1若年性認知症とは?

認知症は高齢者だけの病気ではない

 認知症は加齢とともに発症しやすい病気だといわれますが、高齢者だけの病気ではありません。年齢が若くても発症することがあり、65歳未満で発症した場合を「若年性認知症」と呼びます。
 厚生労働省の調べによると、若年性認知症の患者数は全国で約4万人。18〜64歳の人口10万人あたりの患者数は47.6人。性別で見ると、男性57.8人、女性36.7人と、男性が女性を上回ります。30歳以降は5歳刻みの人口階層で認知症の有病率がほぼ倍増する傾向がみられ(図1)、いずれの年齢階層でも男性が女性を上回っています。
 若年性認知症の推定発症年齢は、51.3±9.8歳(男性51.1±9.8歳、女性51.6±9.6歳)。働き盛りに発症することが多く、仕事に支障がでれば、家族の生活は経済的にも精神的にも大きな負担を抱えることが心配されます。

図1 年齢階層別若年性認知症有病率(人口10万人当たり・推計)

図1 年齢階層別若年性認知症有病率(人口10万人当たり・推計)

<厚生労働省「若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要」(平成21年)より>

脳血管性認知症とアルツハイマー病が約65%

 若年性認知症の基礎疾患で最も多いのは脳血管性認知症(39.8%)、続いてアルツハイマー病(25.4%)で、この両者で全症例の約65%を占めます。このほか、頭部外傷後遺症、前頭側頭葉変性症、アルコール性認知症などがあります。

図2 若年性認知症の基礎疾患の内訳

図2 若年性認知症の基礎疾患の内訳

<厚生労働省「若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要」(平成21年)より>

【脳梗塞や脳出血によって起こる脳血管性認知症

 大きな脳動脈が出血して梗塞を引き起こす脳血管障害は、急性症状として意識障害や麻痺、言語障害などをきたすことも多いのですが、意識障害のように精神医学的に「急性器質性症状群」と呼ばれるものは、適切な医学的処置があれば、数時間から数ヵ月の間で改善がみられます。
 しかし、そうした急性期の精神障害がなくなった後、認知機能の障害や、意欲・能動性の低下、人格の変化など、高次脳機能障害が残ることがあります。これらは「急性器質性症状群」の後に残る「慢性器質性症状群」と呼ばれるもので、高次脳機能障害が多岐にわたり、程度が大きければ認知症にいたります。
 一般に家族や周囲の人は、急性期の症状にばかり目を奪われ、それが改善すると、残された障害に気づかないことも少なくありません。職場では部下を配し、責任ある仕事に就いていた人でも、発病直後は家族によって保護的な環境下に置かれるため、意欲や能動性の低下、実行機能の障害といった症状は顕在化しにくいのがその理由です。家族も本人も急性期の症状が改善したことですっかり完治したと思い、職場へ復帰して仕事を始めると、脳の慢性的な器質的障害が現れてくるのです。

【記憶に関する脳神経の破壊によって起こるアルツハイマー病】

 高齢者が発症するアルツハイマー病の多くは、新しい情報を記憶にとどめる(覚える)「記銘力」の障害で周囲の人は異変に気づきます。一方、若年性のアルツハイマー病は、仕事の能率の低下など、「実行機能」の障害が引き起こす諸症状や意欲低下、抑うつ状態などが先行することがめずらしくありません。
 こうした例でも、精査すれば潜在的な「記銘力」の低下を認めることが多いのですが、初期の段階では、加齢による「記銘力」低下や、ストレスなど心因性の障害、うつ病などによる精神機能の一過性低下と区別しにくいのが一般的です。
 アルツハイマー病の初期段階に現れる抑うつ、意欲低下は、うつ病と比較すると、深刻さの欠如、悲哀感情の表出の乏しさなどに特徴があります。実行機能障害が始まると、それまで処理できた課題に対処できなくなり、徐々に仕事に支障をきたすようになります。

最初はもの忘れ

 厚生労働省による若年性認知症患者の家族への生活実態調査によると、最初に気づいた症状は、もの忘れ(50.0%)、行動の変化(28.0%)、性格の変化(12.0%)、言語障害(10.0%)という結果がでています(厚生労働省「若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要」(平成21年)より)。

【Aさんの場合】

【Aさんの場合】最近、「計算ができない」「約束を守れない」……と、薄々気づき始めたAさん(48歳) 最近、「計算ができない」「約束を守れない」……と、薄々気づき始めたAさん(48歳)。でも、仕事に追われて忙しいせいだろうとやり過ごしていました。ところが、それまで処理できた課題に対処できなくなり、仕事が滞るようになりました。その原因を自分では解明できず、建設的な解決策(相談する、依頼する、報告するなど)を講じることもできません。処理できない案件は机の引き出しにしまいこみ、問題は大きくなる一方です。
 そのうち、Aさんは人間関係も消極的になり、活動の場を公私ともに縮小するようになります。精神的に限界まで達すると、欠勤を繰り返し、そのときになって初めて、机の中にしまいこまれた未処理案件の山に周囲の人が気づきました。職場で問題が深刻化したときには、アルツハイマー病と思われるAさんの症状はかなり進行していました。そんななか、仕事の遅れについて、うつ病患者のように自責の念があるというより、Aさんはむしろ淡々として見えます。

認知症とうつ病は違う

脳は、私たちのあらゆる活動をコントロールする司令塔のようなもの。「認知症」とは、いろいろな要因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりするために障害が起こり、生活するうえで支障をきたす状態を指します。
認知症は、もの忘れをはじめとする「記憶」に関する初期症状がありますが、症状についても楽観的であることが多く、一般に深刻さはあまり伴いません。 
一方、「うつ病」は、通常の場合には記憶障害がありません。気分が落ち込んで、ものごとへの関心や意欲を失ったり、判断力や記憶力が低下するといった症状が続くのが特徴です。特に自分の状態に不安を感じるため、空虚感やさみしさ、自責感、自殺願望などの感情的な障害をきたす点が、認知症との大きな違いです。また、うつ病は急に症状が出たり、1日のある時間だけ症状が強く出るといった個人差もあります。うつ状態になったり楽観的になったり、感情がコロコロと変わりやすいのも特徴です。

高齢者の認知症とはどう違う?

若年性認知症と高齢で発症する認知症との間に病理学的な違いがあるわけではありませんが、若年性認知症には次のような傾向が見られます。

  • ○進行が早い
  • ○初期のサインを見逃しやすい
  • ○生活習慣病やストレスとも関連する
  • ○家庭生活や仕事への影響が大きい

一家の大黒柱である現役世代が発症すれば、家庭や職場で、高齢で発症する認知症とは異なるさまざまな問題を引き起こします。

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