公的年金は老後の暮らしを保障する大切な収入源です。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(平成27年)によれば、公的年金を受けている高齢者世帯のうち、公的年金が総所得に占める割合が100%という世帯が55.0%と半数を超えています。平成28年度現在の老齢基礎年金額は満額で780,100円(月額65,008円)で、老齢厚生年金は給料(標準報酬月額)によりますが、少しでも年金額を増やせる方法があるのならば1円でも多くというのは、国民すべての切実な願いでしょう。一旦受給を開始してしまえば、配偶者との扶養・被扶養関係などが変わらない限り老齢年金額は変わりませんから、被保険者のうちにできるだけのことはしておきたいものです。

※老齢厚生年金の1人1月当たりの受給額は平均147,000円(老齢基礎年金を含む)。…日本年金機構「日本年金機構の主要統計」(平成26年度)より

保険料を長く納める 1保険料を長く納め

ポイントは国民年金

 会社員や公務員などの勤める人の厚生年金保険は、給料と被保険者期間(どれくらい在籍しているか)によって計算されますから、自分で保険料額を調整することは難しいでしょう。一方で、国民保険は保険料の額は原則定められた額ですが、保険料を納めるのは自分自身ですから、いかに保険料を納付した月数を増やせるか努力することができます。ですから、まずは国民年金の老齢基礎年金を増やすことを検討してみましょう。

保険料1年間納めると老齢基礎年金額は2万円近く上がる

 国民すべてが加入する国民年金※1は、20歳から59歳まで保険料を納めることが法によって義務づけられています。この40年間(480ヵ月間)のすべての期間、保険料を全額納めて65歳から満額の老齢基礎年金を受け取れます。とはいえ、加入の手続きは自分で行うものですから、「知らなかった」「経済的に余裕がなかった」などにより、40年間フルに保険料を納めていない人もいるでしょう。

 しかし、国民年金の年金額はどれくらいの期間、保険料を納めているかに比例します。480ヵ月を上限として保険料を納めた月数が多ければ多いほど年金額は多くなります。

 下記の例でもわかるように、平成28年度の年金額では保険料を納めた月1ヵ月(1/480ヵ月)で1,625円、1年(12/480ヵ月)で19,503円違ってきます。生涯続くことを思えば、年額2万円の差でも大きいはずです。

〈例〉平成28年度の老齢基礎年金額

○40年間(480ヵ月間)保険料を納めた人:780,100円(月額65,008円)

○30年間(360ヵ月間)保険料を納めた人:585,075円(月額48,756円)

○25年間(300ヵ月間)保険料を納めた人:487,563円(月額40,630円)
→平成28年度現在の受給資格期間※2

○10年間(120ヵ月間)保険料を納めた人:195,025円(月額16,252円)
→平成29年10月からの受給資格期間

※1 自営業などの国民年金だけに加入している人(第1号被保険者)、上乗せして厚生年金保険に加入している人(第2号被保険者)、第2号被保険者に扶養されている配偶者(第3号被保険者)に分かれます。

※2 最低限保険料を納めなければならない期間を受給資格期間といいます。

未納にしない

 「未納」とは保険料を納めていないことを言います。未納期間は保険料を納めた期間へも算入されませんし、当然、年金額も増えません。それでも、学生だったりアルバイトだったり、経済的な理由で保険料が納められないこともあるでしょう。そんなときに活用したいのが保険料の免除・猶予制度です。保険料の免除期間は免除の程度に応じて年金額は調整されますが、受給資格期間には算入されます。猶予は年金額には反映されませんが、受給資格期間には算入されます。なお、免除も猶予も本人だけではなく家族も対象に所得の審査があります。

※障害年金や生活保護の受給者(法定免除)、被災した人は所得に関わりなく免除の申請ができます。また、失業・廃業した人、配偶者からDVを受けている人も特例的に免除を申請することができます。

表1 保険料の免除・猶予のしくみ

所得審査の対象 前年の所得制限
(下記以下であることが条件)
期間への算入 その期間の年金額への対応
*( )内は平成21年3月までの期間における割合
保険料の免除 全額免除 本人
配偶者
世帯主
(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 あり 1/2で計算
(1/3)
3/4免除 78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 7/8で計算
(5/6)
半額免除 78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 6/8で計算
(2/3)
1/4免除 158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 5/8で計算
(1/2)
保険料の
猶予
学生納付特例 本人のみ 118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等(本年度の所得) あり なし
学生以外(20歳以上50歳未満)の猶予 本人
配偶者
(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 なし

