1不動産登記簿謄本を見返してみましょう

お話を伺った司法書士の丸子隆保先生

 「定年後には暮らしてきたマイホームを売却して、生まれ故郷でセカンドライフを…」と考える方も多いのではないでしょうか。でもそんな方のなかには、住宅ローンを組んだ際に登記した『抵当権』を抹消をしていなかったために売却ができず、計画が一時頓挫してしまうようなケースもあるといいます。住宅購入の際に手にしたはずの『不動産登記簿謄本』、よく読まなかったという方も意外と多いのではないでしょうか?
 セカンドライフ世代は、遠くない将来に相続手続などで対面するかも知れないこの登記簿謄本の基本的な知識と、『抵当権抹消』について確認してみましょう。
 不動産登記に詳しい東京司法書士会会員の司法書士である丸子隆保先生にお話を伺いました。

※以前は実際に簿冊があったために「登記簿」と呼ばれ、そのコピーを「登記簿の謄本」として証明書が出されていました。登記簿がコンピューター化された現在、この呼称が「不動産登記事項証明書」と変わっています。ただし、「登記簿謄本」という言葉のほうがなじみ深いと考え、このページでは引き続き古い呼称を使用します。

不動産登記簿謄本は"不動産の履歴書"

 不動産(土地・建物)の売買、賃貸借や抵当権の設定といった物件変動の際、その権利を保護し、第三者に対して対抗要件を備えるため、登記簿に記載することを「不動産登記」といいます。法務局に申請を行い、受理され、不備がなければ登記が完了します。
 不動産登記簿謄本には土地、建物、マンションの3種類があり、その不動産の所在や広さなどの概要、所有者、お金を借りて抵当権を設定しているかどうか、また、誰から誰に所有権が移転されたのかといった経歴が記載されています。いわば"不動産の履歴書"といえるでしょう。

丸子先生より一言

 「不動産登記は、もししなかったらトラブルに巻き込まれかねない大切なものです。たとえば、二重譲渡。Aさんが所有している物件をBさんに売った。そしてそのBさんが登記をしないうちに、AさんがCさんにも売ったとします。Cさんが先に登記してしまえば、Bさんは所有権を取得できません。もちろんこれは犯罪的な仮定の話ですが、大金を払って所有権を取得したはずなのに買った物件が自分のものにならないとなれば、損害賠償請求するしかなくなってしまいます。
 また、Bさんがお金を借りて物件を買う場合にそのようなことが起こったら、貸主の金融機関は貸したお金の担保となる物件に抵当権が設定できなくなり、万一返済が滞ったときに、債権を回収できない恐れがあります。そのため、金融機関は必ず登記ができるかどうかを司法書士に確認した上で融資します。確実に登記を行うために、一般的には仲介業者や銀行の指定した司法書士が登記を行い、登記した方と銀行の双方に登記簿謄本が送られます。」

不動産登記簿謄本の読み方

 不動産登記謄本は、基本的に①表題部 ②甲区 ③乙区 の3つのパートから構成されています。

【表題部】

土地や建物の所在、広さ、土地であればその用途(宅地、田、畑、山林など)、建物であれば構造、登記の日付といった、不動産の概要が書かれています。

【甲区】

所有権に関する事項。登記の目的、権利者などが示されています。

【乙区】

所有権以外の権利に関する事項。抵当権、貸借権、地上権などの権利に関して、その権利者が示されています。

※ローンを組んだりせず、所有権以外の権利が発生しない場合は、この「乙区」はありません。
※貸借権に関しては、登記しないケースが多くなっています。

 それでは、実際の不動産登記簿謄本を例に、各項目を見てみましょう。
文字が記載事項)

土地の登記簿謄本(記載例)

表題部 (土地の表示) 調整 (余白) 不動産番号 ○○○○○○○○○○○○○
地図番号 (余白) 筆界特定 (余白)
所  在 ○○市○○△丁目 (余白)
①地番 ②地目 ③地 積 ㎡ 原因及びその日付(登記の日付)
△番△ 宅地 1234 56 ○○○○番○から分筆
(平成○○年○月○日)
権 利 部(甲 区)     (所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 昭和○○年○月○日
第○○○○号
原因 昭和○○年○月○日相続
共有者
 ○○市○丁目○号
 □□□□
 持分○分の□
 △△市△丁目△号
 ◇◇◇◇
 持分○分の△
順位1番の登記を転写
平成○○年○月○日受付
第○○○○号
権 利 部(乙 区)     (所有権以外の権利に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項













