年金講座

筆者プロフィール 長沼 明(ながぬま あきら)

浦和大学総合福祉学部客員教授。志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任する。社会保険労務士の資格も有する。2007年4月から1年間、明治大学経営学部特別招聘教授に就任。2014年4月より、現職。主な著書に『年金一元化で厚生年金と共済年金はどうなる?』(2015年、年友企画)、『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(2015年、日本法令)

 平成30年度の新しい年金額についての情報が公表されました。正式には3月末の政令によることになりますが、年金相談の現場では、「正式に決まっていないので、平成30年度の年金額についてはお答えできません」、というわけにもいきません。
 筆者が確認できた範囲内で、平成30年度の年金額についてお伝えしていきます。

Ⅱ 年金給付額の1円単位と100円単位について

 被用者年金制度が一元化されてから、2年余が経過しました。
 年金給付額も100円単位であったものが、老齢基礎年金や老齢厚生年金など、加入期間の月数により年金給付額が算定される年金は、原則として、1円単位となりました。
 老齢基礎年金の満額や加給年金額などは、一元化前と同様に100円単位のままですが、法律のどこが根拠になって、そのように100円単位と1円単位に分かれるのでしょうか?
 平成30年度は平成29年度と同じ年金額になっていますので、今月は、おさらいの意味も込めて、年金給付額の100円単位と1円単位について、条文を踏まえながら、考えていきましょう。

(1)年金給付額が1円単位になった根拠法令

 年金給付額は、一元化前の100円単位から、一元化後は1円単位に変わりました。
 一元化前は50円未満は切捨て、50円以上100円未満は100円に切上げていましたが、一元化後は、1円単位で年金給付額を決定することになりました。つまり、50銭未満は切捨て、50銭以上1円未満は1円に切上げることになっています。
 それぞれ、一元化後の国民年金法第17条第1項、一元化後の厚生年金保険法第35条第1項に規定されています。基本的な条文ですので、【図表6】に掲げておきます。

【図表6】 年金給付額が1円単位となる根拠条文

【一元化後の国民年金法】

(端数処理)

第17条 年金たる給付(以下「年金給付」という。)を受ける権利を裁定する場合又は年金給付の額を改定する場合において、年金給付の額に50銭未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50銭以上1円未満の端数が生じたときは、これを1円に切り上げるものとする。

【一元化後の厚生年金保険法】

(端数処理)

第35条 保険給付を受ける権利を裁定する場合又は保険給付の額を改定する場合において、保険給付の額に50銭未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50銭以上1円未満の端数が生じたときは、これを1円に切り上げるものとする。

事例で、年金給付額の1円単位を確認

 実際に事例で年金給付額を確認してみましょう。【図表7】です。
 50銭未満か50銭以上で、切捨て・切上げが判定されますので、小数点以下第2位までを、筆者は表示しています。

【図表7】 老齢基礎年金の計算事例(1円単位)

【事 例】

昭和28年8月20日生まれの女性。平成30年8月19日に65歳になります。
年金に加入し、保険料を納付したのは、国民年金の第1号被保険者と国民年金の第3号被保険者だけで、保険料免除期間はありません。また、被用者年金制度に加入した期間もありません。なお、国民年金の保険料納付済月数の期間は402月です。

老齢基礎年金の給付額を計算すると……。

779,300円×402/480 =652,663.75円
  ≒652,664円(50銭以上1円未満の端数は1円に切上げ)

 年金給付額は652,664円となり、受給権の発生した平成30年8月の翌月である9月分から受給できることになります。

老齢基礎年金の請求は、ワンストップサービスではない!

 なお、被用者年金制度の一元化の施行とともに、原則として、ワンストップサービスが実施されていますが、国民年金は被用者年金ではありませんので、老齢基礎年金の請求はワンストップサービスの対象とはなっていません。
 被用者年金に関する請求の場合でも、一定の要件を満たした特定消防職員や特定警察職員など、特定の階級以下で退職した消防吏員・警察官については、所属していた共済組合に年金を請求しますので、すべての被用者年金に関する請求が、ワンストップサービスになっているわけではありません。
 また、共済組合だけにしか加入していない、いわゆる「単一共済者」についても、ワンストップサービスの対象にはなっていません。
 65歳の老齢厚生年金の請求も、それぞれ加入していた実施機関(日本年金機構・共済組合・私学事業団)に請求します。ひとつの実施機関に、65歳になって老齢厚生年金の請求をすると、別の実施機関の老齢厚生年金は、繰下げ請求をすることができません。そのため、66歳になり、別の実施機関の老齢厚生年金を繰下げ受給しようとして、できないと言われ、トラブルになっているという事例も聞いています。一元化後の制度改正の情報が十分に浸透していないこととそれぞれの実施機関から請求書が送付されることが原因なのでしょうか?
 話を元に戻すと、この事例では、国民年金の第3号被保険者期間を有していますので、市役所ではなく、年金事務所で年金請求の手続きをすることになります。もちろん、ワンストップサービスの対象ではありませんので、共済組合や私学事業団では受付をしていません。
 被用者年金制度一元化から3年が経過しようとしていますので、そろそろ全面的なワンストップサービスが展開できるよう、国において、各実施機関と調整しながら、検討をはじめてもいいのではないか、と筆者は認識しています。
 繰り返しになりますが、複数の実施機関に加入期間のある受給権者に対する繰下げ受給については、すべて同時に行うということになっています。ひとつの実施機関に老齢厚生年金を請求すれば、すべての実施機関に対して年金請求をしたことになります(請求自体は、別途する必要がある。ワンストップサービスではない)。65歳の老齢厚生年金を請求する際の注意事項として、あらためて受給権者に注意を喚起するような表記をしておきたいものです。

