2019年10月に65歳になる
今月は、それらの資料を活用しながら、年金事務所でもらった資料の基本的な読み取り方、年金額の計算の仕方について、述べていきます。
Ⅰ 年金事務所でもらった資料はどう読めばいいのか?
~本来水準と従前額保障の年金額を計算してみる~
(1)老齢基礎年金の算定方法
いまはもう、死語なのかもしれませんが、まずは、百聞は一見にしかず、年金事務所でもらった山下洋子(仮名)さんの年金見込額の回答表を見てもらいましょう(【図表1】)。
山下洋子さんの生年月日は、昭和29年10月15日。令和元年(2019年)10月14日に65歳になります。
年上の夫(70歳代)がいますが、ここではひとまず、おいておきます。
子どもは2人いますが、2人とも20歳以上で、すでに独立しています。
【図表1】 山下洋子さんの年金見込額回答表
年金見込額回答表から読み取れること
年金見込額回答表から、以下のことが読み取れます(【図表1】参照)。
65歳から受給できる老齢基礎年金の見込額は、388,425円です。
また、65歳から受給できる本来支給の老齢厚生年金は、417,436円です(国からの支給分)。
合計で、805,861円の年金額を、65歳になった(令和元年10月14日)翌月の令和元年11月分から受給できるということになります。
【図表1】の上から6行目、「令和1年11月現在の年金見込額」の箇所です。
初めてですと、ちょっとわかりにくいですが、【図表1】の言葉・金額で、一致する箇所を目で追って見てください。
「停止コード」は、「000」
【図表1】の下のほうに、「停止コード」「000」の表示があります。
これは、厚生年金保険の被保険者ではない、ということを表しています。在職していて(厚生年金保険の被保険者で)、支給停止がかかっていない場合(年金額が全額支給)であれば、「000」の表示にはなりません。
山下洋子さんの場合であれば、65歳以上ということですと、「400」という表示になるものと思います(厚生年金基金に加入していない会社に就職していて、年金が全額支給)。
老齢基礎年金の年金額の算定方法
老齢基礎年金の算定方法ですが、 【図表1】の右側をご覧になってください。【図表2】のように、加入月数が記載されている箇所がわかりますでしょうか?
【図表2】
厚年期間 266月
1号納付 1月
3号納付 18月
厚船2号 220月
山下洋子さんは、厚生年金保険に加入していた期間が266月、そのうち老齢基礎年金額に反映される期間「厚船2号」が220月ということを表しています。
つまり、20歳から60歳になるまで、220月の期間、厚生年金保険に加入し、「266月-220月」=「46月」については、20歳前か、60歳以後に加入していたということが読み取れます(20歳前か60歳以後かは、この資料だけでは読み取れません)。
厚生年金保険に加入し、老齢基礎年金の金額に反映されない46月については、山下洋子さんの場合、老齢厚生年金の経過的差額加算(経過的加算のこと、【図表1】では「差額加算」と記載されている)に年金額に反映されます(算定式については、後述する【図表6】の④を参照されたい)。
厚生年金保険に加入して、保険料を払って損をしたということにはなりません。もちろん、老齢厚生年金の報酬比例部分にも反映されます。
【図表3】 老齢基礎年金の年金額の算定
老齢基礎年金=780,100円×(1月+18月+220月)/480月
=388,424.79円
≒388,425円
振替加算は加算されない
山下洋子さんは、ご自身の厚生年金保険の加入期間が20年以上ありますので、振替加算は加算されません。
【図表1】の左側の欄にある「振替加算額」「0円」と表示されていることからも、そのことが確認できます。
(2)老齢厚生年金の算出方法
それでは、老齢厚生年金の年金額は、どのような方法によって、算定されるのでしょうか?
【図表1】をもう一度、ご覧ください。
国から支給される老齢厚生年金の年金額は、報酬比例部分が342,466円・差額加算が74,970円で、合計(基本年金額)で、417,436円となっています。
まん中の下のほうに、オレンジ色の下線を引いた「基金代行額 30,324円(参考)」というのがあります。
これは、山下洋子さんが厚生年金基金に加入した期間があり、企業年金連合会から支給される代行部分の金額は、年間30,324円という意味です(若い頃に勤務していた場合など、請求が漏れている場合もありますので、「もらっていますか?」と確認するのがいいでしょう)。
本来水準か従前額保障か
さて、山下洋子さんに国から支給される老齢厚生年金の報酬比例部分342,466円(見込額)は、本来水準に基づいて算定された年金額なのでしょうか、それとも従前額保障に基づいて算定された年金額なのでしょうか?
