掲載:2019年6月14日
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企業年金の普及・拡大に向けて
~社会保障審議会第5回企業年金・個人年金部会

 2019年5月17日、厚生労働省は社会保障審議会の「第5回企業年金・個人年金部会」を開催した(部会長は神野直彦・日本社会事業大学学長・東京大学名誉教授)。同部会は第1回開催(2019年2月22日)より、関係団体のヒアリングを行いながら、企業年金・個人年金の現状と在り方について議論を行ってきた。今回の議事は「企業年金の普及・拡大について」「厚生年金基金の特例解散等に関する専門委員会における議論の経過について」。
 信託協会、全国銀行協会などの金融機関関係団体、日本経済団体連合会、日本労働組合総連合会などの関係団体を対象に実施したヒアリングでは、「取り巻く環境の変化と年金(公的年金、企業年金、私的年金)の在り方が中心となった。現在、日本では高齢期が長期化し、高齢者の就労の更なる拡大と多様化が予想されている。また、デフレ脱却に伴う物価や賃金の上昇により、マクロ経済スライドによる公的年金の給付水準の調整が本格化する一方で、年金受給開始時期の柔軟化や在職老齢年金制度の見直しなど高齢期の経済基盤の充実を図る方策の検討が進められている。高齢期の経済基盤の充実には公的年金だけではなく、企業年金制度の普及と個人の自助努力への支援が必要不可欠である。

図版見出し図2 厚生年金制度の見直しの内容

※公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(2013年法律第63号)による見直し

(1) 施行日(2014年4月1日)以後は、厚生年金基金の新設は認めない。

(2) 施行日から5年間の時限措置として特例解散制度を見直し、分割納付における事業所間の連帯債務を外すなど、 基金の解散時に国に納付する最低責任準備金の納付期限・納付方法の特例を設ける。

(3) 施行日から5年後以降は、代行資産保全の観点から設定した基準を満たさない基金については、厚生労働大臣が 第三者委員会の意見を聴いて、解散命令を発動できる。

(4) 上乗せ給付の受給権保全を支援するため、厚生年金基金から他の企業年金等への積立金の移行について特例を設ける。

 厚生年金基金について、2014年4月1日から2019年3月31日までの5年間、特例的な解散や他の企業年金制度への移行を促進し、また、厚生年金基金制度自体も見直しが求められてきた(図2)。また、企業年金の加入者数は減少の一途を辿っており、2017年度末現在の加入者数は1,606万人(適格退職年金、厚生年金基金、確定拠出年金(企業型)、確定給付企業年金の加入者の合計。図3)となっている。退職給付(一時金・年金)制度がある企業は若干増加したものの、退職年金制度がある企業は継続して減少しているが、それを上回って退職一時金制度のみの企業が増加している。退職給付水準は、全般的に低下している。また、従業員規模が小さいほど退職年金制度の実施割合は低く、すべての従業員規模で退職年金制度の実施割合が低下しているが、従業員規模300人未満で減少が大きい。 
 こうした状況の中、確定給付企業年金・確定拠出年金各制度においては、 主に中小企業が取り組みやすいよう支援策を実施している。ところが、年金シニアプラン総合研究機構の2018年度調査によると、確定給付企業年金の導入の際の障害や実施中の問題について、「財政的負担」と回答した人が最も多く、次いで 「手続き上の負担」を挙げた人が多くなっており、こうしたことが確定給付企業年金の導入の障害となっていると考えられる。簡易な基準に基づく確定給付企業年金では、規模要件について、2010年に加入者数300人未満から500人未満に緩和した。これは、約8割の確定給付企業年金が簡易型の対象となり得る水準になっている。確定拠出年金(企業型)では、導入の際の障害や実施中の問題について「加入者への投資教育の負担」、「手続き上の負担」としている人が「財政的負担」に次いで多くなっている(年金シニアプラン総合研究機構調べ)。企業が確定拠出年金を導入しようとする場合、事業主は、導入の意思決定から各種手続で1年程度を要するということが導入の障害になっていると考えられる。 
 公的年金制度を補完するものとして、企業年金や個人年金の役割は今後ますます重要になるが、一人ひとりの労働者の老後所得の確保をサポートするためには、自助努力を支援するだけではなく、企業年金そのものの適用を拡大していくことが必要である。

図版見出し図3 企業年金の加入者数の推移

図3 企業年金の加入者数の推移

<出所>適格退職年金・厚生年金基金・確定給付企業年金:生命保険協会・信託協会・JA共済連「企業年金の受託概況」、確定拠出年金:厚生労働省調べ

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