目には必ず含まれている血液検査――でも、その結果を漫然と読み流してはいないでしょうか。中高年が気をつけなければいけない生活習慣病のサインは、血液の状態に顕著に表れるといいます。もし、その状態が少しずつ進んでいるとしたら、早めの対処が必要です。
いなば内科クリニックの院長・稲葉敏先生は、「血液からわかることは、みなさんがびっくりするほど多いんです」といいます。稲葉先生に、血液検査から見る中高年の健康についてお話を伺いました。
血液検査結果のここに注目!
まず、稲葉先生に、血液検査の結果で特に注目するべき項目と、数値が示す意味を教えていただきました(図参照)。
図 血液検査で注目するべき項目
チェック1 高脂血症 | HDLコレステロール |
---|---|
LDLコレステロール | |
中性脂肪(T-G/トリグリセライド) | |
チェック2 高尿酸血症 | 尿酸(UA) |
チェック3 腎機能 | 尿素窒素(BUN) |
クレアチニン(Cr) | |
eGFR | |
チェック4 糖尿病 | 血糖 |
ヘモグロビンA1c(HbA1c) |
チェック1 高脂血症
項目:HDLコレステロール/LDLコレステロール/中性脂肪
この3つの数値から、「脂質代謝異常症」(いわゆる「高脂血症」)のリスクがわかります。高脂血症は動脈硬化を引き起こすため、改善が必要な病気です。
HDLコレステロール
低いと注意!(40mg/dLを下回ると注意)
通称「善玉コレステロール」。次項の「悪玉コレステロール」を肝臓に運んで血管を掃除する役割を果たすため、多いほうが望ましい。
LDLコレステロール
高いと注意!(140mg/dLを超えると注意)
通称「悪玉コレステロール」。身体に必要なコレステロールを運ぶ役割をしているが、余ると血管に残り壁にこびりついて血管を細くしてしまう。多すぎはNG。
中性脂肪(T-G/トリグリセライド)
高いと注意!(空腹時150mg/dLを超えると注意)
LDLコレステロール、HDLコレステロールの原材料。中性脂肪が多いとHDLコレステロールを減らしてしまう。また、肝臓についてしまうと脂肪肝になるため、多すぎはNG。
要チェック+α 血圧
血液検査ではわかりませんが、血圧の高い状態が続く「高血圧症」も注意が必要です。高脂血症と結びつくことで動脈硬化の進行を促します。高血圧症は、日本人の約90%が本態性(家系的要素)で、そこに生活習慣の要因(運動不足・ストレスなど)が重なると発症します。健診の項目に必ず入っているので注目しましょう。
チェック2 高尿酸血症
項目:尿酸(UA)
この数値から、「高尿酸血症」のリスクがわかります。これは痛風の背景になる病気です。
尿酸(UA)
高いと注意!(7.0mg/dLを超える場合、高尿酸血症です。8.0mg/dL以上は赤信号)
たんぱく質が燃えてできた老廃物。尿酸の結晶が関節などにたまると、激しい痛みを引き起こす炎症発作(いわゆる「痛風発作」)を起こす原因になるため、多すぎはNG。
チェック3 腎機能の低下
項目:尿素窒素(BUN)/クレアチニン(Cr)
上記の尿酸値と併せて腎機能の低下の有無がわかり、慢性的に腎臓の働きが悪くなる「慢性腎臓病(CKD)」の傾向を発見できます。CKDは腎臓の働きが悪くなるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞、心不全のリスクを高くすることがわかっており、軽視できない項目です。
尿素窒素(BUN)
高いと注意!(20mg/dL以下が理想)
クレアチニン(Cr)
高いと注意!(男性1.04mg/dL以下、女性0.79mg/dL以下が目安・筋肉量の差で男女差があります)
尿酸も含め、腎臓がよく働けば濾過(ろか)されて体外に排出される老廃物。腎機能が落ちると排出されないため、この数値が高いのはよくない兆候です。
要チェック+α eGFR
腎臓が体内の老廃物を濾過する力を表す値で、数値が高いほど濾過の力が高く良好なことを表します。CKDの進行度を示す「ステージ」は1〜5まであり、ステージ5(GFR値15未満)になると人工透析が必要なケースが多くなります。東京都23区など、自治体によっては特定健診の結果にも記載されています。