もちろん、【図表1】の画面を見ていただけでは、どちらで算定されたのか、わかりません。
【図表4】の画面をご覧ください。
これは、本来水準と従前額保障の両方の年金額が、同じ画面に記されているデータです(筆者が、本稿用に、複数の画面を合成しています)。
【図表4】 本来水準と従前額保障の2つの年金額が示されている画面
「H31 04」は本来水準、「改後 H06」は従前額保障!
【図表4】を見てください。
「H31 04」の下に記載されている年金額が、本来水準に基づき算定されているものであり、 「改後 H06」の下に記載されている年金額が、従前額保障に基づき算定されているものです。
「H31 04」は「415,021円」、「改後 H06」は「417,436円」ですので、 「改後 H06」、すなわち従前額保障に基づき算定されている年金額のほうが、2,400円程度多い年金額ということになります。
したがって、【図表1】に記されている山下洋子さんの老齢厚生年金の年金額(見込額)というのは、従前額保障に基づき算定されている年金見込額だったのです。
従前額保障で年金見込額を算定
それでは、山下洋子さんの年金見込額を算定してみましょう(【図表6】参照)。
【図表4】の右側の囲み枠に、年金額算定に必要な総報酬前・総報酬後の加入月数、厚生年金基金の加入月数が記されていますので、お読み取りください。
計算しやすいように、筆者が算定に必要な数字を【図表4】からピックアップしました(【図表5】参照)。
【図表5】 年金額の算定に必要なデータ
(*)【図表4】右欄参照 71月+28月=99月とする
それでは、【図表5】のデータに基づき、山下洋子さんの年金見込額を算定してみましょう(【図表6】参照)。
【図表6】 山下洋子さんの年金見込額の算定式
①報酬比例部分
(181,737円×7.5/1000×99月+ 247,656円×5.769/1000×167月)×0.998(*)
=(134,939.72円+238,597.48円)×0.998(*)
≒372,790円
(*)昭和13年4月2日以後生まれの人の従前額改定率
②企業年金連合会(基金)から
152,000円×7.125/1000×28月=30,324円
③国からの報酬比例部分の支給額
①-②=342,466円
④経過的差額加算(差額加算)
1,626円×266月-780,100円×220月/480月
=432,516円-357,545.83
≒74,970円
⑤国から支給される老齢厚生年金の年金額(③+④) 417,436円
(【図表1】の老齢厚生年金の年金額と一致)
本来水準で年金見込額を算定することも可能
【図表6】で、見ていただいたように、同様に計算していただければ、山下洋子さんの本来水準の老齢厚生年金の年金見込額を算定することができます。
平均標準報酬月額・平均標準報酬額・給付乗率が異なること、また、従前額改定率は掛けないことが、ポイントとなります。
今回は、年金事務所からもらった年金見込額の資料から読み取れること、年金額の算定方法について、述べました。
たまには、電卓を使って、頭の体操をする、ぐらいの感じで、読んでいただくといいのかな、と思います。
年金生活者支援給付金は受給できるのか?
ところで、山下洋子(仮名)さんは、10月から施行される年金生活者支援給付金を受給できるのでしょうか? 公的年金収入だけをみると、「老齢給付金」「補足的老齢給付金」を受給できる可能性がうかがえます。ただ、これだけの画面(情報)では、他の所得がどうなっているのかが、わかりません。
現在は、たしかに、厚生年金保険の被保険者ではないのですが、平成30年中に、被保険者にならない勤務形態で働いていて、パート収入(給与収入)があるかもしれません。
また、夫のことは脇に置いて話を進めてきましたが、住民税の課税世帯なのかどうかも、やはりこの画面では、わかりません。
ということで、別の画面で見ていただいたところ(正式に相談し、調べていただいたところ)、住民税の課税世帯ということが判明し、残念ながらというか、年金生活者支援給付金は受給できない人、ということがわかりました。
65歳間近で、65歳からいくらの年金が受給できるのかどうかを相談に行った人は、当然、自分が「給付金」を受給できるのかどうかを相談するものと思います。年金事務所では、すでに対応しているということです(2019年8月6日現在)。
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