6月下旬からは、旧法の人にも、受給資格期間短縮の黄色い封筒が届きます。
旧法というと、大正15年4月1日以前生まれの91歳以上の高齢者をイメージします。数式で表すと、【旧法=超高齢者】のイメージでしょうか。
しかしながら、新法が施行される前の、昭和61年4月1日前に、障がい年金を受給していた人も、旧法の年金受給者になります(旧法の障がい年金)。
たとえば、昭和27年11月30日生まれの人の場合ですと、昭和61年3月というのは、33歳ですから、33歳で旧厚生年金保険法の障がい年金を受給している事例もある、ということになります。その場合、今年、平成29年に65才を迎えます。超高齢者ではありません。【旧法=超高齢者】のイメージでいると、相談の際にまごついてしまうことがあるかもしれません。
今月は、旧法の障がい年金に触れてみたいと思います。法定免除の関係など、新法と同じではありません。現在の知識で対応すると、思わぬところで、勘違いをしてしまうかもしれません。
旧厚生年金保険法の、障がい年金3級該当!
旧国民年金法の保険料は法定免除か?
~旧厚生年金保険法の障がい年金の算定方法は?~
(1)旧厚生年金保険法の障がい年金(3級)を受給 -読者からの質問-
読者から、次のような質問をいただきました(【図表1】参照)。
回答は簡単なようで、難しいです。みなさんも考えてみてください。
【図表1】読者からの質問
- ■昭和27年11月30日生まれの女性です。平成29年11月で65歳になります。
- ■昭和55年から、旧厚生年金保険法の障がい年金(障がい等級3級)を受給しています。(年金証書の年金コードは[0330]になっていました)
-
■旧厚生年金保険法の障がい年金(障がい等級3級)を受給しながら、昭和55年4月から昭和61年3月までは、国民年金の保険料を納付し、昭和61年4月から60才になるまでは、夫の扶養で、国民年金の第3号被保険者になっています。
(年金事務所の記録でそうなっていました) -
■65才からの年金がどうなるのかということで、年金事務所に行ったのですが、納めた国民年金の保険料が強制加入になっているということで、還付してくれるということになりました。
(ウインドウマシンの画面も強制加入でした) - ■そのとき、相談員の方が、任意加入であれば、[特別一時金]なのだが、と丁寧に説明してくださったのですが、突然のことだったので、よく理解できませんでした。でも、納めた保険料が還付されて、旧障がい厚生年金も引き続き、65才になっても、そのまま受給できるということでしたので、何となく納得して帰ってきました。
Q どうして、むかし納めた国民年金の保険料が還付されたのか、教えてください。
(相談内容はフィクションです)
(2)旧厚生年金保険法の障がい年金は
旧国民年金法の法定免除とはならない!
まずは、新法と旧法の国民年金法の関係条文を読み比べてみましょう(【図表2】参照)。
旧厚生年金保険法の障がい年金を受給している人が、旧国民年金法のもとでは、法律上どのような適用関係になっていたのか、調べてみます。新法と旧法を比べてみることで、その違いがわかるかもしれません。
【図表2】新旧の国民年金法第89条1項2号の法定免除の規定
【新国民年金法】
第89条
被保険者(第90条の2第1項から第3項までの規定の適用を受ける被保険者を除く。)が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、その該当するに至つた日の属する月の前月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間に係る保険料は、既に納付されたものを除き、納付することを要しない。
一
障害基礎年金又は厚生年金保険法に基づく障害を支給事由とする年金たる給付その他の障害を支給事由とする給付であつて政令で定めるものの受給権者(最後に同法第47条第2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態(以下この号において「障害状態」という。)に該当しなくなつた日から起算して障害状態に該当することなく3年を経過した障害基礎年金の受給権者(現に障害状態に該当しない者に限る。)その他の政令で定める者を除く。)であるとき。
【旧国民年金法】
第89条 被保険者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、その該当するに至つた日の属する月前における直近の基準月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間に係る保険料は、すでに納付されたもの及び第93条第1項の規定により前納されたものを除き、納付することを要しない。
一 障害年金又は母子福祉年金若しくは準母子福祉年金の受給権者であるとき。
旧国民年金法を読むと、法定免除に該当するのは、
「障害年金又は母子福祉年金若しくは準母子福祉年金の受給権者であるとき。」
