年金講座

筆者プロフィール 長沼 明(ながぬま あきら)

浦和大学総合福祉学部客員教授。志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任する。社会保険労務士の資格も有する。2007年4月から1年間、明治大学経営学部特別招聘教授に就任。2014年4月より、現職。主な著書に『年金一元化で厚生年金と共済年金はどうなる?』(2015年、年友企画)、『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(2015年、日本法令)

 来年(2019年)の10月に引き上げられる予定の消費税の税率10%。
 本当に引き上げるのかどうか、疑心暗鬼の向きもあるようですが、来年度の予算編成に関する情報を判断すると、今度は予定どおり実施するのではないかと思います。
 実務で対応する現場としては、実際に10%になるかどうかはともかく、ここまできたら、もう準備だけはしっかりとしておかなればなりません。
 相談者がお見えになったときに、まごつかなくてすむように、基本的な事項だけでも、あらためてポイントを押さえておいたほうがいいと思います。
 さて、年金生活者支援給付金の対象者については、これまで公表された数字からすると、約800万人と伝えられています。
 厚生労働省の「国民年金事業の概況(平成28年度)」をみると、国民年金の受給者数(注1)は、老齢年金・通算老齢年金・障がい年金・遺族年金で、総数3,386万人にのぼります(平成28年度末現在)。このうち、「基礎のみ・旧国年の受給者」は、950万人と記されています。
 今回は、平成30年1月18日に開催された『全国厚生労働関係部局長会議 年金局 説明資料』をもとにQ&A形式で、進めていきますので、ご了解ください。 

注1:「国民年金受給者」については、旧法国民年金の受給者と新法基礎年金の受給者の合計であり、基礎年金受給者には被用者年金を上乗せして受給している者を含む。
【出典】『平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』(厚生労働省年金局 平成29年12月)17頁。

年金生活者支援給付金が施行されるとどうなるのか?
~消費税の税率10%の引上げと給付金の算定式~

(1)パートで働いていても、年金生活者支援給付金はもらえるのか?

 じっくり勉強するのには、制度の概要から順番に理解していくのが学問の王道なのでしょうが、実務では、まず、年金生活者支援給付金の制度に関心を持ってもらうために、「あれっ?」と思う箇所のQ&Aから、話を進めていきたいと思います。

パートで働いていても、年金生活者支援給付金はもらえるのか?

Q1 私は老齢基礎年金を年間50万円くらい受給しています。また、現在、パートで働いていて、パートによる給与収入が75万円くらいあります。合計すると、年収が125万円くらいありますが、私は消費税が10%になると、年金生活者支援給付金というのがもらえるのでしょうか?

A1 なかなか難しい質問ですね。公的年金収入と給与収入が125万円ある人からのご相談です。 
 さぁ、どうでしょうか?

年金生活者支援給付金の制度の概要をスライドでみる!

 年金生活者支援給付金の制度の概要を、平成30年1月18日に開催された『全国厚生労働関係部局長会議 年金局 説明資料』から、確認していきましょう。
 【図表1】の【年金生活者支援給付金の概要】をご覧ください。

【図表1】【年金生活者支援給付金の概要】
       −高齢者への給付金(老齢年金生活者支援給付金)−

【図表1】

 何回かご覧になっている資料だと思いますので、【支給要件】や【保険料納付済期間に基づく給付額】など制度の概要(基本的事項)については、あらためて、説明いたしませんが、Q1の質問者は、公的年金収入(老齢基礎年金)と給与収入が125万円と単純に合計して質問してきているところが、答える側を一瞬たじろがせているように思います。

老齢年金生活支援給付金では、年金収入と所得は分けて、把握する!

 実は、日常生活においては、収入も所得も、厳密に分けて使っていないことが多いのが現状です。
 しかしながら、この老齢年金生活者支援給付金では、「公的年金収入」と「所得」については、分けて理解し、把握することが必要です。
 【図表1】のスライドの【支給要件】の箇所をご覧ください。

【図表2】 【支給要件】の②

② 前年の年金額とその他の所得(給与所得や利子所得など)との合計額が、老齢基礎年金満額(約78万円※1 )以下であること

 つまり、(ア)「前年の年金額」と(イ)「その他の所得(給与所得など)」と、分けて記載され、(ア)と(イ)の「合計額が、老齢基礎年金満額(約78万円)以下」が支給要件になっていることが理解できます。  
  これをQ1の質問者にあてはめてみると、【図表3】のようになります。

【図表3】 収入と所得の違い

(ア)「前年の年金額」……50万円
(イ) 「その他の所得(給与所得)」……10万円
   (給与収入75万円 − 給与所得控除額 65万円)
合計額……(ア)+ (イ) =60万円 < 約78万円

<筆者注>『年金生活者支援給付金の支給に関する法律』第2条によれば、
(ア)については「前年(中略)中の公的年金等の収入金額」、
(イ)については「前年の所得」と規定されているが、
本稿では、【図表1】のスライドの表記によった。

 ということで、
 Q1の質問者は、【図表1】のスライドに記載されている【支給要件】の他の要件を満たしていれば、来年(2019年10月)から実施される予定の年金生活者支援給付金のうちの、老齢年金生活者支援給付金が支給されるものと筆者は認識しています。

納付済み月数が308月だと、
老齢年金生活者支援給付金はいくら受給できるのか?