(2)加給年金額が100円単位となる法的根拠

 加給年金額は一元化前と同じで、100円単位で変わりません。
 根拠条文をみていきましょう。一元化後の厚生年金保険法第44条第2項です(【図表8】参照)。
 加給年金額は、22万4,700円に「改定率」(平成30年度は0.998)を乗じて得た額であり、その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切上げるものとする、と規定されています。
 実際に計算してみましょう。

 224,700円×0.998(改定率)=224,250.60円
 これを端数処理し、100円単位にするという規定は、一元化後も変わっていません。その結果、50円は切上げされ、224,300円となります。

【図表8】 加給年金額が100円単位となる根拠条文

【一元化後の厚生年金保険法】

(加給年金額)
第44条  ( 第1項 略 )
2 前項に規定する加給年金額は、同項に規定する配偶者については22万4700円に国民年金法第27条に規定する「改定率」を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、 これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とする。
(一部文言を筆者が削除する)

加給年金額の配偶者の特別加算は、厚生年金保険法附則(昭60年)第60条第2項

 加給年金額の配偶者の特別加算もみてみましょう。
一元化後の厚生年金保険法附則(昭60年)(*)第60条第2項です。

*昭和60年改正法附則を、筆者はこのように表記します。以下同じ。

 昭和18年4月2日以後に生まれた人(受給権者)の、配偶者の加給年金額には、次の額が特別加算されます。条文をわかりやすい形にして読んでみましょう。

 「昭和18年4月2日以後に生まれた者」については、「165,800円に改定率(平成30年度の改定率は0.998)を乗じて得た額」(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)を加算した額とする、と規定されています。

 まず、165,800円×0.998(改定率)=165,468.40円
 を計算します。
 そのあと、68円は「50円以上100円未満の端数」なので、100円に切上げされ、
165,500円となります。

 このようにして、法律の条文を読み解くと、昭和18年4月2日以後に生まれた人(受給権者)の、平成30年度の配偶者加給年金額は、

配偶者加給年金額 =加給年金額+配偶者の特別加算額
  =224,300円+165,500
  =389,800円

と、導き出されることがわかります。

(3)老齢基礎年金の振替加算の加算額が、1円単位となる法的根拠

 それでは、なぜ、振替加算の加算額は1円単位になるのでしょうか。
 振替加算は、国民年金法附則(昭60年)第14条第1項で、「加給年金額224,300円(平成30年度の場合)に、その者の生年月日に応じて政令で定める率を乗じて得た額を加算する。」と規定されています。
 政令とは、「国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(昭和61年)」で、第24条に率が記載されています。

[率については、タイトルⅠの【図表4】【平成30年度の振替加算の加算額(老齢基礎年金)】の『政令で定める率』の欄を参照ください]

 たとえば、平成30年度に65歳になる昭和28年8月20日生まれの人だと、政令で定める率は、0.280なので、振替加算の加算額は、

振替加算の加算額(昭和28年8月20日生まれの人)
=224,300円×0.280(政令で定める率)=62,804円

 となります。
 一元化前は、ここで端数処理をし、100円単位にしていましたが、一元化後は次のように条文が適用されますので、1円単位になるということになります。
 つまり、この振替加算を規定している国民年金法附則(昭60年)第14条第1項には、加給年金額の条文に規定されていたような、100円未満を端数処理して100円単位にするという規定はありません。一元化前も、です。
 したがって、一元化前は、一元化前の国民年金法第17条第1項の規定により、50円未満は切捨て、50円以上100円未満は100円に切上げて、端数処理をしていたのでした。
 それが、一元化になり、一元化後に受給権が発生したり、額が改定された振替加算額については、当然のことながら、一元化後の国民年金法が適用され、50銭未満の端数は切捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切上げる端数処理を行うことになったのです。
 その結果、昭和28年8月20日生まれの人の振替加算の加算額は、1円単位の62,804円と算定されることになりました。
 【図表4】の【平成30年度の振替加算の加算額(老齢基礎年金)】は、このような端数処理を行い、作成されています。