と、規定されているだけで、この 「障害年金の受給権者であるとき」に、旧厚生年金保険法の「障害年金の受給権者であるとき」が該当するのかどうか、パッとみただけではわかりません。
一方、新国民年金法では、
「厚生年金保険法に基づく障害を支給事由とする年金たる給付であって、政令で定めるものの受給権者」という文言が記されており(【図表2】参照)、一定の要件を満たしていれば(障がい等級1級・2級)、法定免除に該当することがわかります。
理解を深めるために、国民年金法の逐条解説を紐解くと、次のように記されています(【図表3】参照)。
【図表3】国民年金法第89条の逐条解説
「昭和61年4月前は、国民年金の障害年金受給権者については、国民年金の保険料は法定免除になっており、一方、被用者年金の障害年金受給権者については、そもそも国民年金の適用が除外されていたため、国民年金の保険料の法定免除の対象になっていなかった」
つまり、旧法の時代においては、旧国民年金法と旧厚生年金保険法は、制度が別々であったため、被用者年金制度の障がい年金の受給権者は、障がい等級にかかわらず、旧国民年金法の適用除外であった、ということなのです。適用除外なので、法定免除になることもない、ということになります。
ただし、希望すれば、任意加入することができました。
この辺の関係を【図表4-1】【図表4-2】に整理してみました。
【図表4-1】旧法の時代の障がい年金の法定免除
【昭和61年4月前】-旧法の時代-
■旧国民年金法の障がい年金の受給権者
➡旧法の国民年金の保険料は、法定免除
□旧厚生年金保険法の障がい年金の受給権者
➡・旧法の国民年金は、適用除外
・旧法の国民年金の保険料は、法定免除とならない
・旧法の国民年金に、任意加入可能
・旧法においては、通算対象期間となる
(新法においては、合算対象期間となる)
【図表4-2】新法の時代の障がい年金の法定免除
【昭和61年4月後】-新法の時代-
★新国民年金法の障がい基礎年金の受給権者
➡新法の国民年金の保険料は、法定免除
☆新厚生年金保険法の障がい厚生年金の受給権者(1級・2級)*
➡新法の国民年金の保険料は、法定免除
☆旧厚生年金保険法の障がい年金の受給権者(1級・2級・3級)
➡新法の国民年金の保険料は、法定免除
本件の質問に関連する箇所だけピックアップすると、【図表4-1】【図表4-2】のように整理されます。
つまり、旧厚生年金保険法の障がい年金の受給権者(1級・2級・3級)は、旧法の国民年金の時代については、適用除外であって、任意加入することができたが、新法の国民年金の時代になると、強制適用となり、障がい等級3級であっても、法定免除が適用される、ということになりました。なお、新厚生年金保険法の障がい等級3級の障がい厚生年金の受給権者は、国民年金の保険料の法定免除に該当しません。
(3)旧法の時代は、旧厚生年金保険法の障がい年金と旧国民年金法の老齢年金は併給できた!
さて、本件の質問者の事例に即して申し上げると、旧法の時代においては、旧厚生年金保険法の障がい年金の受給権者は、旧国民年金法の老齢年金(通算老齢年金)も受給することができました。2つとも受給できる、いわゆる併給が可能でした。
したがって、旧厚生年金保険法の障がい年金の受給権者は、旧国民年金法の国民年金に任意加入することができました。
しかしながら、新法の時代になり、一人一年金の原則によって、旧厚生年金保険法の障がい年金と新国民年金法の老齢基礎年金は併給されなくなり、どちらか1つの年金を選択することとされました。
そうすると、それまで、旧法の時代に、旧厚生年金保険法の障がい年金の受給権者で、旧国民年金法の国民年金に任意加入して保険料を納付していた人たち、あるいは旧国民年金法の障がい年金の受給権者で、法定免除された保険料を追納した人たちは、納めた保険料をどうしてくれるのか、ということになってします。納めたあとで、ルールが変更されて、納めた保険料が掛捨てのような状態になってしまうからです。
そこで、一定の条件に該当すれば、その納めた保険料を、納めた期間に応じて、一定額を一時金として返還してくれる、というのが「特別一時金」という制度なのです。
(4)「特別一時金」とは?
「特別一時金」の制度の詳細については、『国民年金ハンドブック-平成29年度版-』168頁以下(社会保険研究所)・『公的年金給付の総解説-2016年版-』270頁以下(健康と年金出版社)に記述されていますので、該当するような事例に遭遇したときは、一読をお勧めします。
それでは、なぜ、今回、「特別一時金」ではなく、保険料が「還付」されたのかということですが、質問者の場合、すでに述べたように、旧厚生年金保険法の障がい年金(3級)の受給権者ですので、旧国民年金法の国民年金においては、本来は「強制加入」ではなく、「任意加入」のはずです。
それが、当時、手続上の何らかの齟齬があり、「強制加入」という取扱いになってしまっていたのではないか、と推測されます。そのために、「特別一時金」で納付済期間に応じた一定額を支給するということでなく、納付した保険料全額を「還付」する、という取扱いになったのではないか、と推測されます。
■「任意加入」と「強制加入」を間違えるのか?