付記1号
抵当権設定 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日保証委託契約による
求償債権 平成○○年○月○日設定
債権額  金○,○○○万円
損害金  年○○%(年365日日割計算)
債務者  ○○市○丁目○号
□□□□
抵当権者 ○□市△丁目□号
△○△○株式会社
共同担保 目録(あ)第○○○○号
順位1番の登記を転写
平成○○年○月○日受付
第□□□□号
1番抵当権移転 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日合併
抵当権者 ○□市△丁目□号
△○△○株式会社
抵当権設定 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日金銭消費貸借同日設定
債権額  金○,○○○万円
利息   年○○%
損害金  年○○%(年365日日割計算)
債務者  ○○市○丁目○号
□□□□
抵当権者 ○□市△丁目□号
△○△○株式会社
共同担保 目録(あ)第△△△△号
順位2番の登記を転写
平成○○年○月○日受付
第△△△△号
1番抵当権抹消 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日解除

【注意すること】

(1)表題部

所在・地番(土地のある場所)

登記簿上の「地番」とは、土地一筆(登記簿上で土地1つを表す単位)ごとに位置を示すためにつけられる番号です。現在は基本的に住所表示とは異なるため、登記事項の照会の際などには注意が必要です。

地目

土地の用途分類(宅地・田・畑など)を記載します。

地積(広さ)

土地家屋調査士が測量を行い算出します。土地の単価が高い都市部では特に、資産価値に関わる重要な部分です。

原因およびその日付(登記の日付)

分筆」(1つの土地を分けて新しい一筆の土地とすること)、「合筆」(いくつかの土地を合わせた場合)とその日付を記載します。

(2)甲区

登記の目的

所有権が移動し登記されるごとに更新され、現在の所有者がわかります。

権利者その他の事情

相続でこの土地を所有することになり、2人で共有していることを示しています。

(3)乙区

登記の目的

記載事項として次のようなものがあります。

・抵当権設定

この土地を担保にしてお金を借りたこと、その金額が示されています。「抵当権設定者」がこの土地の所有者、「抵当権者」がお金を貸した人(ローンの場合は金融機関またはローン返済を保証した会社)となります。

・抵当権移転

抵当権者に変更が生じたことを意味します。

・抵当権抹消

住宅ローンの返済が完了したことによる抵当権の契約解除、抵当権者が抵当権を放棄した場合など、抹消登記が行われたことを意味します(抹消された登記事項には下線が引かれます)。

建物の登記簿謄本(記載例)

※一戸建の登記の場合、①の土地と②の建物の2つの登記簿謄本が存在することになります。

表題部 (主である建物の表示) 調整 平成○○年○月○日 不動産番号 ○○○○○○○○○○○○○
所在図番号 (余白)
所在地 ○○市○○△丁目△番地△ (余白)
家屋番号 △番△ (余白)
①種類 ②構造 ③地 積 ㎡ 原因及びその日付(登記の日付)
店舗
共同住宅
木造スレート茸2階建 1階124
2階 123
56
78
昭和○○年○月○日新築
(余白) (余白) (余白)   昭和○○年法務省令第○号附則第○条第○項の規定により移記
平成○○年○月○日
権 利 部(甲 区)     (所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 昭和○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日売買
所有者
○○市○丁目○号
□□□□
順位3番の登記を移記
    (余白) 昭和○○年法務省令第○号附則第○条第○項の規定により移記
平成○○年○月○日
権 利 部(乙 区)     (所有権以外の権利に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
根抵当権設定 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日設定
極度額  金○,○○○万円
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者  ○○市○丁目○号
□□□□
根抵当権者 ○□市△丁目□号
株式会社○○○○
(取扱店 △○支店)
共同担保 目録(あ)第○○○○号
順位2番の登記を転写
  (余白) (余白) 昭和○○年法務省令第○号附則第○条第○項の規定により移記
平成○○年○月○日
根抵当権設定 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日設定
極度額  金○,○○○万円
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者  ○○市○丁目○号
□□□□
根抵当権者 ○□市△丁目□号
株式会社○○○○
(取扱店 △○支店)
共同担保 目録(あ)第△△△△号
順位2番の登記を転写

【注意すること】

(1)表題部

家屋番号

建物を特定するための番号。登記官が決定します。

種類

居宅・店舗・共同住宅・工場・倉庫など、建物の用途により登記します。

構造

建物の構造材料、屋根、階数を示します。

(2)甲区

登記の目的

新築の最初の登記の場合は、所有権「保存」と示されます。

権利者その他の事項

この建物が売買されて所有者が変わったことがわかります。

(3)乙区

権利者その他の事項

記載事項として次のようなものがあります。

・根抵当権設定

抵当権と同様、不動産を担保としてお金を借りたことを意味します。ただし、根抵当権の場合は金融機関がその不動産で貸し出す金額の上限を設定し、その範囲なら改めて抵当権を設定せずにお金の貸し借りが可能です。その額が「極度額」として示されています。

