2睡眠障害が寿命を縮める!?
眠らないとどうなる?
次に、睡眠と私たちの心身との関係を大川先生に伺いました。そもそも、もし眠らなければどうなるのでしょうか?
「睡眠は人間が生きるために必要な本能です。高校生の子に協力してもらって、人間が寝ないとどうなるか人間で行った実験があるのですが、寝ないでいるのは10日くらいが限界です。幻覚が出てきます。そして、免疫が悪くなって皮膚が荒れてきます。その後、この被験者はこんこんと眠り続けて、ちゃんとすぐに回復しましたが。」(大川先生)
睡眠が短くても大丈夫な人、長く必要な人と、適切な睡眠時間は人によってまちまちですが、たとえば8時間必要な人が毎日6時間しか眠れないとしたら、毎日2時間ずつの借金が貯まっていくようなもの。この慢性的な睡眠の負債も、私たちの身体をじわじわと蝕んでいくことになります。
あなたの悩み、睡眠が関係しているかも!?
睡眠が私たちの健康や生活に及ぼす影響に、次のような事柄が挙げられます。
- ① 肌荒れ
- ②がん
- ③気分の落ち込み
- ④糖尿病
- ⑤肥満⑥いびき
- ⑦認知症
一見、関わりを見落としそうな症状や悩みにも、睡眠が関係し得るのだそうです。ひとつずつ見てみましょう。
①肌荒れ ②がん
睡眠障害の影響で、免疫力の低下が起こるそうです。免疫力が低下すると、肌は荒れてきます。不規則な生活が免疫機能を落とすことがわかっており、実際に交代勤務や不規則勤務の職業ではがんの発症率が高く、睡眠習慣の乱れが原因であることが示唆されているのだといわれています。
③気分の落ち込み
気分の落ち込みと意欲の低下をもたらす精神疾患にうつ病があります。不眠は「うつ」を招くということがわかってきました。眠っても休養感が得られないことも顕著です。睡眠不足により仕事などの効率が悪くなり、さらに「うつ」を招くという二重・三重のステップもあるそうで、影響は複雑です。
④糖尿病 ⑤肥満
生活習慣病と睡眠障害は深く関わっていることが指摘されています。糖尿病の患者さんの半数が睡眠障害であるというデータもあり、さまざまな研究が進められています。
また、夜眠らないでいると食欲を増すホルモンが分泌され、昼間にも食欲が増した状態が維持されるため肥満につながるのだそうです。肥満も糖尿病につながり得るため、両者の関わりは深いものです。
⑥いびき ⑦認知症
眠っている間に呼吸が停止する「睡眠時無呼吸症候群」の症状のひとつが、いびきです。ひどいいびきは、さまざまな原因で気道がふさがれ、無呼吸状態に陥るこの病気のサインかも知れません。また、睡眠時無呼吸症候群によって脳への酸素供給が不十分になることが、認知症の原因になる可能性があります。
自己発見が難しい睡眠障害
睡眠総合ケアクリニック代々木にもっとも多い相談は、睡眠時無呼吸症候群だそうです。
「半数くらいが無呼吸症候群ですね。中高年層の太っている男性に多く、肥満のため気道が狭くなったり、舌が大きくて喉の奥に落ち込んでしまったりと理由もさまざまなのですが、この方たちはなかなか自分からは来られません。本人は『睡眠不足だな』という程度の認識で、眠くて眠くて会社で事故を起こしてしまって病院に行くように言われたということでこちらに回されてくると、かなりの方が無呼吸症です」。(大川先生) 8時間寝ていても、半分くらいの時間を無呼吸で過ごせば睡眠時間は半分の4時間程度の感覚。無自覚なまま睡眠不足に陥ってしまいます。
いびきも本人には自覚がないため、夫婦で寝室が別々などの場合はさらに見つけることが難しくなるといいます。
睡眠不足をもたらす気づきにくい病気に、もうひとつ「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」があります。はっきりした原因は解明されていませんが、じっとしている時に主に脚(時には腕にも)にむずむずした不快感があり、『動かしたい』という衝動に駆られる症状で、睡眠を妨げ不眠につながっている場合があります。これも病気の存在を知らなければ本人が気づけないことが多いため、近年、さかんに啓発が行われています。
『なんとなく寝不足』程度の自覚症状も、実は病気が潜んでいる場合があります。睡眠障害は適切な治療で改善が可能。まずは受診することが大切です。
睡眠障害ががんや認知症といった怖い病気を招くかも知れないと聞くと、睡眠をおろそかにできないことが実感できるのではないでしょうか。逆に、良い睡眠をとることで予防が難しそうなこれらの病気のリスクを減らすことができるのです。
みなさんは、きちんと眠れていますか? この機会に、ご自身の睡眠状況を振り返ってみてはいかがでしょうか。
【コラム】
原因が多岐に渡り、他の疾患と関連していることも多い睡眠障害。睡眠総合ケアクリニック代々木は、「眠気」や「不眠」という訴えに対し、内科(循環器科、呼吸器科、神経内科)・精神科・耳鼻咽喉科・歯科、臨床心理士が協力して、さまざまな角度から総合的に診断・治療を行う『睡眠総合』クリニックです。このクリニックのほか、日本全国の日本睡眠学会の認定医・認定クリニックを、日本睡眠学会HP(http://jssr.jp/)で検索することができます。
次回(その2)の予定
次回は、「どうしたらよく眠れるか」について掲載します。
あわせて、中高齢者の「眠れない」悩みや、逆に「いくら寝ても眠い」(過眠症)についても掲載予定です。
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② 睡眠障害が寿命を縮める!?