1眼の加齢現象とは
中高齢の方にとって、老眼は老化を感じさせる要因のひとつでしょう。これを避けることはできないのでしょうか? 老眼をはじめとする、年齢とともに起こる眼の諸問題について、公益社団法人日本眼科医会副会長・烏山眼科医院院長の福下公子先生にお話を伺いました。
「"老化"というとマイナスイメージがありますが、"エイジング"といえばそうでもありません。誰しも上り調子は嬉しいですが下がり調子は嬉しくないですね。でも、私たち人間は、生命現象として生きているので、良くも悪くも時間とともに進み、変わっていきます。生まれてから成人になるまでの成長もエイジング、青年から中年への過程もエイジングです。そして、老年へのエイジングになると、いわゆる"老化"ということになります。
公益社団法人日本眼科医会副会長・烏山眼科医院院長
福下公子先生
エイジングというのは、捉え方の問題です。そこで、私たちこの頃、あまり老化現象という捉え方はしません。病気についても、"老人性"でなく"加齢"という言葉を使うようになってきています。」(福下先生)
年齢を重ねるにつれて、身体機能が変化するのは自然なこと。それをふまえて、眼の加齢現象についてお聞きしていきます。
加齢とともに起こる主な眼の症状・病気
眼のエイジングには大きく分けて、①見る機能が落ちる、②起こりやすい病気がある、③形態的な変化、という3つがあるそうです。まず思いつくのが、冒頭でも触れた、見る機能の低下(①)、いわゆる老眼でしょう。そのほか、主な眼の加齢現象には以下のようなものがあります。
①見る機能が落ちる
●老視(いわゆる"老眼")
・症状: |
近くが見えづらくなる。 |
・現象: |
カメラでいえばレンズに当たる、眼の「水晶体」が加齢により少しずつ硬くなり、ピントが合わせづらくなる。通常、眼は、近くを見るときは水晶体を厚くし、遠くを見るときは薄くしているが、水晶体が硬くなると厚くなりづらくなり、近くにピントが合わせられなくなってくる。 |
・対策: |
眼鏡でピントを合わせる機能を助ける。 |
②起こりやすくなる病気
●白内障
・症状: |
まぶしく感じたり、見えづらくなったりするなど、視力が下がる。進行すると瞳孔が白っぽく濁ってくる。 |
・現象: |
本来、透明な組織である「水晶体」の代謝機能が年齢とともに低下し、白っぽく濁る。水晶体は光を通してピントを合わせる役割を担っているが、濁ってくると光の通りが悪くなるため、視力が下がる。 |
・治療: |
水晶体の濁りを取り除く。手術で人工水晶体を入れると視力が回復する。 |
●緑内障
・症状: |
視野(見える範囲)が狭くなったり、視力が落ちたりする。視野は鼻側の下から欠けることが多い。 |
・現象: |
眼球は一定の圧力をもってボールのようになっている。眼の中に「房水(ぼうすい)」という水分があり、眼球内の圧力(眼圧)を維持している。房水が多くできすぎたり、加齢に伴って房水の流れ出る部分がふさがることがある。すると眼圧が非常に高くなり、眼球がパンパンに張って眼の後ろの部分にある視神経が圧迫され、神経障害を起こす。 |
・治療: |
眼圧を下げる薬を点眼する。また、レーザー療法や手術療法により、眼圧を下げる処置を施す。 |
●
・症状: |
ものが歪んで見えたり、進行すると中心部が見えなくなる。周辺部や明るさは識別できる。 |
・現象: |
「黄斑」とは、カメラにたとえるとフィルムに当たる「網膜」の中心部。ここで色や形を識別するが、加齢とともに下の層から異常な血管ができるなどして黄斑周辺で出血やむくみを起こし、黄斑部が障害されて視覚に影響を及ぼす。 |
・治療: |
出血を止める。抗VEGFという注射薬で血管の新生を抑えるのが近年の一般的な治療法。また、食事では足りないミネラルをサプリメントで補てんすることが有用ともいわれる。 |
※白内障・緑内障・加齢黄斑変性が合併して起こることもある。
③形態的な変化
●
・症状: |
まぶたが垂れ下がり、眼を開くことが困難になる。 |
・現象: |
年齢とともにまぶたの皮膚がたるんだり、まぶたを持ち上げる筋肉がゆるんだりして、眼にかぶさってくる。 |
・治療: |
手術でまぶたの皮膚を除去したり、あるいはまぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋)を縫合する。 |
老眼と白内障は誰にでも起こる
いわゆる老眼は、誰にでも起こるものというイメージがあります。老眼にならない人もいるのでしょうか?