マンションの登記簿謄本(記載例)

 マンションの場合は、表題部が4部に分かれています。

専用部分の家屋番号 ○○—○—○○○ 〜 ○○—○—○○○ ○○—○—○○○ 〜 ○○—○—○○○
○○—○—○○○ 〜 ○○—○—○○○ ○○—○—○○○ 〜 ○○—○—○○○
○○—○—○○○ 〜 ○○—○—○○○ ○○—○—○○○ 〜 ○○—○—○○○
表題部 (一部の建物の表示) 調整 (余白) 所在図番号 (余白)
所  在 ○○市○○△丁目△番△ (余白)
建物の名称 ○○○○マンション (余白)
①構造 ③床面積 ㎡ 原因及びその日付(登記の日付)
鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造陸屋根5階建 1階1234
2階1234
3階1234
4階1234
5階1214
56
56
56
56
56
(平成○○年○月○日)
表題部 (敷地権の目的である土地の表示)
①土地の符号 ②所在及び地番 ③地目 ④地 積 ㎡ 登記の日付
○○市○○△丁目△番△ 宅地 1214 56 平成○○年○月○日
○○市○○△丁目△番○ 公衆用道路 19   平成○○年○月○日
表題部 (専有部分の建物の表示) 不動産番号 ○○○○○○○○○○○○○
家屋番号 ○○△丁目△番△-401 (余白)
建物の名称 401 (余白)
①種類 ②構造 ③床面積 ㎡ 原因及びその日付(登記の日付)
居宅 鉄筋コンクリート造1階建 4階部分56 34 平成○○年○月○日 新築
(平成○○年○月○日)
表題部 (敷地権の表示)
①土地の符号 ②敷地権の種類 ③敷地権の割合 原因及びその日付(登記の日付)
1・2 所有権 ○○○○○○分の○○○○ 平成○○年○月○日
(平成○○年○月○日)
所有者 □◇市○◇△丁目○番○ 株式会社○○○○
権 利 部(甲 区)     (所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権保存 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日売買
所有者 ○○市○○△丁目△番△
○○○○
権 利 部(乙 区)     (所有権以外の権利に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
抵当権設定 平成○○年○月○日
第○○○○号
原因 平成○○年○月○日保証委託契約による
求償債権平成○○年○月○日設定
債権額  金○,○○○万円
損害金  年○○%(年365日日割計算)
債務者  ○○市○丁目○号
□□□□
抵当権者 ○□市△丁目□号
△○△○株式会社

【注意すること】

(1)表題部① マンション1棟の建物の表示

専有部分の家屋番号

マンションの全室の家屋番号を記載します。

建物の名称

マンションの名称を記載します。

(2)表題部② マンション全体の土地(敷地)の表示

※通常は土地と建物は別に登記されますが、一般にマンションの場合は建物と一体として土地(敷地)も登記し、マンションの登記簿に記載されます(敷地権として登記されていないマンションは土地と建物は別々に登記されます)。

所在及び地番

建物が建っている部分とそれ以外の道路について分けて書かれています

(3)表題部③ 一部屋の建物部分の表示

家屋番号

所有する部屋の番号が示されます。

構造

メゾネットタイプの場合「2階建」となります。

床面積

メゾネットタイプの場合、所有する部屋の1階部分の階数とその上の階数が記載されます。

(4)表題部④ 一部屋に該当する土地(敷地)部分の表示

※上記のマンション全体の敷地に対し、持ち分がこれだけということが示されています。
昭和59年1月以降、このように土地も合わせて登記簿に記載することにより、マンションの部屋の所有者が移転した時、土地の持ち分移転も同時に示されるようになりました。そのため、土地だけを売ったり、建物だけに抵当権を設定するなど、土地と建物を分けて処分することはできません。

敷地権の種類

土地を借りている場合「地上権」「貸借権」などになります。

敷地権の割合

上記の表題部②にある全体の敷地に対するこの一部屋当たりの持ち分を記載します。

(5)甲区

登記の目的

所有権保存とあるので、この部屋の初めての所有者による登記だとわかります。

(6)乙区

登記の目的

抵当権設定などについて履歴を記載します。

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