(4)中高齢寡婦加算が、100円単位になる法的根拠

 中高齢寡婦加算は、厚生年金保険法第62条に規定されています。

 遺族基礎年金の額の4分の3を乗じて得た額その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とされています。

 条文の中に、100円単位にするという規定があるのです。

779,300円×3/4=584,475円

 したがって、ここから、584,475円の「100円未満の75円」を端数処理し、100円単位にし、平成30年度の金額は584,500円になっているのです。
 ここの条文の規定は、一元化後も変わっていません。したがって、中高齢寡婦加算の額は、一元化後も100円単位ということになっています。

経過的寡婦加算の1円単位の根拠条文をたどると…

 経過的寡婦加算は、一元化後の厚生年金保険法附則(昭60年)第73条第1項に規定されています。附則別表第9には、妻の生年月日に応じて、異なる乗率が定められています[乗率については、【図表5】の【平成30年度の経過的寡婦加算の加算額(遺族厚生年金)の金額】の<(ア) 妻の生年月日による乗率>(a)欄をご参照ください]

 経過的寡婦加算の金額は、昭和61年4月1日から60歳になるまで国民年金に加入した妻が、この経過的寡婦加算と妻自身の老齢基礎年金を合わせると、中高齢寡婦加算と同額の584,500円を受給できるように制度設計されています。
 したがって、計算式は少しややこしくて、−(マイナス)とかけ算(×)の四則計算があり、【図表9】のようになります。
 言葉を変えると、昭和61年4月1日の時点で、30歳であった昭和31年4月2日生まれの女性は、60歳になるまで30年間国民年金に加入することができます。
 ということは、昭和31年4月2日生まれの女性は、30歳から60歳までの30年間、国民年金に加入したとすると、779,300円×30年/40年=584,500円(端数処理後の金額)で、中高齢寡婦加算の金額584,500円と同額の老齢基礎年金の年金額を受給することができるということです。そうしますと、昭和31年4月2日生まれの女性には、経過的寡婦加算を加算しなくても、中高齢寡婦加算と同額の老齢基礎年金を受給できるということになります。
 したがって、昭和31年4月2日以後生まれの女性には、経過的寡婦加算は加算されない、という制度設計になっているのです。

 そういう制度設計を計算式で表したのが、次の経過的寡婦加算の算定式になります。

【図表9】 経過的寡婦加算の算定式

 <中高齢寡婦加算の額−老齢基礎年金の満額×妻の生年月日による乗率>

(妻の生年月日による乗率については、【図表5】の【平成30年度の経過的寡婦加算の加算額(遺族厚生年金)の金額】の<(a)>欄をご参照ください)

【事例】で、実際に計算してみてみましょう。

【図表10】 経過的寡婦加算の計算事例

【事 例】

中高齢寡婦加算が加算されている昭和28年8月20日生まれの女性
(平成30年8月19日に65歳)

経過的寡婦加算
=584,500円−779,300円×324/480
=584,500円−526,027.5円
=584,500円−526,028円
=58,472円

 経過的寡婦加算を規定したこの条文には、条文の中に端数処理の規定がありません。そのため、一元化後の厚生年金保険法第35条第1項の条文が適用され、1円未満で端数処理がされ、58,472円となります。

(5)年金給付額の1円単位と100円単位を整理する

 老齢基礎年金の満額については、国民年金法第27条に規定されているとおり、
100円単位の給付額になります。しかしながら、保険料納付済月数等に応じて算定する老齢基礎年金の年金額は、国民年金法第17条に基づき1円単位となります。
 なお、障がい基礎年金の1級については、
 779,300円×1.25=974,125円で、1円単位となります。
 条文の中で、特定の金額が定められている死亡一時金の額(国民年金法第52条の4)や、あるいは、条文の中で、100円未満で端数処理をして100円単位にするという規定がある年金給付額は、100円単位の給付額となりますが、条文の中にそのような規定がなければ、厚生年金も国民年金も、1円未満で端数処理をし、年金給付額は1円単位になります(【図表11】参照)。

【図表11】100円単位と1円単位一覧表

【図表11】100円単位と1円単位一覧表

■共済組合の退職等年金給付は100円単位

 共済組合の新しい3階部分の「退職等年金給付」については、一元化後の地方公務員等共済組合法第144条の26第1項で、「長期給付を受ける権利を決定し又は長期給付の額を改定する場合において、その長期給付の額に50円未満の端数があるときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数があるときは、これを100円に切り上げるものとする。」という端数処理の規定が設けられていますので、100円単位になります。
 旧3階部分の経過的職域加算額については、平成27年地共済経過措置政令第7条において、「50円」を「50銭」、「100円」を「1円」と読替える規定が設けられていますので、1円単位となります。

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