 Q1の質問者は老齢基礎年金の受給額が50万円くらいとおっしゃっていましたので、保険料納付済月数を308月として、老齢年金生活者支援給付金を試算してみましょう。
 【図表4】をご覧ください。

【図表4】 老齢年金生活者支援給付金の金額の試算

老齢基礎年金=779,300円×308月/480月≒500,051円


老齢年金生活者支援給付金(月額)
=5,000円×保険料納付済期間(月数)/480月
=5,000円×308月/480月≒3,208円

 【図表1】のスライドの【保険料納付済期間に基づく給付額】を参照して試算すると、【図表4】のようになりますが、いかがでしょうか?

(2)保険料免除期間については、
国庫負担割合が3分の1だった平成21年3月以前と、
2分の1に変わった平成21年4月以後を
区別しなくていいのか?

Q2 老齢年金生活者支援給付金で、保険料免除期間のある人の給付額の算定ですが、これは、老齢基礎年金の年金額を算定するときと同様に、保険料免除期間については、国庫負担割合が3分の1だった平成21年3月以前と2分の1に変わった平成21年4月以後を分けて、計算しないといけないのでしょうか?

A2 これも勘違いしやすい事例ですね。
 【図表5】のスライドの【保険料免除期間に基づく給付額】の箇所をご覧ください。

【図表5】【保険料免除期間に基づく給付額】

【図表5】

 【図表5】のスライドには、とくに、注記がありませんので、平成21年3月以前と平成21年4月以後で、分けて計算する必要はない、ということになります。『年金生活者支援給付金の支給に関する法律』を読んでも、そのような規定はありません。
 全額免除の期間については、平成21年3月以前も平成21年4月以後も、【図表6】のように計算されます。

【図表6】【保険料免除期間に基づく給付額】の計算式

給付額(月額)=約10,800円 × 保険料免除期間(月数)/ 480月

※老齢基礎年金満額の1/6。保険料1/4免除期間は、約5,400円(老齢基礎年金満額の1/12)。

 注意が必要なのは、実は、全額免除期間だけでなく、4分の3免除期間、半額免除期間も、平成21年3月以前と平成21年4月以後の期間に関係なく、779,300円×1/12×1/6=約10,800円(月額)を基礎として計算するということです。
 一方、4分の1免除期間については、4分の1免除期間のみ、1/6を1/12として計算するということです 。以下の計算式をご参照ください。
[779,300円×1/12×1/12=約5,400円(月額)](【図表6】参照)。

保険料納付済期間240月、 保険料全額免除期間240月の場合は、どうなるのか?

 【図表5】のスライドの【保険料免除期間に基づく給付額】の、(例)に掲げられた表欄の箇所をご覧ください。小さい数字で見にくくて申し訳ありませんが、じっくりと見てみてください。
 保険料納付済期間240月と保険料全額免除期間240月の場合は、どうなるのか、検算してみましょう。

【図表7】【保険料免除期間に基づく給付額】の(例)の検算

①納付済期間の給付金(月額)
 5,000円×240/480=2,500円

②全額免除期間の給付金(月額)
 約10,800円×240/480=5,400円

③老齢年金生活者支援給付金=①+②=7,900円(月額)

自分自身の本来の老齢基礎年金(月額)
=保険料納付済期間+全額免除期間
=65,000円×240/480+65,000円×1/2×240/480
=32,500円+16,250円
48,750円(月額)

<筆者注>厚生労働省の作成したスライド資料【図表5】では、全額免除期間をすべて老齢基礎年金の満額の1/2として計算しているが、わかりやすい表記につとめた結果と思われる。実務では、平成21年4月以後の期間のみが、老齢基礎年金の年金額の算定では1/2で計算する。平成21年3月以前の期間は1/3で計算する。

老齢基礎年金+支援給付金= 48,750円+7,900円
              =56,650円(月額)

 【図表5】のスライドの【保険料免除期間に基づく給付額】の(例)の金額と一致することが確認されました。

(3)振替加算のみで老齢基礎年金を受給している人には、
老齢年金生活者支援給付金は支給されないのですか?

Q3 平成29年8月に施行された受給資格期間短縮のときの、年金相談会でカラ期間のみで、老齢基礎年金の振替加算を受給することができた人がいましたが、今回の老齢年金生活者支援給付金は、そういう人たちには、給付金はいくらぐらい支給されるのでしょうか?

A3 今回の給付金では、振替加算のみで老齢基礎年金を受給している人には、老齢年金生活者支援給付金は支給されません。


 【図表4】【図表6】で給付金の計算式をみていただきましたように、カラ期間(合算対象期間)のみで、保険料納付済期間や保険料免除期間が「0(ゼロ)月」の場合は、計算をしてもゼロ円になってしまいますから、支給されない、と理解していただくのがわかりやすいと思います。

 年金生活者支援給付金につきましては、みなさまからのご質問をもとに、タイムリーに情報を提供をしていきたいと考えていますので、ぜひ、編集部のほうに、ここはどうなっているのか、というご質問をお寄せください(最後にあります「この記事の感想をお寄せ下さい」欄にご記入ください)。
 なお、回答については、紙面を通じてにさせていただきますが、よろしくお願い申し上げます。

 ところで、新聞報道などによれば、平成31年度(2021年度)には、マクロ経済スライドが発動される可能性が高いとのことです。

 マクロ経済スライドを、年金相談者にどう説明するかは、なかなか頭が痛い問題なのですが、日本経済新聞の田村正之記者が書かれた『人生100年時代の年金戦略』(日本経済新聞出版社)のマクロ経済スライドに関する記述を一読しておくと、大いに参考になるのではないかと思います。

 本年も1年間ご愛読ありがとうございました。

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