免除や猶予を受けるためには申請が必要です

「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を住所地の市区町村または最寄りの年金事務所に提出(郵送可)します。

【添付書類】年金手帳または基礎年金番号通知書のコピー など

(状況により異なりますので窓口に問い合わせてください)

※学生納付特例制度を希望する人は「国民年金保険料学生納付特例申請書」に学生証と年金手帳などのコピーを添付して住所地の市区町村に提出します(学生納付特例事務法人の指定大学等に在学している場合は、大学等の窓口でも申請できます)。

未納期間がある人は後納、免除・猶予期間がある人は追納で年金額を回復

 免除や猶予の手続きをせずに未納のままの人はそのままでは年金額がゼロのままです。また、免除や猶予を受けている人でも、そのままでは年金額が増えません。

〈例〉未納の人、免除・猶予を受けている人の年金額(平成28年度)

*すべて平成21年4月以降で、未納、免除・猶予以外の期間の保険料は全額納付として計算します。

○未納10年間(保険料納付済期間30年=360ヵ月)の人
老齢基礎年金額=780,100×360/480=585,075円(満額よりマイナス195,025円)

○半額免除10年間(保険料納付済期間30年=360ヵ月)の人
老齢基礎年金額=780,100×360/480+780,100×120/480×6/8=731,344円(満額よりマイナス48,756円)

○猶予10年間(保険料納付済期間30年=360ヵ月)の人
老齢基礎年金額=780,100×360/480=585,075円(満額よりマイナス195,025円)

 そこで、保険料をあとからでも払える制度を利用します。未納期間に対しては後納を、免除・猶予期間に対しては追納を行うことで年金額を回復することができます。いずれも納める保険料は当時の保険料額ですが、期限より3年を経過した分については加算がつきます。

【後納】

 納付期限より2年が経過してしまったためで未納になった国民年金保険料を過去5年分まで納めることができる制度です(平成30年9月まで)。

【追納】

 免除や猶予された国民年金保険料を過去10年分まで納めることができます。

後納も追納も年金事務所で手続き

〈後納の申込〉

 「国民年金後納保険料納付申込書」を最寄りの年金事務所に提出します。年金事務所で審査・承認後、納付書が送付されます。

【添付書類】なし

〈追納の申込〉

「国民年金追納保険料納付申込書」を最寄りの年金事務所に提出します。年金事務所で審査・承認後、納付書が送付されます。

【添付書類】なし

間もなく60歳、でも年金額を増やしたい〜任意加入する〜

 国民年金は59歳まで保険料を納めますが、受給資格期間を満たしていない場合や、満額を受給できない場合などには、第1号被保険者の人でも60歳以降(申出された月以降)も任意加入することができます。ただし、現時点よりさかのぼって加入することはできません。

【任意加入できる人】

〇日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の人

〇昭和40年4月1日以前生まれで、日本国内に住所を有する65歳以上70歳未満の人、または日本人で外国に居住している65歳以上70歳未満の人。ただし、受給資格期間を満たしていない人に限ります。

※老齢基礎年金の繰上げ受給をしている人は任意加入できません。
※被用者年金に加入している場合は、70歳以降も任意加入できます(高齢任意加入)。
※保険料の納付は通常振替にて行います。
※付加保険料の支払も可能です。

海外へ転居する人も任意加入がお勧め

 第1号被保険者が海外に転居する場合、海外転出日の翌日に国民年金の被保険者資格はなくなります。海外居住期間は受給資格期間には含められますが、年金額には反映しません。

そこで、任意加入して保険料を納めることで年金額にも反映させることができます。

(任意加入できるのは…日本人で外国に居住している20歳以上65歳未満の人)

任意加入の手続きは市区町村役場で

 記入する書類は市区町村により異なります。

【添付書類】

 ・年金手帳または基礎年金番号通知書
 ・預貯金等通帳
 ・印鑑

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