「発生年月日」は「旧法の時代」、「判明年月日」は「新法の時代」
「任意加入」と「強制加入」を間違えるのか、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
日本年金機構の公表した『事務処理誤り』(平成28年12月分)を見ていたところ、たまたま次の事案が記されていました(【図表5】参照)。
【図表5】『事務処理誤り』(平成28年12月分) ※一部を抜粋・加工
本件は、【図表5】の静岡県〇〇年金事務所の事例ではありませんが、【図表5】の事例は、事務処理のあった時期が昭和53年で、旧法の時代。事務処理誤りが見つかったのが、平成27年ということで、それから37年後の新法の時代ということになります。質問者の事例と時間的経過が似ています。
冒頭に申し上げましたように、6月下旬からは、旧法の時代の人に対する受給資格期間短縮の黄色い封筒が届きます。
むかし処理された手続きで、疑問に思う箇所が出てくるかもしれません。機会があるときに、旧法の時代の年金も紹介していきたいと思います。
■「特別一時金」と「保険料還付」の金額を比較すると…
読者の質問内容を前提に、本稿では、「任意加入」とすべきところを誤って「強制加入」としたがために、「特別一時金」の支給ではなく、「保険料還付」としたのではないか、と推論し記述していますが、それでは、納めた旧国民年金法の国民年金の保険料総額はいくらだったのでしょうか? また、仮に、任意加入をしていて、特別一時金の支給ということだったら、支給額はいくらになったのでしょうか?
筆者が試算すると、【図表6】のようになります。
質問者である読者にとっても、「特別一時金」の支給ではなく、「保険料還付」でよかったのではないでしょうか。
【図表6】「特別一時金」と「保険料還付」の比較
(5)旧厚生年金保険法の障がい年金(3級)の年金額(最低保障額)は、779,300円 ?!
新厚生年金保険法の障がい厚生年金(3級)の最低保障額は、584,500円です。
では、旧厚生年金保険法の障がい年金(3級)の最低保障額も、584,500円なのでしょうか?
旧厚生年金保険法第50条第1項第3号を読むと、障がい等級3級に該当する障がい年金については、「基本年金額の100分の75に相当する額(その額が501,600円に満たないときは、501,600円)」と記されています。
■新法と旧法の障がい年金の年金額の算定方法
ここでいう、基本年金額というのは、①報酬比例部分と②定額部分の合計額のことです。
ただし、旧法の報酬比例部分の給付乗率は7.125/1000ではなく、9.5/1000となります(いずれも本来水準)。また、定額部分の定額単価は3,047円となります(平成29年度の場合)。新法のように、1,625円ではありません。
被保険者期間についても、旧法では、240月未満であっても240月として算定しますが、新法では300月みなしとなります(【図表7】参照)。
【図表7】新法と旧法の障がい年金の算定式の主な違い(厚生年金保険法)
(注1)①の給付乗率については、本来水準のもので、平成15年3月以前に適用されるものである。
ところで、旧厚生年金保険法第50条第1項第3号に規定されている、障がい等級3級の最低保障額501,600円については、昭和60年改正法附則第78条第2項に読替規定があり、平成29年度は779,300円になっていますので、注意が必要です。
なお、今回メールをいただいた質問者である読者に伺ったところ、旧厚生年金保険法の障がい年金(3級)の年金額は、約90万円で、最低保障額779,300円を超えている、とのことでした。
考えてみると、定額部分だけを考えても、
3,047円×240月=731,280円(②)になります。
平均標準報酬月額を200,000円と仮置きして、試算すると、
200,000円×9.5/1000×240月=456,000円(①)です。
そうすると、[①+②]×0.75=890,460円となり、たしかに約90万円です。
一方、仮にということで、、新厚生年金保険法の障がい厚生年金(3級)の年金額を、同じ前提条件で試算してみると、
200,000円×7.125/1000×300月=427,500円(①)<584,500円
となり、最低保障額の年金額が支給されることになります。
(ここでは、いずれも、本来水準で算定。実際は、本来水準と従前額保障を比較し、いずれか多い年金額が支給される)
旧法と新法の年金給付の厚みに、違いがあるのを感じます。
旧法の方に届く黄色い封筒の年金額を試算すると、加入期間は短くても、新法の受給権者とは違い、それなりの年金額になるかもしれません。
旧法の仕組みを勉強する必要性を再認識しています。
【参考文献】本文中に引用した以外のものとして、『障害年金等受給権者の特別一時金』(【ビジネスガイド】2012年5月号)がある。筆者の斉藤智子先生には、本稿を執筆するにあたり、多大なご示唆をいただいた。この場を借りて、深く感謝申し上げます。