「基本的には、老視にならない人はいません。ただ、ほかの身体機能を見ても同じ年齢の人で違いがあるように、程度の個人差はあります。また、近視の人はもともと近くにピントが合っている状態なので、老視に気付かない場合もあります。逆に、近くも遠くも見えていた正視の人は、近くを見ようとしたときに『見づらいな』『ピントが合わないな』と感じやすいので、近視の人より早くから老眼鏡を必要とする場合があります。細かい作業をよくする方も見づらさに早く気付く場合がありますし、『眼鏡が必要だから老視が始まっている』『不要だから始まっていない』というわけではありません。
白内障も、ある意味、髪の毛が白くなるように誰でもなるものです。70代になるとほぼ100%の方が白内障です。でもこちらも、視力が下がっても0.7程度など、軽い方もいらっしゃいます。進行してしまっても、手術で水晶体の濁りを取り除き、人工のレンズを入れれば、不自由のない見え方で視力が回復します。」(福下先生)
緑内障が失明の原因の1位
100%発症する白内障に比べ、緑内障は40歳以上で約5%、つまり20人に1人の割合で発症するといわれています。これには、軽症から重症、さらには気付いていない場合も含まれます。とてもゆっくり進行する病気で、不調を両目で補い合うために視野の変化に気付きにくく、自覚する頃には神経障害が進行してかなり視野が欠けてしまっているケースが多く見られるそうです。治療は進行を抑えるもので、起きてしまった障害は治すことができません。現在、日本で中途失明の原因として一番多いといわれているのが緑内障。初期の段階で早期発見、治療を開始して神経障害を予防することが大切だということがわかります。
眼圧が正常値の緑内障もある
以前は眼圧の上昇が緑内障の原因だと考えられてきましたが、眼圧が高くなくても視神経障害を起こす場合もあることがわかっています(正常眼圧緑内障)。緑内障を詳しく調べるには、眼圧を測るだけでなく、眼底検査で視神経の状態を見ることも必要です。初期の場合は明らかな視神経障害は見受けられませんが、神経障害が疑われた場合、さらに詳しい三次元画像解析や視野検査などにより診断します。今は視野に問題がなくても数年後に発症する、ということもあります。毎年検査をして早期発見に努めましょう。
40〜50年前には少なかった加齢黄斑変性
加齢黄斑変性によって起こった視野狭窄(しやきょうさく:視野が狭くなること)も、元の状態に戻すことはできません。早く治療を始めたいところですが、今のところ治療は視野障害を起こす眼底出血を止める対症療法だけで、根本療法は見つかっていません。つまり、悪化してからでないと治療が始められないところに難しさのある病気だといいます。
加齢黄斑変性の原因ははっきりしていませんが、遺伝子的な要因があるといわれており、また、環境要因として食生活の欧米化が指摘されています。実は、この病気は欧米には昔からありましたが、日本では40〜50年前まで見受けられませんでした。この頃から肉中心で乳脂肪の多い食生活に変化してきたこと、また、ミネラル不足も発病率が上がった原因と考えられています。アメリカでは、亜鉛やマグネシウムといったミネラル系のサプリメントが網膜保護に有効だという結果が出ているそうです。
-
① 眼の加齢現象とは