チェック4 糖尿病
項目:血糖/ヘモグロビンA1c(HbA1c)
この数値から「糖尿病」のリスクがわかります。
血糖
高いと注意!(空腹時で109mg/dL以下が正常値)
検査を行ったのが空腹時か、食後かに注意する必要があります。
ヘモグロビンA1c(HbA1c)
高いと注意!(5.8%以下が理想)
血糖は血中のブドウ糖、HbA1cは赤血球に結びついたブドウ糖のことをいいます。赤血球の寿命は28日であるため、HbA1cの値は過去約1か月間の血糖の推移を反映していることになります。血糖値が高い状態が続くと血管がダメージを受けてさまざまな合併症を引き起こす危険があるので、適正値にコントロールする必要があります。
「以上のチェック項目を確認し、もし基準値からはずれているものがあれば、怖がらずにかかりつけ医にご相談いただきたいですね。ただ、検査の基準値は"未病"の段階での予防を目指すためのもので、厳しめに設定されています。基準値はあくまで基準値ですので、もしはずれていても決して落ち込む必要はありません。」(稲葉先生)
さまざまな病気を引き起こす動脈硬化
稲葉先生は、まず気にかけるべき項目はLDLコレステロールだと強調します。
「脳卒中、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、大動脈瘤などの大きな原因になるのが、動脈硬化。血管の壁が厚く硬くなってしなりが悪くなり、詰まりやすくなった状態です。地球上の生物は皆、酸素を吸って生きているので、年月を経れば必ず"サビが出る"(酸化する)わけです。このサビに当たるのが酸化LDLコレステロールです。
LDLコレステロールが酸化されると超悪玉LDLとなり、血管の内側の壁に付着します。すると、血管内腔は分厚く、しなやかさを失い、狭くなってしまいます。この状態が動脈硬化です。
一方、HDLコレステロールは血管の壁にたまったLDLコレステロールを肝臓に運んでくれます。つまり、LDLが低く、HDLが高い状態がいちばん望ましいわけです。
動脈硬化は、心疾患や脳血管疾患など日本人の死因の上位を占める病気の引き金になっており、高血圧症やCKD、糖尿病とも相互に関係してネガティブに作用します。動脈硬化があらゆる病気の元凶であるといっても過言ではありません。
男性で45歳頃、女性は閉経の時期である55歳頃から動脈硬化のリスクが高まります。そこで、血管の老化が始まる目安となる40歳から特定健診を行っています。つまり、動脈硬化を未然に防ぐのが目的です。」(稲葉先生)
健診豆知識 脳梗塞リスクマーカー
血管の内壁に動脈硬化による炎症が起こっていないかを調べる検査です。高感度CRP・IL-6など、通常、健診の項目には含まれず、オプション検査のため保険適用外です。もしリスクが高いと診断されれば、血圧の管理など予防のための対処が可能です。特に、家族に脳梗塞歴がある方は、調べておくと安心です。
自覚症状が出たときにはすでに重症!?
ここまで、血液検査から知ることのできる病気について伺ってきました。これらの病気はどんな症状として表れるのでしょうか? 稲葉先生によれば、考えられる自覚症状は以下のようなものがあるといいます。
脂質異常症
胸の痛み(狭心症)、間欠性跛行(痛みやしびれで連続して歩けなくなる) など
高血圧症
(脳へのダメージが強い場合)目まい、頭痛、ふらつき、吐き気、ろれつが回らない など
糖尿病
口が渇く、多飲(水をたくさん飲む)、多尿、体重の減少 など
「このような症状が出るということは、すでに病気が進行してしまっていることが考えられます。すみやかにかかりつけ医にご相談することをお勧めします。
覚えておいていただきたいのは、健康診断は、自覚症状が出る前に対処し、健康で長生きする"健康寿命"を延ばすのが目的だということ。健診は、未病のうちに問題を解決するためにしているのだと、前向きに捉えていただくことが大切です。」(稲葉先生)
では、未病のうちにこれらの病気を食い止めるにはどうしたらよいのでしょうか。次のページでは予防と対策についてお聞きします。
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① 血液検査から何がわかる?